私の名はレイコ。夢主人公である。
夢主人公というのは、缶を蹴れば芸能人に当たると言われる東京と同じようなもので、一歩外に出ればフラグが立つ、そういう生き物であった。
「なんでこんなところにいるんですかねぇ…」
コガネの映画館でゼロの執行人を見に行ったら、隣の席にランスがいた。出オチであった。
さすがに落ち着いていられない状況に、私は座って早々苦言を呈す。充分落ち着いてるだろ。
「それはこちらの台詞です、何故わざわざコガネに…」
ランスの言うことも最もだ。確かにヤマブキにも映画館はある、バルト9とかな。でも地元だと知り合いに会うかもしれないと思ってわざわざ出てきたの!そしたらこっちの方が大穴だったってわけ!なんて日だ!
大体なんで普通に映画見に来てるんだ?のんきに日常生活送ってんじゃねーよ。本当だったらお前今頃獄中にいるはずだからな?慎ましく生きろよ犯罪者。お前を見逃すたび私の犯人隠避の罪が重くなるかもしれないだろうが。私も犯罪者だった可能性が微レ存…?
よりによって何でこいつなんだと私は頭を抱える。こいつでなければまだ何とかなった気がしなくもない…何故なら前にどうしてか映画に誘われた事があり、それは暗闇に乗じて私を暗殺する算段だったのではと予測しているからだ。でももしかしたらそれは思い違いだったのかもしれない…一人で映画、しかもアニメである、劇場版名探偵コナンゼロの執行人を見に来ているという事は。
この人、ただの映画好きか?
ランスの趣味などどうでもいい私は、ひとまず隣同士はまずいと、反対隣の人に席を代わってもらおうと声をかけた。差し支えなければ…と丁寧に語りかけた瞬間、ランスは肩を掴んでそれを止める。
「おやめなさい!迷惑でしょう」
お前が言うかロケット団?
どの口でほざいてんだとブチギレた時、劇場が暗くなった。やばい始まった。ここにいてはまずいぞ、まずいけど1800円、無駄にしたくない!この世知辛い世の中!何より100億の男になるかもしれない安室透を私もこの目で目撃したいんだよ!
こうなってしまっては仕方ないので、私はモンスターボールを握りしめて映画を見る事にした。何かあったらポケモンを出そう。そして人殺し!と叫ぼう。安室透に迷惑をかけてしまうかもしれないけど…犯罪者を許してはおけない、その気持ち…安室さんならわかってくれますよね?あむぴの女もわかってくれるよな?心の中で公安を味方につけ、それ以降、私はランスどころじゃなくなるのである。
「あむぴ…」
映画が終わったあと、私は自然にそう呟いていた。あまりの素晴らしさに、スクリーンから目を離す事ができなかった。
様々な感情が溢れ出し、時には涙さえ流しながら安室透の生き様に思いを馳せる。純黒の時には見られなかった彼の姿は、激しく私の胸を打った。
なんて映画だ。なんて男だ、安室透!
これで私も今日からツイッターアカウント名にこう付ける権利を与えられるのだろう、@執行済、と…。
感激が止まらず、隣でランスに若干引かれている事にも気付かないまま、静かに席を立つ。余程あむぴのメスに成り下がった顔をしていたのか、気まで遣われる始末だ。
「…い、いい映画でしたね」
「本当に…豊作続きですよ最近のコナンは…」
去年もよかったもんな…から紅…純黒も泣きながら見たし…コナンにはいつも悲しみがあるけど…でもそれを上回る愛がある…素晴らしいよね。
人の流れに従いながら、何故かランスと並んで歩いてる事などもどうでもよく、ていうかこいつ何もしてこなかったな。いや、無理もないか…安室透のあんな姿を見せられたらね。この国で悪事を起こす気になんてならなくなっただろうと強気に言い放つ。
「安室透を見てどう思った」
「は…?」
「胸を打たれるものがあっただろう!」
力説するとランスは引き気味に話をそらす。
「…ああいうのが好きなんですか、あなた…」
あむぴの事ああいうのとか言わないでくれますか?あの素晴らしい男が好きなんですか?そう聞いていただきたい。
「うん」
あの若さで超エリートだからな。ストーカー、モラハラ、ネグレクト等々を受けてきた身としては犯罪を取り締まる側というだけで好感度は爆上がりである。
ちなみに去年同じ問いをされたとしても同じ事を答えたけどな…あのとき私は平次の女、いや確実に和葉だった。そういうもんっしょ。
「そうですか…」
神妙な顔でそう呟くと、ランスは考え込む仕草をしながら、ではまた…と別れの言葉を告げて去っていった。私も心は安室透にあったので、じゃあね、と軽く手を振ってエスカレーターに乗る。
しばらくして我に返った時、いやまたは会わねーよ!と遠くに向かって聞こえない主張を叫ぶのだった。友達か!