「うわっ」

何故、シーンが変わって早々に夢主らしからぬ悲鳴を上げなくてはならないのか。
順調に砂に埋もれたりしながら古代の城を進む私、ポケモンニートのレイコは、とりあえず先に行ったアデク達と合流しようと地下へ下り、そもそも何故先に行ってしまうのか?捜索計画を立ててから離散するのが効率的ではないのか?という疑問を抱え、二人を探している。

正直、単独行動には慣れたけど…この砂の山から石ころを探す事には一切慣れてないからね。それとも何だ?心当たりがあるってのはそれっぽい石を見たことがあるって話だったのか?だったら私達が来なくて良くない?一人で取りに行ってくれよ!どのパターンでもアデクの行動原理がわからねぇわ。などと老人に振り回されている時に、今度は別の老人に振り回される事となって、全員まとめてデイサービスに送り込みたいと、レイコは心からそう思ってしまうのだった。

階段を下りた直後、待ち構えていたと思われる敵の幹部と出くわした私は、冒頭のように汚い悲鳴を上げ、個体判別方法が服しかない連中の総称を、何とか絞り出し叫ぶ。

「し…七賢人!」

指を差しながら名前が出てくるまで、およそ十秒はかかった。その間、奇特な七賢人は待っててくれたので、変身中は攻撃しないの法則は万国共通であると知り、いささか感動を覚えたものである。七賢人ですら待ってくれるのに、私がゴーグルを取り出すのは待ってくれないんだもんな、アデクとチェレンは。本当の敵は一番近くにいる事を知った瞬間であった。

多分だけど、今まで遭遇した賢人とは別個体な気がする。初対面の奴がいきなり現れておいて用がないわけがないので、私は相手の正面で身構える。
というか、プラズマ団がここにいるって事は、こいつらもライトストーンを探してるって事なのか?
二体揃えられたら一大事、というアデクの言葉に真実味が出て、いよいよ悠長に構えている場合ではないと気付かされた。つまりこいつから足止めを食ってる場合じゃないって事だ。
お前さえここに来ていなければポケセンで一泊できたのに…と嘆く私をよそに、こちらのターンが終わった事を理解した七賢人は、真面目な顔を作ると、こんな場所でとんでもなく面倒な展開をもたらし、私を激昂させるのだった。

「…ゲーチス様は言われた。お前の力量がどれほどか、いま一度確かめよと」
「また!?」

電気石の洞穴ぶり二度目の試練を与えられ、私は思わず抗議する。
またかよ!いやもう確かめたよね!?私がどれほどのトレーナーか見たじゃん!下っ端が束になっても敵わない、この圧倒的な実力を見ただろ!盲目かゲーチス!?心配しなくても最終回ではカテジナ・ルース状態にしてやるから今はちゃんと両目を開いていてよ!
ウーイッグに行きたがるゲーチスを阻止しながら、私は頭を掻き、さっきリュウラセンの塔でも下っ端狩りを行なったばかりだったので、度重なる連戦に心の歪みが止まらない。

無駄な血を流すのは止そうよ、とスタンガンをチラつかせながら、私は七賢人に真心を理解していただこうと迫った。
Nだって…ポケモンを傷付けるのは望んでいない…それはみんなにもわかるよね?どうせ勝てない、万が一にも奇跡はない、必ず明日が来るのと同じくらい、私の勝利はいつだって約束されているんだから、ここは不要な争いを避け、私に道を譲る、それが最善策だと思うんだが…何か間違っていますか?ゲーチスの言う事を守るより現場の判断が大事だと、そうは思いませんか?私は思うね。下請けのつらさを理解しながらも、上に盾突く勇気も時には必要であると、七賢人に諭す。
そんな勝利の女神に愛されすぎて眠れない私の思いを、あっさり無下にしてくるのがゲーフリのシナリオ、いや悪人というものである。正面の男は少し体をずらすと、後ろから現れた下っ端を指差し、学習しない台詞を私に言い放つのだった。

「我らプラズマ団を倒せるか、見せてもらうぞよ!」

見せたぞよ!ずっと前から見せてるぞよ!
どうやら全員盲目らしいわ。呆れ果てた私は舌打ちし、非道の幼獣メラルバを出して、上手に焼いておしまい!と二度と逆らわないよう下っ端どもに恐怖を植え付ける作戦を指示した。

全く、なんて学習能力のない連中なんだ。あんなに燃やし尽くされたのにまだ焼きが甘いっていうの?ミディアムレアで妥協しろよ。こっちだってこんな事はしたくないんだ。それでもやるっていうなら…うちのメラルバシェフが喜んで消し炭にする事でしょう。恨むなら上司を恨んでくれ。今のうちにリクナビに登録しておくんだな。
今日も今日とてシェフのお任せコースバトルでいこうとした時、出てきたメラルバはそわそわと辺りを見回し、砂に体を寄せ、しばらくじっとしていた。何事?と思っていると、直後に地獄絵図、予告もなく地面に向かって火を吹いたので、私は真顔で温い空気を浴びる事となる。
砂の高熱に足の裏をやられた下っ端たちは慌てて逃げ惑い、遠くからポケモンを放つも、狭い通路である。一体ずつしか通れず渋滞が起こり、結局全員糸で簀巻きにされて終わった。このまま東京湾に沈めてしまいそうな勢いのメラルバが、どんどんカタギから遠ざかっていく事に、私は頼もしいやら恐ろしいやらで複雑である。

お前…マジで…あれだよな、キングオブ脳筋。とりあえず動きを封じてトドメを刺せばいいという単純明快な思考。実に無学な私向きと言えよう。うるせぇな。
とはいえ適材適所であった事には変わりない。ありがとよアデク…とやっと卵を押し付けてきた事に感謝し、私はメラルバをボールにしまおうとした。
しかし、いつもなら戦闘が終わると、過去は振り返らないと言わんばかりにすぐ戻ってくるのが、今日は何故か城内を見回して感慨に浸っているようだったので、私はしばらく様子を見守った。何だか随分落ち着いた様子に、ベストプレイスでも見つけたのか?と苦笑する。

「ここ好きなの?ホーム?」

尋ねれば、メラルバはしばらく私を見たあと、大御所のようにゆっくり歩きながら戻ってきた。相変わらず何を考えているかわからない無表情幼虫だが、今のホームはお前だよ…とニヒルに言われた気がして、つい微笑んでしまう私であった。

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