買い出しに行こうと街をうろついていたら、ロケット団以外の何者でもない二人組が堂々と歩いていたので、私は思わず二度見した。
なんで反社が風を切ってパシオの街中を歩いてるんだよ。取り締まれよ。もしくはその服やめろよ。目立ちすぎだろ。捕まえてくれって言ってるようなもんじゃねーか。
下っ端と思われる団員とすれ違ったが、この世界で私は何も成し遂げていないので、当然因縁を吹っ掛けられる事もない。平和だ。いやこんな奴らがうろついてる時点で平和ではないんだけど、でもただコスプレをして歩いてただけだと言われたら何の罪にも問えないし、野放しにするしかないのが現状である。
まぁでも一応尾行しておくか…不審者は追えとライヤーにも言われてるし…ニートするのに忙しいけどそれはイコール暇という事だし…このまま見逃すのも夢見悪いしな。何だかんだと悪を放置できない主人公気質ニートであった。
しばらくパンピーの顔をして後ろをマークしていると、ロケット団の下っ端はガヤガヤとしたアミューズメント施設へと入っていた。誰かが誘致したナムコのゲーセンである。
あの格好でゲーセン?まさか呑気にクレーンゲームでもするわけじゃあるまいし、これはひょっとするとポスターの裏にスイッチパターンなんじゃないか?かつての悪行を思い出し、私はしばし入口近くで様子を窺う。
地下にアジト…なんてあるわけないよな?タマムシのゲームコーナーみたいに。だって天下のバンダイナムコだぜ?ロケット団と繋がってたら大不祥事だろ。もしそうだとしたら、単にここの管理者が個人的にロケット団と繋がりがあるのか、もしくはロケット団が目的のために団員をナムコに入社させて潜り込ませたか…。インテリヤクザみたいなことやってんな。犯罪を複雑化させるんじゃねーよ。
何か事件を起こす気かもとしばらく待っていたが、特に何の騒ぎも聞こえてこない。入ってみるか?何もなければクレーンで遊んで帰ればいいし、何より今の私はただの一般人…うろついていても怪しまれる事はないだろう。
そうと決まれば早速両替だぜ!と遊ぶ気しかない私を、突然誰かが呼び止めた。この世界で知り合いに声をかけられるのはまだまだ慣れない事なので、必要以上に驚いてしまった。
「レイコちゃん」
「うわ!」
昭和の漫画なみに飛び上がって驚きを体現する私は、話しかけてきた人物を見てさらに驚愕した。それは、あまりにもゲーセンに似つかわしくないマントだったからだ。
「驚かせてすまない、俺だ」
「わ、ワタル!さん…」
ワタルだ。上から下までワタルすぎる。なんでワタルがこんなところに現れるんだよ。お前もロケット団なみに街中にいていい風貌じゃないだろ。
突然のマントに驚きすぎて絶句している私は、何故主人公でもないのにこんなSSRみたいな人物とエンカウントするのかと頭を抱える。いや主人公なのか?私にも主人公のチームスキル付いちゃってんのか?
こっちでは二回くらいしか顔を合わせてないし、そんなに気安く話しかけられる仲ではないと思うのだが、一体何用なんだろうか?いや私の世界でも気安く話しかけられる仲じゃねーけど。他人。全然他人。
「君も彼らを追ってきたんだろう?」
「あ、ワタルさんもですか?」
頷いてたなびくマントを見て、私は理解した。
なんだ、こいつもロケット団を尾けてたのか。ロケット団を尾ける私を尾けてたわけね。こんな怪しげなマントに尾行されてたのに気付かないとは…不覚すぎる。私の主人公力も落ちぶれたものよ。
それならここはワタルに任せて帰るか、とすぐサボり癖が出る私であったが、私がそのようなクズである事を知らぬワタルは、当然のように協力プレイを強いてくる。
「様子を見に行こうか」
あ、二人で行くわけね。ワタルと手分けして行動して良かった事なんか一度もなかったんですけどね。絶対一人でも大丈夫だと思うんですけどねあなたはね。
渋々ワタルに続き、世界一ゲーセンの似合わない男に苦笑したあと、ざっと辺りを見回してみる。
いないな、ロケット団。入ったのにいないのはおかしいんじゃないか?出てきたところは見てないから、どこにもいないとなるとバックヤードか、本当に地下アジトかもしれない。
そうなると面倒だぞ…とうんざりした気分になり、しかしまだ希望はあると私は奮起した。
「ちょっとお手洗い見てきます」
「じゃあ手分けしよう」
死角のない場所にも必ず個室はある…それがトイレだ。男子トイレはワタルに任せ、私は個室一つ一つをチェックしながら、誰もいない事を確認し、鏡で髪の乱れを直して溜息をついた。
いない…ロケット団どころか客もいない。隠し扉っぽいものもないし、喧騒から外れた普通のトイレだ。掃除も行き届いている。ここが反社の施設だったら嫌すぎるんですけど。だってライヤーに報告しなきゃならないじゃん。絶対そのまま調査を命じられるって。面倒すぎるって。やっぱ放っとけばよかったな〜ワタルにも絡まれるしなんて日だよ今日は。買い出しなんかやめてヨドバシで注文するべきだった。引きニートは外に出ていい生き物じゃなかったんだ。
後悔してももう遅い。となるとあとはバックヤードか地下アジトに潜んでいる事になるが…どちらにせよここの店員がロケット団と繋がってる確率は高いな。最悪だ。もうここで遊べないじゃないのよ。
いやでもまだ男子トイレという望みがある。そっちで連れションしてる可能性だってあるじゃないか。とりあえずワタルと合流しよう。
空振りだった女子トイレから出ると、近くにワタルはいなかった。どこ行ったんだあのマント野郎。まさか男子トイレでロケット団を見つけて戦闘になったりしてないよな?入ったら破壊光線ぶちかましてたあの光景をまた見る事になったりしないよね?トラウマなんですけど。
とはいえ男子トイレに入るわけにはいかないので、とりあえずその辺を歩いてワタルを探す。すると、クレーンゲーム機の前に見覚えのあるマントがあり、娯楽施設には場違いすぎるその姿に近づきたくないけど近づかざるを得なかった。
いた。クレーンやってやがる。クレーンでカイリューのすやすやぬいぐるみを取ろうとしてやがる。全然取れてないけど。
遊んでる場合か!とド突きたい気持ちをこらえ、クールに業務報告をするのみにとどめた。今は大人になる時だった。
「誰もいないし怪しいところもなかったですね」
「そうか…こっちもだったよ」
あちらも空振りだった事を告げられ、いよいよ反社ゲーセンとなりつつある事に絶望する。
もう絶対地下じゃん。ポスターの裏のスイッチじゃん。さっき通りがかった時にあったよポスター。自販機と観葉植物の間に一箇所だけ画鋲の外れたポスターあったよ。絶対あれ。確信に変わった。変わってほしくなかった。
唸る私の横でアームを操作するワタルは、一向に掴めないぬいぐるみにもめげずにコインを投下し続ける。まだやるのか?それ金使わないと取れないタイプのやつだよ。働きもせず遊んでばかりの俺は詳しいんだ。
「でも目星はついてるんだろう?」
掴めないカイリューぬいぐるみに目を向けたままワタルにそう聞かれ、何でわかったんだと思いつつ、一般客に聞かれないようこそこそと耳打ちした。
「奥の自販機の横のポスター…裏にスイッチが隠されてるんじゃないかな…と」
「詳しいんだな」
「滅相もない」
急にロケット団に精通した奴みたいに言われ、不本意すぎて即座に首を振った。やめて、私までカタギじゃないみたいに言うの。ここでは何の功績もないまっさらな人間なんだよ。一般通過ニートなの!人に破壊光線を打ったりもしない!
一般通過ニートがポスターの裏のスイッチを秒で見抜けるわけがない事はさておき、ワタルと何故こんなところで遭遇したのかという疑問が本人から語られ、やっぱり放置しておけばよかったと再三思う。
「最近この辺りでロケット団をよく見かけるようになった…また何か企んでいるのかもしれない」
企んでない時なんかないだろ。正月から征服始めるようなボスだぞ。休めよ。
「ここに入っていくのを見たのも三度目なんだ」
「じゃあ確実にアジトあるじゃん」
思わずタメ口になるほど、私の精神は疲弊していた。
つまりワタルはすでにここに出入りするロケット団を調査してたって事なんだな?そうとは知らず尾行したりなんかして…マジで放っとけばよかったぜ。全てをワタルに任せておけば私はサボれたのに謎の主人公スキルのせいでつい足を突っ込んじゃって…己の正義感が憎いよ。何だかんだ言いながら悪事を見過ごせない性格の良さがあったばっかりに…こんな事に巻き込まれて…私の性格が天使のように良かったせいでこんな…聖人君子だったせいでこんな…ついでに絶世の美女だし…次に生まれ変わる時はもっと自分本位なニートになるわ。今もだろ。
「この件はみんなにも報告しておくよ」
「私もライヤーに言っておきます。たぶん管理者の情報とかも持ってるだろうし…」
気が乗らないけど仕方がないと諦めたその時、ようやくカイリューのすやすやぬいぐるみをアームが掴んだ。思わず声を上げ、可愛らしく寝そべるドラゴンが落ちていくのを見守る。
やっと取れたか。一体いくら使ったんだよ。でもわかるよ、こういうの意地になってついつい取れるまでやっちゃうんだよな。あとで後悔するとわかっているのに。クレーンを前にすると理性がなくなる、それが人間よ。ワタルにもそういうところがあるんだな…と勝手に同類認定していたら、取れたぬいぐるみを何故か手渡され、私は困惑の声を上げる。
「え?」
なに?荷物持ち?マントの裾も持ちましょうか?
「ロケット団には大人しくしていてもらいたいところだけど…君のカイリューの活躍が見られるのは悪くないな」
悪いわ。辺り一面焼け野原になる破壊光線なんて極力使いたくねーよ。龍の穴育ちを舐めるなよ。サファリで釣れるミニリュウの比じゃないくらい好戦的だぞ。
ここで戦闘にならなくてよかった…と安堵すると共に、ワタルから私のカイリューが一目置かれていると知って、なんだか少しいい気分だ。
よかったなカイリュー、男前に認められるとさぞかし鼻が高いだろう。だからってあんまり張り切りすぎるなよ。お前の破壊光線はパシオに風穴を開けるくらいやばい威力がありそうな事に私は気付いているからな。なんで私のポケモンは常に殺戮のリスク負ってんだよ。怖すぎだろ。
お開きの気配を察知したのだが、渡されたカイリューぬいについてワタルから言及がなく、どうしたらいいかわからない私はろくに言葉も発せられぬままただただテンパっていた。
で?こいつはどうすれば?サロンにでも飾るか?信じられない金額使ってた事は黙っておいてやるよ。
「あの、これ…」
「あげるよ、君のカイリューに似てるだろ?」
いや全然似てない。こんな穏やかに寝ないから。人斬り抜刀斎みたいな寝方だから。寝ぼけてしんそく繰り出されて骨折れかけたから。ただの危険生物。
「ありがとうございます…」
しかしワタルから見ると私のカイリューもただの可愛いドラゴンポケモンらしい。やっぱそれくらいの器がないとチャンピオンは務まらないんだろうな。私も面食いカイリューを広い心で可愛がれるくらいの人間性を得ないとね。タイプの男見つけたら命令も聞かずに付いていってしまったとしても許してあげなきゃね。いや許せるか。そこからトラブルが舞い込んでくるんだよ、おとなしくしてろ。
まぁでもこれに似てるって言われたから、今日はきっと可愛い姿勢ですやすや眠る事でしょう。そういう単純なところは素直に可愛げを感じられる私であった。