美味い話には裏がある

まずい事になった。

「そんなお金うちにはないよ…!」

それはミアレのストリートキッズとダブルバトルをした直後の事だった。当然のように勝利を収めたあと、カビゴンとカイリューが突如走り出し、明らかに高級料理店と思われる店の前で止まった。看板には、ポケモン入店可、とあり、外に貼り出された本日のメニューを見ながら、二匹は何やら話し込んでいる。私には二匹の声は聞こえない。しかし様子を見るに、ここがあのミシュランガイドの…グルメポケモンが思わず唸った店ですね…的な話をしている気がする。何故なら二人はメタ友、つまりメタボ友達だから。

ポケモンセンターは基本、トレーナー、ポケモン共に飲食代は無料である。
市販のポケモンフーズも、特定のメーカーの食品なら免除されたりするが、こういうところは普通に無理だ。だから私は専らポケセン。山籠りなんかする時は免税店で買うしね。確かに私は今朝まで山で記録を粘ってたよ、味気ないインスタント食品ばかりを口にしてたから、たまにはいいもの食べたい気持ちはわかる。
でもここは高すぎるよ!いくら私がバトルシャトーのグランダッチェスだからってさぁ!入り浸りすぎ。

カビゴンとカイリューの食事量を知っている身としては、絶対に避けなくてはならない戦いである。破産するわ。中の店員に怪しまれる前に帰ろうよ!とカビゴンの手を引いた時、想定していた悲しい事態が起きた。

「どうぞ」

ほらぁ店員出てきたじゃん!
私は思わず目を閉じた。

「あ、いや…でも…」
「ちょうどキャンセルが出ましたので。席は空いております」

キャンセルしてんじゃねぇ!三つ星だぞ!
普段は予約しなければ絶対に入れない店、それをミラクル的に即入店可能にしてしまうのがそう、夢主人公である。
ご親切な店員には悪いが私は貧しい国ジャパンから来た女…いくらバトルシャトーで夢を見たと言っても円安の波には逆らえない…!
すまない!と逃げ去ろうとした時、声をかけてきた店員の顔に見覚えがある気がして、私は思わず足を止めた。顔見知りだと気付いたのは同時だったらしい。

「あ!」
「おや、あなたは…チャンピオン」

痴れ者罵倒奴!と言いかけて踏みとどまった。危ねぇ。ズミさんねズミさん!四天王のね!ちなみに私はチャンピオン辞退済みだからそこんとこよろしくな。
なんでこんなところに?と疑問を抱いた瞬間、ハッとする。

そうか、ここ、こいつの店か!なんか伝説のシェフとか言われてたもんな!伝説のシェフの店キャンセルするか普通!?余程急用だったんだろうよ!親の死に目とか!お悔やみ申し上げる!
料理するのにその襟邪魔では?とかそんな事を考えている場合ではない。ご無沙汰しておりますと適当な世間話をし、その隙に私はカビゴン達をボールに戻そうとした。しかし素性を認知した事で一層客引きが加速したズミは、愛想よく私を店に招こうとする。

「チャンピオンをもてなせるとは…店に出た甲斐がありましたね、普段は空けているものですから」
「でも…お高いんでしょう?」
「ご心配なく。ご馳走しましょう」

マ?めっちゃ食うけどこのメタボたち。
まさかすぎる伝説のシェフの言葉に、私の中で事情が変わった。
嘘…三つ星レストランが…タダ…?そんな事ってある…?私がチャンピオンだから?チャンピオンってすごい。初めてチャンピオンでよかったと思ったわ今。日常的に思えよ。
いやでもさすがに悪いですよ、と一度は謙虚に振る舞おうとすれば、やはりそんなムシのいい話はないようで、ズミはどこからともなくボールを取り出した。

「ただし、あなた方なりの芸術を見せていただければの話ですが」

出たよ、ポケモントレーナー特有の何でもバトルで解決するやつ。仕事中であろうともそのスタイルは崩れない!四天王なら尚の事!おかげで私は飯にありつけるので、生まれて初めてトレーナーでよかったと思うのだった。思えよ日常的に。


当然のように勝利した私は、いつもより五億倍は気合いが入っていたカビゴンとカイリューの食欲に戦慄しながらも、ズミさんが満足げだったのでひとまずは安心した。よかった引かれなくて。

「ポケモン勝負に、一度として同じ瞬間はありません」

感慨深そうに呟き、ズミは私を見据える。これから奢ることになる人間とポケモンの顔を。

「ただそれでもあなたには、他にはない特別な何かを感じてしまうのです」

だろうな。私も感じるわ、強すぎるので。むしろ感じなかったらびっくりするけども。
どうもどうもと頭を下げながら、ドアを開けてくれたズミに喜びを隠せない表情を向けた。
なんか急展開だが…何にしても三つ星である。三つ星…三つ星かぁ…一つ星さえ食べた事ないのにいきなりそんなの食べたら死なないかな…美味死。突然カビゴン達が伝説のシェフの店嗅ぎつけた時は驚いたけども、結果オーライでよかったよ。でも二度とやらないでお願いだから。山籠りのあとはちょっといい店連れて行くようにするから!

「でも嬉しいです…インスタント以外のもの食べるの久しぶりだな…」

水を買い込み原始的にお湯を沸かしてカップ麺を食べ続けた数日が嘘のよう…もう全てのポケモンは洞窟などに住まないでほしい。コンクリートジャングルの快適さを知ってよ。
ひもじい生活を吐露すると、不意にズミの表情が曇った。元々よろしくない目つきがさらに鋭くなり、私に迫ると人生二回目のあの台詞を浴びせるのであった。

「この痴れ者が!」
「ひっ!」

出、出〜!伝説のシェフの伝説のセリフ〜!
またいきなり怒られた!と肩をすくめていたら、ズミの怒涛の攻撃が続く。

「あなたの血や肉を作っているものは何ですか!」
「ご…ご飯です…」
「わかっているなら何故疎かにするのだ!共に戦うポケモンや、あなたとの戦いを記憶に刻み込んだトレーナー達に相応しい生き方をしなさい!」

ド正論すぎて普通に土下座しかけた。返す言葉もねぇ。不摂生な生活が記録のためにやむを得ない場合のみならまだしも、私はニートである。存在がクソであった。生きるは恥だが役にも立たない、星野源も歌わないような人生、それが私だ。
本当にすいません…と目頭を押さえながら謝罪し、三つ星レストランの料理は美味しかったけど、涙の味がしたような、しなかったような。