タイミーのパシオ

クリスマスキャロルが流れる頃には、この倉庫の整理も終わっているのだろうか。

「あ、現役チャンピオン宛の荷物はそっちで…元チャンピオンはそこなんですけど、グリーンは現役ジムリーダーに分類されるのであちらですね」

ややこしい説明をしている私の名はレイコ。パシオ中からトレーナー達に送られてくるクリスマスプレゼントの仕分けをさせられている隙間バイトニートだ。
ライヤーから、暇なら仕分けの仕事を手伝って来いとクソデカ倉庫へ送り込まれた私は、荷物を持ってくる配達員たちの誘導を任せられていた。世の中にマライヤ・キャリーが響き渡る中、このパシオも例外なくクリスマスムード満載なのであった。

しかしニートにとって、クリスマスなど普通の日と同様…何故なら寝て過ごすことに変わりはないからである。
なんかクリスマス当日はパーティーがあるらしいけど、そんなの無職には関係ねぇな。このパシオ時空では誰とも知り合いにならず平和に過ごせる可能性を見出している私は、極力目立たず、たまにライヤーの手伝いをしてご機嫌を取りながらぼちぼち生きていこうと決意していた。何にも巻き込まれず、世界も救わず、時に隙間バイトをこなして、あとは寝て食うだけの生活…そんな理想を手にする事ができるのではと期待しているのだ。
問題は、その期待が叶った事は今まで一度もないという点なんだけども。

「ちょっといいかな」

そしてもう叶わない事が確定したな。見知った顔に声をかけられ、私は軽く会釈をした。あの全身から溢れる石のオーラ、パシオでも全く変わる事はなかった。

「ダイゴさん…」

何故こんなところにチャンピオンがふらっと現れるんだ?まさかお前もタイミーか?
そんなはずはないので、不意に現れたダイゴに、私はぎこちなく微笑むしかない。パシオでは初対面のはずだから、知り合いムーブをかまさないよう用心しつつ陰キャに徹した。うっかり名前を呼んでしまったけど、この世界でダイゴを知らない奴の方がおかしいから問題はないだろう。
なんでただバイトしてるだけでチャンピオンに会うんだよ、絶対おかしいだろ。だって私いま主人公じゃないんだよ?ただのニートなのに主要人物とエンカウントしすぎ。解せんわ。平穏があまりにも遠すぎる。何とか知り合いに昇格しないようやり過ごさないと。

それにしても一体何用なんだろうか。常温冷蔵冷凍を見極めながら荷物を振り分けるバイトの私に誰も用などないはずだが?

「レイコさんって人を探しているんだけど…もしかしてキミかな?」

馬鹿な。全然私に用があった。

何故…!?こんな陰気なバイトニートに一体何の用事があるっていうんだ…!?皆目見当もつかないよ!あのダイゴが私みたいな一般通過ニートに!世界も救ってないモブのニートに!用なんてあるはずないって!
聞き間違いと思いたかったが、はっきりレイコと聞こえてしまったので、恐る恐る頷いてみる。

「そうですが…ダイゴさんも配達…じゃないですよね?」
「そうだな…あながち間違ってはいないかもね」

まさかライヤーの奴ダイゴに隙間バイトを頼んだりしてないよな?と危惧したのも束の間、彼は私に封筒を差し出すと、本当に配達員みたいな真似をする。

「キミにお届け物だよ」

キザな言い方で手渡されたものを受け取ると、そこには拙い字で、レイコさんへ、と書かれた封筒があった。どう見ても子供の字だ。もしかして人違いなんじゃないか?こんなものをもらう覚えはないんだけど。しかもダイゴから。
怪文書の可能性も視野に入れながら中を開けば、ピカチュウ柄の便箋が出てきた。ブレイク団から助けてくれてありがとう、の一文を見た時、ようやく全てを理解する。

あ〜…そうだ、世界は救ってないけど園児の群れをブレイク団から救った事あったわ。
先日、子供に絡んでいるブレイク団を通りすがりにボコボコにしてやったことを私は思い出した。別に特別な事ではなく、迷惑をかける連中がいたら制止するようライヤーに言われていたので、それを行使したまでのことであった。まさかわざわざお礼の手紙が来るとは思っておらず、怪文書と身構えた己の心の貧しさに、罪悪感が込み上げてくる。

思えば、現世は修羅の国だった。外に出れば何かしらの事件に巻き込まれる日々…複雑な家庭環境…そのせいで荒んだ私の心…それに比べてパシオの平和な事よ。助けた子供が懸命に書いたお礼の手紙?そんなん貰うこと今まであった?ていうかダイゴにおつかいをさせる園児強すぎでは?そのメンタルなら助太刀は無用だったのでは?
いろいろと込み上げながらも、タイミーでもないのにわざわざ届けてくれたダイゴへの礼だけは忘れずに告げた。

「ありがとうございます…でも何故ダイゴさんがこれを…?」
「子供達が困っているみたいだったから、声をかけたんだ。そしたらキミにお礼の手紙を渡したいって」

ただのいい奴。ただのイケメンだったわ。
人格者すぎて恐れ入る。やっぱ金持ちは心に余裕があるよな。私のような無一文ニートとは性格に天と地ほどの差があると感じるね。
普通に感心していたが、ダイゴがただのイケメンだった事など一度もない事を私は失念していた。時にはさすらいの石追い人、時には大企業の御曹司、そして結局僕が一番強くてすごいんだよねの迷言を残した、ホウエンリーグの頂点に立つ男。今まさにダイゴ宛の大量プレゼントを仕分けていた私は、彼もまた生粋のポケモントレーナーである事を思い出す。

「それに、僕も会ってみたかったから」

好戦的な眼差しに、うっかり手紙を握り潰しかけた。

「レイコちゃんに」

かつて私がツワブキ社長からの手紙を届けたダイゴと、いま私に手紙を届けてくれたダイゴは別人なのだろうが、なんでどの時空のポケモントレーナーも強い相手と戦わずにはいられないのだろう。どの時空でもニートしてる私には不思議で仕方がないけど、手紙は戦うための口実とわかった今、観念して仕分け作業を中断した。
ていうか私に会いたかったって何?もうそんなに噂になってるの?ここではなるべく目立たず過ごして、マライヤ・キャリーを口ずさむ一般通過ニートと化してるはずなのに、どうして能ある鷹は爪を隠せない?パシオの謎戦闘システムにすぐ適応してバディーズ技を使いこなす私に注目しないトレーナーはいないってこと?

「会うほどの者じゃありませんよ」
「それを確かめてみたいね」

上辺だけの謙遜をしつつ関わりたくないオーラを出してみたが、火のついたトレーナーを止める事などできはしない。バイト終わりまで待ってもらおうかとも思ったけど、後回しにするほど時間も取らないはずだと舐めプを炸裂させ、ダイゴの挑戦を受けた。

「…いいですよ、配達のお礼です」

ニートの合間の隙間バイトのさらに合間で隙間バトルを了承した私は、結局私が一番強くてすごいのが悪いんだよね…と諦めの境地に達しつつも、わざと負ける気にだけは絶対になれないのだった。

「私からは敗北をプレゼントしましょうか」