パリコレなみのパシオ

なんだ?あの私にディスられるために存在しているような衣装は。

パシオでは、通りすがりにポケモン勝負を繰り広げているバディーズ達がわりとその辺にいる。ギャラリーの間を抜けて私はいつも素通りしてるんだけど、最近気になっている事があった。

何?あのコスプレ。コスプレだよね?普段着って言われたらどうしよ。絶対顔見知りになりたくないかも。
シロナさんとかダイゴさんとかビッグネームな人達から、メイちゃんやヒビキくんなどド田舎出身のトレーナーまで、とにかく幅広い者共が普通の顔してコスプレを晒している。これは一体どういう状況なんだろうか。イケてると思って着ている…のかな?そうだとしたら私はこの世界のファッションセンスについていけそうもない。ついていきたくもないし。
ていうかまぁ常識で考えて何かのイベント的な…パシオでは正統派な衣装みたいな…そういう事だと思うんだよね。でなきゃ本当に帰るよ私。ライヤーを人質にしてフーパに無理矢理帰してもらうしかなくなるよ。思わず人を犯罪者にしてしまうような衣装、それが何なのか、確実に知っている人物の元へ私は飛んだ。

「マジコスの事か?」

名前からしてやばそう。もうこれ以上聞きたくないかもしれねぇ。だって絶対私向きじゃないから。マジもコスも私とは縁遠い言葉でしかないからな。
屋敷に帰ってライヤーに聞いてみると、やはりすぐに答えは降ってきた。どうやらあのコスプレはマジコスと言うらしい。祭りの時に法被を着るみたいに、応援団が学生服を着るみたいに、パシオという特別な環境で着る衣装…そういう感じなんだね?

普段着じゃないならよかったわーと安堵する私だったが、何を勘違いしたのかライヤーは別角度から攻めてきて、この話をした事を激しく後悔するはめになる。

「お前も欲しいのか?」
「いや…」
「ちょうど次のイベントのために雇ったデザイナーが来ていてな、そいつに頼んでやってもいいぞ」
「いやいや…」

いらない。本当にいらない。心からいらない。Tシャツとジャージでいい。グズマスタイルで私は全然構わないよ。

遠慮とかじゃなくて、本当に本当にいらなかった。マジコスが何だか知らないが、とにかく大丈夫だ、あそこまで突き抜けるのは私には無理だからだ。
いや別にいいよ?どんな服を着ても自由だし。シロナさんいい年してあの衣装は大変だな…とか別に思ってないし。全然思ってないし。似合ってるしいいよね。でも私はいいわ。本当に厳しいので。
というのをオブラートに包み、私は全力でお断りのポーズを取った。

「ああいうの着こなせる気がしないし…私はいいよ」
「フッ、貴様はマジコスの何たるかをわかっていないようだな」

わからなくていい。あれを着るくらいならわからなくていいんだよ。むしろわかりたくないの、あの衣装に尊い意味があればあるほどつらいのよ。着ない言い訳がしづらくなるのが本当にキツい。それくらい着たくない。

「マジコスとはポケモンとの結びつきを強め、トレーナーの新たなる可能性を引き出す特別な衣装だ。協調性のない貴様のようなトレーナーこそポケモンとの一体感を感じてみたらどうだ?」

大きなお世話すぎる。誰が協調性ないんだよ。私だよ。その通りだ。何の反論もできん。
失礼すぎるライヤーの説明により、大体の事情は把握した。
なるほどね、ポケモンモチーフっぽいコスプレだったのはバディとの一体感を得るためであったと…。でもそれが何だ?って話なんですけど。そんな事しなくても私とカビゴンの一体感は誰にも負けないよ。食っちゃ寝食っちゃ寝の精神で何よりも強く繋がっているんですからね。そんなこと誇るな。

一体感より恥の意識の方が勝るに決まってるがな…とは言わずに、どうやってお断りしようか考えていれば、ライヤーは私の前に立つと、上から下へとゆっくり視線を流した。

「そうだな…お前のバディなら…」

考えてる!私のコスプレ衣装の原案考えられてる!
いいって!本当にいいって!ルカリオモチーフの厨二っぽい衣装なんかが出来上がった日には失神しちゃいそうだよ!そのまま心臓の波動止まっちゃうよ!
アイディアマンのライヤーの目にとまってしまった事に、私はひどく絶望した。ジョブチューンで全員合格を叩き出す商品ばかり作るローソンの商品開発部エースみたいな男だ、そしてフットワークも軽い、金もある、閃いたら絶対実行に移してしまうに決まってる。

頼む、このニートに似合うのはマジコスではなくジャージだと気付いてくれ…!ジャージこそが最も私達らしい衣装だから…!ニートの可能性を最大限に引き出す一張羅だから…!どうしてもマジコスを作るってんならジャージ形式にしてくれよ。背中に破壊光線の刺繍が入ってたとしても着るから。そのあとでこの屋敷を破壊光線で粉々にするから!

マジでライヤーのセンスにだけはついていけない私は、散々じろじろ見たあとに呟かれた一言で、覚悟を決める時が来たかもと天を仰いだ。

「…わりと何でも似合いそうだな」

似合ってたまるか。お前の想像する奇天烈な衣装が似合ってたまるかよ。お前鏡見た事ある?すごい格好してるぞ。この衣装でいいと思ってるからそんな格好してるんだよねライヤーは?その…本当…CV宮野真守のために作られたキャラデザみたいな格好がイケてると思って着てるんだよね?だとしたら一生分かり合えないと思う。今夜お前を人質に取ってフーパに元の世界へ帰してもらおうと思う。

引いている私と何故か上の空なライヤーだったが、突然正気に戻り、ハッとしたように口を開く。まるで自身の想像するマジコスレイコに見とれていたかのような反応に、もはや衣装製作は不可避だと感じた。勝手に脳内で私を美化、いや悪化させるな。ジャージの私が最も美しいと何故気付かない。

「…とにかく、この俺様に任せておけ!楽しみにしているがいい!」

マジでいらんこと言ったわ〜聞くんじゃなかった〜ポケマスのウィキペディアで調べればよかった〜。後の祭りを嘆いても仕方なく、かろうじて私は、協調性ないから着ないと思う、と嫌味を自虐で返すのだった。