「当たるよね、あの占い師。僕もどの穴に落ちるかまで聞いていたのに、結局対策できずに落ちてしまったからなぁ」

善法寺伊作の話はこの通り大した事はなかったが、他の生徒に聞き込みをしても、あの占い師は百発百中だと言うばかりで、外れただとかトリックがあるとかインチキだとか有益な情報が得られる事はなかった。逆に聞けば聞くほど、当たったらどうしよう…という不安に襲われる。

というのもあの占いの日から、土井先生と信じられないくらいぶつかっている。注意して歩いていてもふと気を抜いた時にぶつかってる。こんな曲がり角でぶつかるラブコメみたいなのを繰り返してるだけで一体何になるんだと思いはするが、このような事態は今まで一切なかったので、恐怖を感じるのも無理はないだろう。占いを気にしすぎて私の挙動がおかしくなっている説はあるが、それにしたって限度がある。

本当に当たるんだろうか。
本当に当たるなら、私は六年後に土井先生と結婚する事になってしまう。何がどうなってそんな未来になるのか皆目見当もつかない。何故なの?先生とぶつかりすぎて頭おかしくなっちゃうのかな?そんなパンチドランカーみたいな事あるか?
このように考え事をしていると、曲がり角の先から現れるのが、この教師。

「おっと」

ぶつかる寸前で正面から肩を掴まれた私は、本日は初邂逅の相手と目を合わせた。土井先生だ。どの角度から見てもやはり土井先生であった。たまには松千代先生とかとぶつかって跳ね返されてみたいもんだわ。
先生ももはや慣れたもので、最初こそ不審がっていたものの、私とぶつからずに済むとドヤ顔をするまでに成長していた。適応力がすごい。私はこんな事が日常になるのは御免だが。

「今日はぶつからずに済んだな」
「どうもすいません」

適当にやり取りを交わし、もはや無の境地に陥っている私もまた、状況に適応し始めていた。人間って逞しいんだな。
思わず溜息をついてしまうと、土井先生が心配げに顔を覗き込んできて、私は少し身構える。

「最近ぼーっとしすぎじゃないか?」
「それを言うなら先生もでは…」
「確かに…考えることが多くてなぁ…」

胃を押さえた先生も、目に見えぬ力…恐らくフォレストサーバー神の力で考え事をさせられているのかと思ったが、それ以上に強力な胃痛の種、一年は組の良い子たちがいるので、その辺は神を凌駕しているのかもしれない。担任の先生って大変だ。決して給料は高くないだろうに、残業ばかりの重労働。絶対に結婚したくないタイプ。
どう考えても六年後に一緒になる未来が見えない…と改めて先生をじっと見た。困惑の表情が何とも頼りなさげだ。

「ど、どうした」
「いえ…」

顔は悪くないし背も高いけど…でも私生活は相当だらしないって聞くし…私片付けられない人無理なんだよね。あと好き嫌いする人も食への敬意がなくて嫌。なんで練り物食えないんだろ。あんな可もなく不可もなしな食べ物をどうして。
そう思ったとき、急に記憶が降りてきた。

「そうだ…先生」

突然正気に戻った私に先生は一瞬面食らったが、すぐ傾聴の姿勢を見せた。

「今日くの一教室の調理実習があって、出来上がった料理が夕食として出されるんですが…」

午後の授業中、鍋の中で踊る鰹と昆布を見つめていた私は、つい土井先生の事を思い出していた。
そういえば土井先生って、これ食べられないんじゃなかったっけ、と。

「おでん…なんですよ」
「な、なんだって!」

とんでもない事実が発覚したかのような顔をし、先生は後ずさった。ダースベイダーが実の父と知った時のルーク・スカイウォーカーなみに衝撃を受け、頭を抱えている。
そんなにか?おでんキャンセル界隈の事よく知らないからわかんねーや。
とにかく先生には受け入れ難い事実だったようだから、冷静に助言を授けておく。

「外出された方がよろしいのでは?」

言い終わると同時に先生は力強く頷き、言われるまでもない的な表情で決意を固めていた。別に練り物だけ避けてよそってあげてもいいけど、土井先生のためにそんな気遣いを見せたら、友人共にまた揶揄われかねない。余計な事はやめよう。早く出て行ってくれ。
私の情報提供が余程有り難かったのか、先生は安堵の表情を浮かべると、私に向かって手まで合わせる始末だ。

「助かった…命拾いしたよ」

そんなに?命捨てるほどなの?

「ありがとう」

急死に一生を得たような笑顔を私に向け、先生は外出届を出しに走り去っていったため、どうしてそんなに練り物が嫌いなのか聞く時間もなかった。いや別に知らなくていいけど。単なる好き嫌いかもしれないし。
子供みたいだな…と呆れて立ち尽くしていたら、先程のやり取りを急に俯瞰で見てしまい、私は己の失態に気付いて取り乱す。

し、しまった。
今、先生の好感度を上げてしまったんじゃないか?
やったね!バッチリ好印象!じゃねーんだよ。印象サイアクだよ〜!にしなきゃいけなかったのに、一番好感度の上がる選択肢を選んでしまった気がする。馬鹿だ。阿呆だ。出汁に無駄にこだわってしまったため、せっかく作ったのにおでん嫌いな奴に嫌々食べられたくないな…という思いがつい溢れてしまった。私は料理人じゃなくて忍者だというのに。

天性の優しさが出てしまったか…と自惚れながら、占いに翻弄されている愚かな自分を、さすがに戒めようと決めるのだった。

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