「…人と共に働くポケモン達。楽しそうに見えるがきっと苦しんでるのだ!そうに違いない!」

最後に倒された下っ端がそう叫び、プラズマ団がいかに崇高な目的を持っているかアピールしてきたが、チェレンはクールに無視していたので、コンテナよりもこっちの方が余程凍えた。お前はスゲー子供だよ…と目頭を熱くする。耳を貸しもしないところに意思の強さを感じるな。彼は怪しい宗教に引っかかったりしない事でしょう…安心して送り出せますね。
私は働くのが嫌いだからいかなる場合でも労働は苦しいけど、楽しそうに見えるならそれが正解なのだろうと思う。きっと苦しんでる、と主張するのは、プラズマ団がそう言っているから思い込んでいるだけだ。つまり洗脳である。X・JAPANのTOSHIのような悲劇を生まないためにも、早く何とかしなくてはならない、私はそう思った。でも何とかするのは私じゃないんで!な!ヤーコン!
心の中で呼ぶと、まさに神タイミングで後ろから足音が響いた。プラズマを蹴散らしたあとなので少し遅くはあったが、後始末は任せる事ができるため、ギリセーフである。

「おお!こんな寒いところに身をひそめていたとはな!」

豪快な声と共にやってきたのは、我々に濡れ衣を着せてきた汚い大人こと、ジムリーダーのヤーコンである。プラズマ探しの途中で小耳に挟んだのだが、何とこのおっさん、鉱山企業の社長も兼任しているらしい。そしてこのコンテナも会社の持ち物だと言うから、私の怒りはさらにヒートアップしていた。
自社のコンテナなら最初に調べろよ!施錠徹底しとけ!?ネズミ一匹どころか人が九人も入り込んでんじゃねーか。杜撰乙!
怒りの炎をどれだけ燃やしても寒さは変わらない中、ヤーコンは引きつれてきたコンテナ作業員たちにプラズマ団を連行させ、我々に向き直った。謝礼はずめよと睨み上げれば、時給どころか礼すらなかったため、もはや怒りがおさまらない。置いていこう、このおっさんをここに。悪に染まったレイコであった。

「お前たち、ちょっとはやるようだな」

ちょっとじゃねぇよ。ものすごくやるんだよ。

「さて約束だ。俺様のジムに挑戦しに来い!」

満足げなヤーコンはそれだけ言うと、私にコンテナに閉じ込められる前にそそくさと退散していった。一度も振り返る事なく立ち去ったおっさんに、私は再び中指を立て、さらに首を切るジェスチャーも付け加える。

いや礼くらい言えよ!はぁ?何なんだよあのおっさんは!言いがかりつけて捜索させた挙句にサンキューの一言もなし?ブン殴るぞてめェ!もう頭来た、6タテだ6タテ!1体あたり1秒で倒してやるから覚悟しとけ!
腹の虫がおさまらない私は再びチェレンの手を引き、小走りでコンテナをあとにする。やっと外気に包まれた時には、人体に適切な温度がいかに素晴らしいか痛感して、疲労を隠すことなく溜息をついた。

「全く…手間かけさせやがってプラズマ野郎…」

ヤーコンへの怒りが止まらないのもそもそもみんなプラズマ団のせいなのだ。今回捕まってたのもどうせ解放と称してポケモンを盗んだりしたんだろう。害悪でしかないな。
そりゃあ中にはトレーナーと上手くいってないというか、虐げられてるポケモンだっているかもしれない…でもみんながみんなそうじゃないし、何度も言うが幸せの形は千差万別…お互い助け合って生きているところもあるんだ。それを引き離すのは、悪い事だと私は思う。

「プラズマ団の理想…それはポケモンと人が離れ離れになること…」

そんなことを考えていた矢先、ちょうどチェレンが似たような事を呟いたので、私は静かに耳を傾ける。

「それってこの世界からポケモンがいなくなる事と同じじゃないか…全くメンドーな連中だな」

溜息まじりに告げられた言葉に、そこまで極論じゃないにしても、それだけ人間はポケモンと密接に、そこにいるのが当たり前のものとして生きてきたのだと実感した。ポケモンがいる事で人生が豊かになり…失えば途方もない絶望を覚える…チェレンもその重さを理解しているから、そういう言葉が出るのだろう。私ももっと感謝して生きねば…と悔い改めた。
そして自分とポケモンが繋がり合っていると信じて疑わない純粋さを、とても羨ましいと思う。一番強くなる事よりも、ずっと羨ましいと思う。

「…そろそろ行こうか、チェレンも疲れたでしょ。私なんかまだ寒いよ…」

誤魔化すように笑い、ふと繋いだままだった手を見て、私は首を傾げた。
寒いのが苦手だと言っていたわりに、彼の手はずっと温かかった。私なんかゾンビも同然なんだけど、この差は何?若さ?気付かなかった事にしよう。

「あったかいよね、チェレンの手」

いまだに指先までガチガチな私の死体温度に驚いたのか、チェレンは慌てたように手を離した。そして少し俯き、頬を染める。顔面蒼白の私とは何もかもが真逆だ。人間性も月とスッポンって感じだし。うるせぇ。

「…手、繋いでたからじゃないですか?」
「え…?熱伝導…的な?」
「そういう意味で言ったんじゃないんですけど…」

私の温度を全て奪ったのか、と冗談めかして責めたら、チェレンは不服そうに目を細める。どうやらジョークが通じなかったらしい。ごめんて。若さの差だってわかってるから。それだと私が傷付くじゃねーか、もうこの話はやめろ。自分が振っといてお開きを申し出る私は、結局チェレンの手の熱さの理由に、最後まで気付く事はないのであった。

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