Goodbye Happiness

レイコへ

縁談あります
一回り上ですが高給取り忍者
山田先生系のハンサム顔
検討よろしく


「山田先生系のハンサム…」

抽象的すぎる両親からの手紙に、私は首を傾げていた。
忍術学園も今年で卒業、できるだけいい城に就職しようとなっている時期に、何故か見合いを勧めてくるという暴挙に出始めた親の怪文書は、日に日に不気味さを増していた。

また縁談の手紙か、これで何度目だよ。まず山田先生系のハンサムって何?顔長いってこと?それともミホークみたいな髭でもあるのか?何にせよ一回り上はちょっとな…話合わなさそうだし、ジェネレーションギャップすごそう。こっちの青春はミセス、あっちはサザンって感じになりそう。
突然のお見合いブームに眉を顰めながらも、忍者をやめて結婚してほしいと願っているのかもしれないと思ったら、何となく無下にはしにくかった。しかしうちの両親もガチガチにギンギンでバチバチな忍者である。立派な忍者にするために私を忍術学園に入れたんじゃないのか…?と矛盾した行動を怪しんでいたら、突然何者かの気配を感じ、私は勢いよく振り返った。

「うわ」

真後ろに立っていた人物に驚いて、思わず声を上げてしまった。そこには、正真正銘山田先生系のハンサムがいたからだ。

や…山田利吉さんだ。山田先生の息子さんだ。
いつの間に背後に立っていたんだ?ホラーすぎるだろ。全然気付かなかった。
驚く私を気にもせず、利吉さんは人の手紙を盗み見ている。いや今となっては堂々と見ているが、私と同じところに引っかかったようで、顎に手を当てて首を傾げた。

「…顔が長いってこと?」

僕も同じこと考えてた、とハンス王子になりながら、静かに手紙をしまった。


火縄銃のテストの日、風邪のため目鼻が使い物にならず、私は追試を受けるはめになっていた。聞くところによると、一年は組も同じ日に火縄の補習があるらしい。絶対荒れるな、と素直に思った。一年は組と一緒にいるとろくな目に遭わないというのは有名な話なので、一体何が待ち受けているのか…と危惧しつつ、当日を迎えたのだけれど、その心配は杞憂となった。

追試は日没後、夜間訓練だった。昼間に山田利吉さんが来て、手紙を盗み見したあと、私の追試は彼が見てくれる事になったと聞かされた。追試よりも一年生に混ざる方が心配だったから、正直有り難かった。利吉さんがあまり乗り気ではなさそうな様子だったとしても、全然助かる。

「君って…蛍を撃つのは可哀想とか言うタイプ?」
「え?いや」
「なら良し」

手紙の件や顔が長い件には触れずそう言うと、利吉さんは蛍を獲りに行こうと私を連れ出した。どうやら私の追試は夜の闇に光る蛍を撃つ訓練らしい。なら良しって何だったんだろ、誰かに反対でもされたのかな。
利吉さんとは今日初めて話した。遠目に見かける事はあったけれど、別に用もないので喋る必要もなかった。プロの忍者だし神経質そうで近寄り難い印象があったが、話すと案外普通で、ジェネレーションギャップもなさそうである。

沢に沿って歩いていると、蛍を見つけて籠に入れた。密集地帯があったので熱心に捕獲していれば、他愛ない話を投げられる。

「六年生ならもう就職活動してるのか?」
「はい。私はまだ何も決まっていませんが…」

同級生が続々と内定をもらっている中、私はまだ迷っていたので、諸々を保留にしている。
忍術学園できっちり六年間学んだくの一は貴重な人材である。就職に困る事は正直ないのだが、両親からの怪文書に悩まされている私としては、次の休みに真意を聞くまで決められないと思っていた。結婚してほしいのか、就職してほしいのか、山田先生系ハンサムとは一体何なのか…解決しないと進めない。
中途採用でも別にいいしな…と適当な事を考えながら、別の選択肢が目の前に存在するため、ついでに内情を聞かせてもらった。

「フリーの忍者ってどうなんですか?」
「大変だよ。仕事は選んでられないし」
「マネージャーとかは…」
「いないよそんなもん」

いないんだ。全部自分で管理するのって大変そうだな。
私は言われた事を粛々とこなす方が向いている気がするので、やはり就職が無難だろうと第一志望を脳内進路希望調査票に書き込んだ。次点で結婚だが、それも別に向いているとは思えない。一通りの事はできるけれど、他人と一緒に生活する想像はつかなかった。
とはいえいつかはするのかな…と思ってはいるので、それが早まるだけという考え方もできる。

「最近は忍者じゃない選択肢もあるのかもと思ってまして…」
「さっきの手紙?」

苦笑する利吉さんは、盗み見た事を一切悪びれもせずそう尋ねた。私が外で堂々と読んでいたから仕方ないかもしれないが…いや仕方ないか?普通見ないだろ。見たとしても謝るだろ。それとも山田先生系ハンサムに囚われて戻ってこられないのか?私もなんだ。別に山田先生がハンサムでないと言ってるわけじゃない、何をもってして山田先生系と言ってるのかが気になっているのだ。

待てど暮らせど勝手に見ちゃってごめんね、の言葉はやってこなかったため、そうです、と怒涛の見合い話攻撃を受けている事を説明し、そしてそれがいかに意味不明かを利吉に訴えかけた。

「でも、両親も忍者なんですよ」

忍者だから娘を忍者にするべく忍者の学校に入れたのに、忍者をやめて結婚しろというのは正気の沙汰ではない気がする。しかも卒業目前でだ。もしかして何かあったんだろうか?私が気付いていないだけであの手紙は暗号文だったりするのか?両親からのSOSが綴られているとか…?
そこまで考えて、父と母が私に助けを求める事はないと思い直し、首を振る。二人とも優秀な忍者だ。忍術学園で学ぶほど、それを痛感する。
じゃあこの怪文書は一体何なんだと振り出しに戻ったところで、蛍を籠に放りながら、利吉はシンプルな答えを私にくれた。

「心配なんだろ、忍者だから」

その言葉に、何だか説得力を感じた私は、驚きながらも腑に落ちた。きっと利吉さんも山田先生からそういう気持ちを感じてるんだろうと思ったら、急に身近な存在に見えた。

そうか、心配なんだ。私が忍者になって危ない目に遭う事が心配なのか、父も母も。

両親は共に忍者、しかも派手なタイプの忍者である。怪我をせず帰ってくるなんてことはほぼなく、忍術学園に入るまでは、家も一つ所にとどまらず転々としてきた。抜け忍なのか?と思った事もあった。でもどうやらどこかの城には属しているようで、しかしきっとまともな殿様ではないのだろう。娘を忍者にしたくないと思うくらいには。

途端に、忍者にならない方がいいのかな、と気持ちが傾いてしまう。でも縁談の相手も忍者なんだよな?山田先生系ハンサムの。心配なら絶対一般人と結婚した方がいいだろ。コンサルとかを紹介しろよ。
何にせよ、今日は利吉さんと話してよかった。ちょっとだけ怪文書の意味もわかった気がしたし、追試に合格したらよく眠れそうだ。

気付いたら気味の悪い数の蛍が集まっていたため、私は籠を振りながら、昼間だとただの虫にしか見えない黒い塊を凝視した。

「どれだけ捕まえたらいいですか?」
「君が必要な数だけでいいよ」

自信がないならたくさん獲っておけという事か。利吉さんの追試厳しそうだな。でもせっかくなら火縄の上手い人に見てもらいたいから、この機会を逃す手はない。いろいろ教えてもらえたらいいな。

「じゃあもういいです」

しかし火縄は、私も得意だった。普通に受けていれば追試などなかったくらいには。


---


「なんだ、上手いんじゃないか」

蛍の光が消えるのを見ながら、利吉さんは感心したように声を上げる。やめろとは言われていないので、弾丸を装填しながら一瞬だけ相手をチラ見し、照準を合わせた。
蛍の動きにも規則性がある。山奥に住んでいた時は、夜毎に川辺で蛍を眺めていた。

「父は若い頃、兼業でマタギをしていた時期がありまして…」

決してスケベすぎるタイプのマタギではないが、その影響で私も子供の頃から火縄銃には縁があった。忍術学園に入るまでは、両親が先生みたいなものだった。
利吉さんもそうなんだろうな、と思って視線を向けると、合図があったため銃を下ろした。私達の間を光が通り抜けていく。

「まさか君も撃つのかい、熊」
「いえ…女は山には入れませんし」

恐ろしい事を言う利吉に、私は首を振った。もしかしてすごいサラブレッドだと思われたんじゃないかと慄いて、実技はよくても教科はいまいちだから焦った。熊ともエンカウントして逃げた事があるくらいだ。撃てるわけがない。

「蛍は撃ってましたよ」

ささやかな功績を伝えると、利吉さんは笑っていた。爽やかな笑顔だ。いつもこうなら好きになっちゃうかもな。

「おかげで早く済んだ」

そう言われ、いつの間にか追試が終わっていた事を知った私は、小走りで利吉の元に駆け寄った。数匹撃っただけだったがあれでよかったのか。面倒臭くなったのかな?それとも十分実力はわかったのか。これで不合格つけられたらさすがに山田先生に泣きついちゃいそうだけど。

何にせよ早く帰してあげなくては。利吉さんは売れっ子忍者、忙しい人である。時間を割いてもらった礼を言い、追試が終了した事を報告するべく踵を返す。

「山田先生を呼んできます」
「まだいいよ、あっちは荒れてそうだから」

利吉さんがそう言った時、一年は組が補習をしている方角から、土井先生と山田先生の怒号が聞こえてきた。大荒れの模様に、確かに今行くのは得策ではないと思うものの、は組を待ってたらいつまで経っても終わらないだろう。キリのいいタイミングで突撃する計画を立て、耳を澄ませながら、空を舞う蛍を捕まえて籠に入れる。
すると、そんな私を見ていた利吉さんが、不思議そうな顔で声をかけた。

「捕まえてどうするの」
「元いたところに帰してやろうかと」
「どうして?」

悪気も何もない感じで聞かれると、私も困った。その方がいいかな、と思っただけだからだ。勝手に獲ってきて撃ち殺して放置というのも目覚めが悪いだろう。蛍を撃つのは可哀想と思わなくても、こんな火薬の匂いの立ち込める場所に置き去りにするのは、何だか気の毒に思えたのだった。

「…蛍が可哀想じゃないですか?」

言葉に困ってそう言うと、利吉さんは目を見開いたあと私に近付き、眉を下げて不可解な視線を向けた。

「君って…忍術学園で上手くやれてる?」

どういう意味やねん。絶対失礼な意味だろ。

「くの一教室のわりに棘がないというか…」

そういう一言余計なところが嫌われるのでは?と言うのはやめておいた。私も人の事は言えなさそうだからだ。
利吉さんの中でくの一教室のイメージがかなり尖っている事はよくわかった。実際そういう部分もあるし、みんな大体に気が強い。確かに私はおとなしい部類に入ると思うけど、だからといって別に不自由を感じた事はない。調和を乱さないのが女社会である。

「みんなが本当はどう思ってるのかはわかりませんけど…それも含めて上手くやってますよ」

一年は組のようなトラブルとは無縁である事をアピールし、くの一教室は利吉さんが思ってるような刺々しい場所ではなく、忍たま達と同じで良い子たちの教室だと主張した。私は同級生も後輩も好きだ。気が合わない子もいたけどそれはそれで別に構わなかった。
そもそも忍術学園にいる連中なんて先生も含めてみんなどこか変わってるし…。利吉さんを見ながら山田先生を思い浮かべて、変わってる先生の息子もやっぱり変わってるよな、と視線を合わせた。すると相手は何故だか愉快げに微笑んでおり、自分だけ納得した風に私の肩を軽く叩いた。

「やっぱり忍者向いてそうだから、やってみたらいいんじゃないか」

どこでそう思ったんだ。絶対失礼な意味だろ。

「蛍、逃がしに行くなら私も行くよ」

そう言うと、利吉は残りの蛍を捕獲し始め、全ての光を籠の中へ閉じ込めた。だったら帰るついでに放してきてくれたらいいのにな、と思う私だったが、利吉さんにそう言われると少しその気になってしまい、見合いは保留にする方向に決めるのだった。


/ back / top