12.古代の城

荒れる砂漠を進む私は、やっぱリュウラセンの塔で博士の護衛してた方が楽だったんじゃないかな?という事に気付き始めていた。

私の名はレイコ。ホウエンでもらったゴーゴーゴーグルを装備し、できれば二度とこれを装着せずに済む環境にいたかったと心から思うニート女だ。
チェレンとアデクと共に、ライトストーンとかいう詫び石を求めてリゾートデザートにやってきたはいいが、砂嵐がやばすぎて二人とはぐれた上、古代の城への入口が見つからずに右往左往しているという破滅的な状況にいる私は、もはや感情を失っていた。砂を浴びすぎると自暴自棄になるという事を学んだ旅であった。

何なんだここは。この間はこんなにやばくなかったぞ。
一回、記録のためにリゾートデザートにはやって来ている。全部は回っていないが、快晴だったしここまで砂は吹き荒れていなかったと思うので、どうも天候が最悪な時に来てしまった可能性が濃厚な事に、私は項垂れていた。
なんて間が悪いんだ。大体古代の城って砂に埋もれてんでしょ?どうやって入るんだよそれ。まぁ心当たりがあるって言ってたくらいだから、アデクは入口を知ってるんだろうけども、じゃあ迷子にならないでくれるか?子供じゃないんだからさぁ…。整理してないリュックからゴーグルを取り出すのに手間取ってはぐれた自分を棚に上げ、心の中で老人を精神的に虐待する。

これで石なかったらジジイ本当に殴るぞ…と逆恨みしていれば、突然嵐がおさまっていき、ちょっと強めの風程度の威力になったので、私はゴーグルを外してみた。
どこまで進んだかわからないが、地面の感触が変わった気がする。育ちの悪い私はヤンキー座りで身を屈め、下を見た。
これ…タイルっつーか…石畳だな。つまり人工物。よく見ると辺りには達磨のような像が数体あり、明らかに砂だらけの景色から一変したため、怪しんで周囲を確認する。
するとその時、私を呼び止めるお馴染みの声が聞こえてきて、風の中を勢いよく振り返る事となった。嵐に肉体の水分を奪われ、半分ミイラと化した私の元に、オアシスが蜃気楼のように揺らめきながら駆けてくる。

「レイコさん!」
「オアシ…チェレン…」

失意のあまり呼び間違えかけたが、何とか持ち直して手を挙げる。危ねぇ。勝手に癒し系マスコット扱いしてるのがバレるところだったわ。まぁマスコットにしては手厳しすぎるけどな。
やってきたチェレンを出迎え、はぐれてすいませんでしたと頭を下げていた時、私は自分が踏んでいる床の色が、周りと違う事に気が付いた。他は石が敷き詰められているのに対し、ここだけ一枚の岩みたいになっている。
まさか…と持ち上げれば、同時にチェレンが口を開いた。

「そこが古代の城の入口ですよ」

ここかよ!わかるかこんなもん!
ほら地図、とリゾートデザートマップを見せてくるチェレンに渋い顔をし、座標などが書いてあった時点で私は思考を放棄した。
いや地図の意味成してないから!全部砂漠やんけ!数字とアルファベットが連なった理系にしかわからないマップに憤る小卒の私は、むしろ適当に歩いてここに辿り着いた自分を褒め称えたい気分になってくる。
やはり人間は直感…シックスセンスが最も重要であるという事がこれでわかったでしょう。最終的には運。そして主人公力。それを持っていない人間は勉強で補うしかないのだろうが、私は生まれながらの勝ち組だからね。インテリ地図が読めずともこのように生きていけるんだよ。
偶然辿り着いただけでやたら偉ぶるそんな私を、チェレンは羨望の眼差しで見つめるものだから、天狗気分から一転、地獄に落ちたくらい卑屈な気持ちになっていった。

「それにしても、やっぱりレイコさんはすごいな…先に向かった僕より早く到着するなんて」
「いや…それほどでも…」

やめて。そんな目で見ないで。純粋なチェレンからの賞賛は、ただのヤマ勘で辿り着いただけの私の心を打ち砕いた。
マジで無垢とは脅威だよ。頼むから疑ってくれ。何か不正を働いたんじゃないですか?そう言ってくれた方がずっとマシだよ…!そりゃあ長年旅した経験が活きた勘だったかもしれないけど、チェレンにすごいと言ってもらえるような人間じゃないから私は…。
心苦しさで瀕死状態のニートに、チェレンは苦笑まじりに話し続ける。

「リゾートデザートのポケモンに意外と手間取ってしまって…」
「視界悪いしな…仕方ないよ」
「ここまで来れたのは僕のポケモン達のおかげだね…」

穏やかに話すチェレンは、何だか随分吹っ切れたみたいだった。ボールに向かって微笑みを向ける姿を見て、あとは女の趣味さえ何とかなればな…と彼の行く末を案じてやまない。

でも…ポケモンのおかげか。そうだよな。私だってここまで飛んで来れたのはカイリューのおかげだし、リゾートデザートでは砂嵐を極力喰らわないよう、鋼タイプのルカリオを前に、メタグロスを後ろに配置し盾扱いして進んできたから…その気持ちわかるよ。完全に移動手段としての活躍しかしてない件は置いといて、感謝の念を抱いているのは事実である。
こうやってみんながポケモンに圧倒的感謝してれば、Nも白黒はっきり分けるなんて真似をしなくて済むんだろうな。奴の抱える闇を想像しかけたが、こんなところで鬱にはなりたくなかったので、私は自ら話を切り替える。

「ところでアデクさんは?」
「先に行ったと思います。僕たちも急ぎましょう」

そう言うと、チェレンは床板を動かし、下から出てきたドラクエみたいな階段を駆け下りていった。どうやら地下に城があるというのは本当だったらしい。中を覗くと、随分広い空間である事がわかる。石の捜索範囲を考えると卒倒しそうだ。こっちもヤマ勘ですぐ発見させてくれよ。俺は主人公だぞ。

「これが古代の城か…」

独り言を呟き、恐る恐る足を踏み入れる。砂まみれではあったけど、一応建物として機能はしているみたいだ。息もできるしすぐに崩れる気配もなかった。
なんかミイラとか出そうなんだが…これマジにドラクエみたいに蟻地獄に落ちたりしないでしょうね?残念ながらその通りになってしまう事を今のレイコは知らない。

それにしてもアデクさん…こんなところに心当たりがあるなんて…どんだけふらふらしてたんだよ。物好きな老人を思い、徘徊癖とチャンピオンの両立は厳しいと思うぞとマジレスをした。早くリーグに戻りなさいよ。Nが行った時に爺さんいなかったらショボンとして帰っちゃうだろ、かわいそうに…。心ではそう思うも、口はざまあの形を描いているレイコであった。

心当たりってのは…廃れた城というくらいだから、宝として石が保管されてる可能性があるって話なのかもしれないな。盗掘されてる気もするけど、ただの石なら盗まれずに置いてあるかもしれないし、何より伝説のポケモンが眠ってる石なら泥棒に捕まるわけないか。転売とかされてたら絶望的なんで、できればここで埋もれててほしい限りである。
階段を下りながら考え事をして、ふと思い至った事により、私はぴたりと足を止めた。

え?ていうかアデク、先に行ったなら…ここ通ったって事だよな?
上を見上げ、砂が舞い込んでくる地上を凝視しながら、私は思わず壁を殴った。

じゃあ開けとけよ入口!なんでご丁寧に戻したの!?砂入ってくるから!?
ジジイの奇行に激昂しながら、これで石なかったら本当に詫び遺産もらうからな、と一層捜索に力が入るレイコであった。私の取り分、遺言に書いとけよ!

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