たまやのパシオ

ライヤーの屋敷で夜食を調達していた私の耳に、花火の音が飛び込んできた。

なんだなんだ?東京ディズニーランドかここは?夏でもないのに隅田川花火大会か?
窓に視線を向けてみたが、木が邪魔していて何も見えない。今日は、というか今日も一歩も外に出ていないため、私には街の状況が何一つわからなかった。

あ…そうだ、そういや今日なんかの祭りだったかもしれねぇ。ライヤーに行ってこいって言われてたけど結局怠くて忘れてたわ。

パシオはとにかくイベントが多い。毎日何かやってんじゃないかってくらいとにかく騒がしいので、私も次第に外に出るのが億劫になっていた。元々億劫なことは言うまでもない。

こんな時間だけどまだまだ人多そうだな〜なんて思いながら部屋に戻ろうとしていれば、ちょうど帰ってきたらしいライヤーと遭遇した。お勤めご苦労様です、と声をかけたが、向こうから挨拶らしい挨拶が返ってくる事はなかった。

「おい」
「はい?」
「貴様…祭りはどうした祭りは!」

怒られた。私が引き篭もっている事を親よりも怒ってくる男、それがライヤー。もしかしたら私はこのパシオの地で彼に育て直されているのかもしれない。こんな第二の人生嫌すぎる。

「いや…忘れてたというか…人混みは苦手というか…」

もはや何を言っても怒るだろうが、とりあえず言い訳はしておいた。
WPMはチーム戦、バディーズ同士の交流はかなり重要なので、ライヤーはとにかく私に他のトレーナーと関わらせたいようだが、私はとにかく誰とも関わらず過ごしたいので、両者の意見は真っ向から対立していた。
とはいえ居候である私の立場の方が圧倒的に弱い。大した働きもしないカスニートである。ちゃんと言う事を聞いた方がいい事はわかっていた。別にライヤーだって無理難題を言ってるわけじゃないしな。きちんと人間らしい生活をしろと叱責しているだけで。親か?

「全く…!今からでも遅くはない、さっさと行け!」
「ええ〜…」
「お前を探している奴も何人かいたぞ、早く行け!」

絶対ろくな奴じゃないだろそれ。怪しい草とか売りつけようとしてるウォロだろ。知り合いがいなさすぎて他に考えられない。
やっぱり行くべきじゃないと強く感じている私をよそに、ライヤーは強引に私を屋敷から追い出した。夜食の魚肉ソーセージをかじりながら、溜息が花火の音に掻き消されていく。

「だりー…」

なんで私が祭りなんか行かなきゃならないんだ。そりゃ行きたい時は行きたいよ、でも今じゃないのよ。なんかこう…パシオ時空の人達って私の世界より…輝いてるじゃん…!?陽の気で溢れてるじゃん…!?場違いな気がするんだよな〜私のような限界ニートは…。元の世界のシビアさが薄いっていうか…救いに溢れてるっていうか…それが花火みたいに眩しすぎて居た堪れないわけ。決して捕まえることのできない花火のような光で溢れてるわけ。
でもそうか…ここにいる奴らって私と関わらずに生きてきたわけだから多少性格が違ってもおかしくないのか…。いや誰が陰の気を振りまいてるニートだよ。じゃあなんで陽キャ共に触れてる私がいつまで経っても陰キャなんだよ、おかしいだろ。

見切れた花火がわずかに見える。もう考えるのはやめよう。やっぱここで魚肉ソーセージ食ってた方がいいな。気遣ってくれるライヤーには悪いけど、でも人間には向き不向きがあるんだよ…!私にできることは引き篭もること、引き篭もること、引き篭もること、ポケモン勝負で絶対勝つこと、普通自動車の運転、それだけだ。一個だけ凄すぎる。

戻るか…と屋敷の扉を開けると、まだライヤーがいた。私が戻ってくると踏んで見張っていたのかもしれない。信用がなさすぎる。そしてまた信用を失った音がしたわ。すまん。

「おい」
「いや…あの…次のイベントは参加するからさ…」

咄嗟に言い訳を考えながら、口が動くままに言葉を発した。

「今日はサボ…いや、一緒に花火見ようよ」

今日どころかいつもサボっている事はさておき、そんなに他のバディーズと交流させたいってんなら、別にライヤーが相手でもいいよなぁ?この立派な交流機会を拒否してもいいのか?この私が交流を望んでいるんだぞ。この引きニートの私が。今から外に出るくらいなら快適な部屋で高笑い脚長男と花火見た方がマシだっつってんの。どれだけ家から出たくないかこれでわかっただろ。この私を教育する事がどれだけ困難か貴様にわからせてやる。

口を開けて黙るライヤーは、呆れて物が言えないと見た。アクティブなライヤーからすれば、家でじっとしている私の神経が信じられない事だろう。でも私だって信じられないよ、毎日毎日外に出て遊ぶ奴の事なんて。体力無尽蔵かよ。

怒られを覚悟する私だったが、しばらくしてライヤーが口にしたのは、意外すぎる言葉だった。

「…わかった」

折れた。勝ったぞ。約束された勝利のニート。

「次は必ず参加すると言ったな?」

必ずは言ってないぞ。記憶の改竄はやめていただきたい。

「いいだろう、お前のために特別過酷な企画を用意してやる!」

いやなんか趣旨変わってないか?やめろやめろ。私をイベントに引っ張り出す目的がいつの間にか私を拷問する方向に変わってるんですけど。他のバディーズと協力して何かを成し遂げる系だったら間違いなく終わる。体育で二人一組になる事がどれだけ地獄だったかお前にはわからないのか?
余計なこと言うんじゃなかった…と後悔しつつも、この場をやり過ごせた事にはとりあえず安堵した。
まぁしょうがないか…たまにはライヤーに従っておかないと本当にただの穀潰しニートだからな…それの何が悪いのか全然わかんないけど…。悪いだろ。

「早く来い!特等席に案内してやろう!」

なんだか急にご機嫌になったライヤーについて行ったはいいが、結局散々お小言を言われてしまい、花火どころではないレイコであった。
やっぱ交流なんて1ミリもしたくねぇ。