11.リュウラセンの塔

確かアララギ父がリュウラセンの塔を見学に行くと言っていたのは、昨日の話である。
塔の前に着いた私は見知った人物を目撃し、相手もこちらに気付いたので、華麗に原付を停めながらいい女風にヘルメットを外した。

「レイコ!ちょうど良いところに!」
「博士…」

塔の前に、アララギ博士の父のアララギ博士がいた。先日会ったばかりの人物に感慨など覚えるはずもない私だったが、昨日見学に行っていた博士が今日も塔にいる事に違和感を覚え、わずかに苦笑する。
連日足を運ぶほど面白かったの?それとも…昨日からずっとここに…?いや、まさかな。NPCじゃあるまいし。真理に気付きかけた自分を封印しながら、何やら慌てた様子の老人に駆け寄って行く。

近くで見ると、塔は圧巻の迫力であった。カリン塔かな?ってくらい絶望を感じさせる高さに慄き、下を見ると、何やら壁が壊されたような跡がある。

「さっき大挙したプラズマ団が塔の壁を突き破り、中に入って行ったんだよ」
「ええ…?物の価値がわからん連中だぜ…」
「そうだな…このリュウラセンの塔は、イッシュの国ができる前の太古の昔からそびえ立ち、塔の最上階では伝説のドラゴンポケモンが、理想を追求する人間が現れるのを待っていた…そう伝わっておるからね」

博士が塔の説明をしてくれたけど、歴史的建造物を破壊したという発言の方が衝撃的だったため、私は思わず顔を歪めた。無論私も物の価値はわからないが、この世にはやっていい事といけない事があるのはわかっている。イッシュで一番古い建物を壊すのはもちろん悪い事だ。何故なら中に入って記録をしなくてはならなくなるから。プラズマ絶対殺す。
マジで余計なことしてくれたな…と怒り、先に行った二人がここにいないという事は、すでに中へ侵入済みなのだろう。今まで誰も中に入った事がないっていうのは、単純に出入り口が存在しない塔だったからのようだ。どう考えても設計士のミス。DASH島の舟屋の床全部埋めちまったリーダーなみのドジだな。
そうやって私がキレている間に、有能なNPCの博士は状況を説明してくれた。

「ハチクと…あの若者はチェレンだね。二人がプラズマ団を追いかけていったが…」

薄暗い塔の中を見据えながら、博士は神妙な面持ちで呟く。

「で、お前さんも追いかけるのかね?プラズマ団相手に事を構えるのはあまり感心できんが…」

常識的な博士の投げかけに、私は一瞬の間のあと、大いに感動する事となった。何故ならもはや私を心配してくれる者など、この世には雀の涙ほどしかいないからだ。

は、博士…こんな私を心配してくれるとは…なんて優しいんだろう…!いや当然だとは思うけどな。心配して当然でしょ、相手はエセ宗教団体だぞ。やはり娘を持つ父親、私のように若くて可憐で未来ある若者が危険に立ち向かう事を反対しないわけがない…思えばチェレンも度々心配してくれたし、イッシュの人って結構優しいのかもしれないな。大人なんだから協力しろよとほざいてきたヤーコンを記憶の彼方に捨て去り、私は出てもいない涙を拭って、しっかりと頷いた。

「ご心配ありがとうございます。でも…行きます」
「そうかね」

忠告したわりには引き止めもしない博士に二度見を決め込んだが、何にせよ私は行かねばなるまい。記録作業ももちろんだが…結局どんだけ憤ってもヤーコンの言う通り、大人は責任を果たさなきゃなんないし、そしてチェレンの言う通り、強いからには力を使う義務があるんだよな。
他人を心配してるのは博士だけじゃないんだよ、と発展途上ボーイの行く末を案じる私は、モンスターボールを握りしめ、そびえ立つ塔を見上げた。

「あの中には惚れられてる男がいるんでね…」

謎の日本語を披露しながら、私はアララギ博士が首を傾げたのを見なかった事にし、ジジイも気を付けろよと忠告しつつごまかした。
まぁ中にハチクさんもいるなら大丈夫とは思うが…しかし彼は単氷の弱点が有り余る男…心配でないと言えば嘘になるので、チェレンに悲劇が起きる前に私は合流しなくてはならない、保護者代表としてな。もし何かあったら彼のハゲた両親に顔向けできないよ。騙されているとはいえこんなクソニートを好きになってくれた奇特な男である、放っておけるわけがない。女の趣味を元に戻す、それも大人の責任なのだから…。楽な仕事じゃないよ。

「じゃあレイコ。お前さん、頼むが登っておくれ」
「ウス」
「それにしてもプラズマ団め…一体何を目論む…?」

シリアス調で呟いたアララギ父を一瞥したあと、私は壊れた壁からリュウラセンの塔へと突入していった。何を目論んでいるかは大体わかっているので、あとはそれを確かめに行くだけだ。
プラズマ団が本当にローリングストーンズを手に入れたというのなら…伝説のドラゴンポケモン、ゼク…ゼクロス…?ゼクシィ…?とかいうのを復活させるかもしれない。そしたら記録ができて万々歳だが、いよいよプラズマ団は小さな組織ではなくなってしまうので、わりと緊急事態である。

となるとNの奴…チャンピオンを越えるという目的以外は大体こなしてる事になるな…思いの外有言実行型だったことに戦慄し、私は白目を剥いた。
人々にポケモンを解放させるため、伝説ポケモンを従えて箔をつけ、さらにチャンピオンを越えて箔をつける。半分はミッションを達成しているという事実は、今さらながら私一人の胸に抱えておいていい問題だったのか?って感じだ。
いやまだだよ。まだ伝説のポケモンとお友達になったって決まったわけじゃないから。いや友達になってもらわないと記録できないからそれは困るんだけど…でもさっきのアララギパパの話なら、伝説のポケモンは理想を追求する人間を待っているって事になるわけで、ポケモンの桃源郷を作ろうとしているNは、それに当てはまらなくもないところがまた厄介である。
何より、あの頭のおかしい男ならやりかねないと思っている自分がいるのだ。
そしてそれを止められる人間も、最強の私しかいない。

まぁ考えたって行くしかないんだ。私を待ってるって事は、私が来るまでは待機してる可能性もある。そう悲観する事もない。
いざとなったらスタンガンしかないな…と真面目に考え、最強とか関係なく暴力で解決を図る物騒なレイコなのであった。本当に夢主なのか?

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