伝説のドラゴンポケモンについて教えてくれるというシャガに従って、家までホイホイついて行った私は、そこでシャガがこの街の市長だという驚愕の事実を耳にし、ますます緊張しながら話を聞く事となった。どうりでオーラが違うと思ったよ、と気品溢れる風格に納得し、校長室に置いてあるようなソファに腰かけ、イッシュ昔話に耳を傾ける。

話を要略すると、まぁつまりこういう事である。

その昔、ドラゴンポケモンは元々一匹だった。双子の英雄と共に新しい国を作り、幸せな日々を過ごしていたそうな。
しかし…そんなある日の事、双子の英雄は真実を求める兄と、理想を求める弟に分かれ、どちらが正しいか決めるための争いを始めた。
共に歩んできたドラゴンはその身を二つに分かち、それぞれの味方をしたのであった。

真実を求め、新たなる善の世界に導く白きドラゴン、レシラム。
理想を求め、新たなる希望の世界に導く黒きドラゴン、ゼクロム。
二匹は元々同一の存在ゆえ、争いは激しくなるばかり。どちらが勝つとも言えず、ただただ疲れ果てていった。双子の英雄も、この争いはどちらかだけが正しいわけではない…そう気付いて争いをおさめた。
が、今度は英雄の息子達が懲りずに争いを始めてしまったという。そしてゼクロムとレシラムは、稲妻と炎でイッシュを一瞬にして滅ぼし、姿を消していったのでした。完。


淡々と語られ、私はリアクションする間もなく、ひたすらに粗茶を飲んでいた。ゲーチスが建国伝説の再現って言ってたのはこういう事なんだな、と相槌を打ち、さすがドラゴン使いのジムリーダー、博識ですね、なんて他愛のない反応を返しながら、私は俯く。

まぁ端的に言うと…復活させんなよそんなポケモン、って感じだわ。とんでもない事してくれたなN。事の重大さをより深く理解し、責任感から頭痛がしてきそうである。
マジかよ。それってあれだよな、私とNの主義主張が取るに足らないカス案件だと認識されたら、秒でイッシュ滅ぼされちゃうかもしんないってこと?怖すぎなんだけど。カントー帰っていいか?

しかし、イッシュを滅ぼしたのも伝説のドラゴンなら、新たに国を作ったのもまた、伝説のドラゴンである。元は仲良く暮らしてたみたいだし、つまり付き合い方を間違えなければ、その辺にいるコラッタやポッポなどと変わらず、愉快にやっていけるという事なんだろう。Nとゼクロムも、お互い通じ合っている雰囲気があった。伝説のポケモンだろうとそうじゃなかろうと、愛と誠意を持って接していく…それに尽きるってわけね。
一層不安に駆られる人間性が底辺の私に、シャガは悟ったような顔で口を開く。

「…確かにポケモンは物を言わぬ」

背筋を伸ばしながら、私は市長の話を静聴した。真面目な新成人のような顔で。

「それゆえ人がポケモンに勝手な想いを重ね、つらい思いをさせるかもしれぬ。だが、それでもだ!我々ポケモンと人は、お互いを信じ、必要とし、これからも生きていく…」

そうだな、と頷き、シャガが続きを話すのを待って、私は黙り込んでいた。人類とポケモンの長い歴史、いつも共にあった両者が、この先も同じように共存していく未来を願う…その気持ちは私も同じだったため、ただ頷くだけって感じだ。

で?

しばらく沈黙し、一向にシャガのトークが再開されない事に、私は痺れを切らす。
それは…わかったよ、みんなポケモンと離れたくないのは明白。ポケモン側もそうだと信じたいよね。この尊い存在の事を、今まで以上に真剣に考えていかなくてはならない、そう思ったよ。

で?
レシラムの復活方法は?

いつまで経っても本題が語られない事は、私の焦りを呼んだ。ここに来たのは、この漬物石ことライトストーンから、レシラムを復活させる方法を知るためである。藁にも縋る思いだったけど、二匹のドラゴンの成り立ちにも詳しかったシャガならば、きっと知っているに違いないと私は期待した。
だって市長なんでしょ?地位も名誉も権限も持ってるし、さらにドラゴンタイプのジムリーダーだからね。加えて酸いも甘いも経験してきたであろう年齢、これで何も知らないなんて事はさすがに有り得ないでしょ。ドラゴン使いのマストアイテムであるマントを捨てて生きてる分、代わりに詰め込まれた知識があるはずだしな。絶対にある。ないわけがない!
目を輝かせながら手がかりを待つ私だったが、どうやら彼がマントの代わりに手にしたのは知識ではなく、市長の座のみのようだった。

「私が知っている事は以上だ」

ん?と往生際悪く聞き返す私に、非情な一言が襲い来る。

「残念ながら、伝説のドラゴンポケモンを目覚めさせる方法はわからぬ…」

頭を下げるシャガに、謝らないでくださいとも言えず、私は呆然と座り尽くした。何かの冗談でしょ?とポジティブさを披露しようとするも、真顔で首を横に振られては、自ら絶望の淵に身を投じるしかなかった。

それは…つまり、あれかな?
レシラム双六、振り出しに戻ったってこと?

受け入れ難い現実に白目を剥き、無駄足は本当に嫌だったので、そのままジム戦に突入した。決して憂さ晴らしなどではない事は、ご理解いただきたいと思う。

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