「あなた、六年後に結婚しますよ」
百発百中の占い師がいるらしいから次の休みに行ってみようよ、初回は無料なんだって!と友人に言われた私は、長蛇の列に並んだ末にそんな事を告げられ、思わず考え込む。
今は花盛りの十五歳、引く手数多のこの私だが、六年後となると話は変わってくる。
「晩婚で草」
「理想高すぎなんじゃね?」
好き勝手言う友人たちはこの占い師を信じているようだが、私はそうではなかった。初回無料がまず怪しかった。
そんなんディアゴスティーニやん。タダにつられた客に気になるような事を言って次から法外な金を取る商売だろ?騙されるわけがない、完全に驚忍の術だろう。こんな手口に引っかかって情けないとは思わないのか?と溜息をつきたいところだったが、周りの客は信者ばかりと思うので、黙って首を傾げるのみだ。
いま巷で話題の占い師は、クソデカい透明な玉のようなものに手をかざして、何かを見ていた。まるでそこに未来でも映っているかのように頷き、じっと眺めている。
あと、私は別に理想高くない。ただまぁ…なんだろ、容姿端麗で文武両道で大手ホワイトキャッスルに就職が決まったこの私と釣り合う男がいるのかな?というだけで、素敵な人なら結婚も全然あり、と思っているわけだが、その占い師が指した相手は、私の描いた旦那様像とはどう考えてもかけ離れていた。
「神経性胃炎持ちO型の教師と」
土井すぎる。ピンポイントすぎる。
「土井先生だ」
「土井先生O型なの?」
「知らねーよ」
でも絶対そうだろ、O型だよ。見たらわかる。俺はそういうの詳しいんだ。
急に心当たりのある人物の事を指され、私は二つの意味でゾッとした。本当に当たるのか?というのと、なんで私の身近な人物を知っているんだ?という怪しさが、より一層この占い師への警戒を強めた。
やっぱり何か裏があるんじゃないか?私達のことを知ってるとしか思えない。じゃなきゃ神経性胃炎持ちの教師は出てこないだろう。まさか本当に当たるわけじゃあるまいし。
いや…当たるのか?当たったらやだ〜。想像もできないし。なんとか私が百発九十九中にするしかないぞ。
半信半疑というか無信全疑の眼差しで透明な玉を私も見つめてみる。自分の美しい顔が映っているだけだ。未来など見えるはずもない。
いくら何でも怪しすぎるから、この占い師の素性を洗った方がいいのでは?と思う私だったけれど、ここで友人がまた信憑性のある事を言い、私を憂鬱にさせていく。
「六年後って…ちょうどアホの一年は組が卒業する頃よ」
ピンポイントすぎるって。当てに行くなって。一区切りついたから土井先生も結婚を考える時期ってか?是非とも私以外で検討していただきたい。
でも私はアホの一年は組の良い子達が無事六年で卒業できるとは全然思わないよ。あと十年は留年する。山田先生は定年で退職できないだろうね。
往生際悪く抵抗する私は、もういいよ、と次の人に順番を譲ろうとした。具体的で気色悪すぎる。誰もおかしいと思わないのか?思うよな?思うけどやっぱりただ当たるだけで怪しいところはないのか?謎だ。なんか逆に捨て置けなくなってきた。
しばらく観察してみよう、と正義感が芽生えた時、もういいと言ったのに占い師はまだ私に絡んできて、話を聞いているだけで疲労がピークに達してしまった。
「これから花とゆめのような…ハーレクインのような…とにかくドラマチックでラブコメディな展開があなた達に訪れるでしょう」
花とゆめはともかく、ハーレクインは嫌すぎるだろ。さぁ女豹のような姿で僕を誘惑してごらん…とか土井先生が言うの無理なんですけど。はんぺんの角で頭ぶつけて死んでほしいんですけど。
脳内で土井先生の作画が崩壊していく中、占い師は私に向かって合掌し、謎の決め台詞をぶち込んだ。
「全てはフォレストサーバー神のお導きです」
何そのかつて夢小説サイトで猛威を振るったような名前の神は。変な信仰宗教作るのやめろ。
「満月の夜に運命が変わる…とだけ言っておきましょう」
それだけじゃなかったけどな。結構いろいろ言ってたけどな。
最後に一礼をした占い師は、ようやく次の人を呼び、そこでもまた奇天烈な予言をして周囲を沸かせていた。少し調べてから帰ろうと思った私は、しばらく観察していたけれど、誰に対しても具体的な台詞を吐き、中には本人以外到底知り得ない事まで当てていたから、段々具合が悪くなってきた。
え?マジで当たるの?嫌なんだけど。土井先生と結婚、考えただけで厳しいんですけど。なんとか善晴の方になってほしいんですけど。
そりゃいい先生だとは思うけどさ…でも所詮優しい人止まりっていうか?面白みに欠けるっていうか?何より生徒に手を出すようには見えない。まぁ六年後なら元生徒だけど…同窓会で久しぶりに会ったら焼け木杭に火がつく的なやつなのかな…血迷っちゃうのかな私…。順風満帆と思われた人生が一気にお先真っ暗になってしまい、学園に戻ってからも心ここに在らずであった。
「元気出しなよ、レイコ。土井先生いい人じゃん」
「他人事だと思ってさぁ…」
私を慰める振りをして笑い者にする友人達に気を取られていたら、走ってきた誰かに廊下でぶつかった。無防備に衝突するくらいだから下級生かもしれない、と倒れないように咄嗟に相手の腰を掴んだら、向こうも同じ事をして、身を寄せ合うはめになった。下級生にしては腰の位置が高すぎる、と思った時、目が合った人物を見て、私は絶叫に近い声を上げた。
「うわ!」
土井先生だった。凄い勢いで離れてしまうと、私の瞬足を先生は即座に咎めた。
「こら、廊下を走るな。危ないぞ」
「いや…先生こそ…」
「確かに…仰る通りで…」
走ってきたのは向こうだったので思わず指摘したら、素直な謝罪が返ってきた。そんな事よりいきなりラブコメディみたいな展開が訪れてしまったことに、私は動悸を速め、絶望も深める。有り得ないくらいの動揺が襲い、こんなに取り乱しそうなのは人生で初めてだった。
どうしよう。当たったら本当にどうする?フォレストサーバー神、殺すか?
「おっと、こんな事してる場合じゃない!」
何かトラブルでも発生したのか、そう言うと先生は結局走り去って行き、お前が走ってんじゃねーかとキレ返す事もできないまま、見送るしかなかった。一部始終を見ていた友人達は、占い通りとも言える珍事に、やがて堪え切れないように笑い出す。
「ハーレクイン展開になった時は教えてよ」
絶対無理。女豹のように殺す。