03.サンヨウシティ

旅は極めて順調。妙な団体や電波とは出会ったが、無事タウンマップも入手できたので私は次の町、サンヨウシティまでやってきていた。
すでにジム戦を終え、気分は大変清々しい。サンヨウジムは何気に、イッシュに来て初めてのジム戦であった。三つ子が経営するレストランがポケモンジムと化していたので、普通に飯食ってる客の横で何故こんな戦いを…?という混乱はありつつも、相手が三つ子だろうが言うまでもなく、結果は勝利一択である。負けたらこんなテンションでいられるかよ。最初のジム戦にも関わらず戦闘描写をすっ飛ばしていくあたり私がどれだけ迅速にニートになりたいかが窺える事と思う。必死か。

賑わう方向へ進むにつれ、段々と都会の風格を醸し出してきたこのイッシュ。サンヨウもなかなか洒落た町だったので、私はアメリカンコーヒーなどを嗜みながら優雅な一日を過ごしましたよ。
こういうのをさぁ、求めていたんだよ私は。これぞイッシュって感じじゃん。いいよね観光もたまにはね。まぁできる事ならニートになってからゆっくり来たかったけど。いずれ働かずに遊ぶためだけに来てやるから覚えてろよ。その時は三つ子経営のレストランで食事でもさせてもらうかな。出禁になってなければの話だが。私が何をしたっていうんだ。

このまま順調に旅が終わればいいのに…とのんきな事を考えながら用の済んだ町を出て、私はのんびりと原付を走らせる。
この辺のポケモンは記録したし、老体に無茶はよくないからあとはゆっくり次の町まで進むとするぜ。ここまで結構ハイペースだったから…早く田舎から出たくてよ。どの地方に行っても田舎disをやめない、それが私のプライド。怒られるぞ。
確か次の町もジムがあるんだったよな。何タイプ使ってくるんだろう…まぁ何だろうと勝つんですけど!と自嘲気味に笑っている時、ふと後方から何やら私を呼ぶ声のようなものが聞こえた気がして、首を傾げながら耳をすませた。

天狗になるあまり私を称賛する幻聴でも聞こえているのだろうかと思いつつも、そんな危ない人間にはなりたくないから、エンジン音でかき消されそうなそれを拾うべく、私は原付を止めて振り返る。するとそこには慌てたように走ってくるチェレンの姿があって、少なくとも幻聴の類ではない事が判明し、ほっと胸を撫で下ろした。
よかった、幻聴じゃなくて。私まで電波になったらこの物語誰が進行すんだよ。

何やら忙しない様子のチェレンを迎えるべく、私は原付をおりる。彼とはカラクサタウンで別れたが、進行方向は同じなのでまぁ今後も度々出会う事が予測されるな。今のようにね。ていうか君は何故かいつも走ってるが、ご覧の通り私も原動機付自転車で走ってるんだよな。人力じゃないの。機械なの。何でいつも追いついてくるんだこいつ。小早川セナかな?

「どうしたの慌てて」
「事情はあとで話します…!とにかく一緒に来てください!」
「えええ…なに…」
「プラズマ団を追ってるんです!」

で、出た、何とか団!どの地方にもいる謎の組織、何とか団!慌てるチェレンをよそに、私はすでに引き気味だ。帰りてぇ。カントー、もしくは土に。

何もうセンスのない名前…やばさしかないわ。圧倒的にやばい。何だプラズマって。コンセプトは?四代元素?総裁は米村でんじろうかな?マッドサイエンティスト団体を想像しつつも、その何とか団には心当たりがなくもなかったので、カラクサの風景を思い出しながら苦笑をこぼした。
そう、あの演説集団。絶対あいつらだ。あれが何とか団って名乗ってたじゃん。たこ焼き食べながら聞き流してたからそれ以外あんまり覚えちゃいないけど、この流れから察するにカラクサ演説集団がプラズマ団である可能性は非常に高い。大体そうそう何個も何個も変な団体に登場されてたまるかって話だよ。ホウエン地方じゃあるまいし。

なんでそんな面倒な組織追ってんのかは知らないが、たらたら原付で移動している私に助けを求めてきた子供を見捨てるというのはいくら何でも世間体が悪すぎるので、渋々承諾して一緒に謎の団体を追う事になった。だってさすがに断れないでしょ。見てチェレンを。ここまで走り込んできた彼…もうアップは済んでるって感じじゃん。いけますよコーチ、次の試合必ず勝てますよ、そういう目をしてるじゃん。コートでは誰でも一人きりのはずが私を巻き込んでくるあたりルール無視の不良だけど、まぁ可愛いから許してやるわ。現金。

「…ノーヘルでもいいなら後ろにどうぞ」

自分はちゃっかりヘルメットを被りながら、後部座席を指差す。大人として底辺にいる事を自覚しつつ、世の中子供だからって何でもかんでも優遇されると思ったら大間違いだぞという警告も込めての発言であった。世界を知るんだ田舎者。子供でも断崖に記録に行かされたり深海に記録に行かされたりする家庭もあるんだ、世の中そう甘くないんだよ。児童相談所行っていいレベルだったな私。

しかしやはり恐ろしいチェレン氏、私がせっかくカラクサでの演説を避けて通ったにも関わらず、容赦なくトラブルを持ってやってくる。正直びっくりしたよね。そのルート回避したはずですけど?ってキョトン顔だよ。もうわけわかんないもん。何の前触れもなく走ってやってくるから回避しようがないし。強引にシナリオを捻じ込んでくる、まさにゲーフリの犬。恐らくプラズマを引き寄せる電波的なの出てるんだろうね、そのアホ毛から。父さん妖気が!ってやつ。もういいしっかり捕まってな。
エンジンをふかし、40と書かれた制限速度を見なかった事にして、私はオートレース選手のように瞳をぎらつかせながら、何とか団とやらを探して原付を走らせた。どうせ今回の団体もモロバレって感じの変な制服着てるんだろ、わかるわそのくらい。たまにはスタイリッシュにスーツとか着こなしてほしいよね、サングラスとかかけちゃったりして…いるわけないかそんな団体。いたとしても関わらないしカロスなんて絶対行かないから。フラグじゃねーよ。

チェレンを乗せた原付を走らせて、私は徐々にスピードを上げていく。道中で事情を聞いたところ、何でも知り合った女の子のポケモンがプラズマ団に盗まれてしまったらしく、それを取り返すべく奮闘していたというわけらしい。追っている途中で私に出会ってしまったと。軌道上にね、私がいたようなんですわ。偶然。ゲーフリ的にはこれを偶然と言うみたい。故意しか感じないが、とりあえず私をこんな事に巻き込んだ怒りの炎を向けるべき相手はチェレンやゲーフリではなくプラズマ団だという事がわかったので、特に何の絡みもない怪しい団体に憎悪の念を向け、どんどん原付を加速させていく。
もうGがすごい。新世界開いたって感じの重力感じるわ。減速しろ。
そのまま道なりに進んでいると、薄々気配は感じていたが、完全に行き止まりと思われる壁に差し当たってしまい、私は目を見開きながら少し焦る。

あれ、しまったな。何でや工藤、もう道なし?行き止まり?ここに来て?普通にやばいじゃん。どっかでコース間違ったか?いやでも一本道だったはず…。おかしいなと唸りながら原付を停めた私は、すぐさまタウンマップを広げた。
参ったな…格好よく助っ人引き受けたくせに迷子になるとか超恥ずかしいじゃねーか。見損ないましたよレイコさん、各地を旅してきたくせに方向音痴だなんて失望しました、ファン辞めます。チェレンにそう言われても仕方ないくらいの失態です。私の事は嫌いでもニートの事は嫌いにならないでください!無理。
いやでも次の町に行くにしてもこの道通らなきゃいけないはずだし…若干ややこしい地図を回転させながら、内心は焦りでいっぱいだ。お願い!ここであなたが道に迷ったらプラズマ団に盗まれたポケモンはどうなっちゃうの!?無事取り返す事ができたら一緒にチェレンの信頼も取り返せる、さらにもっと尊敬してもらえるんだから!次回、レイコ死す。デュエルスタンバイ!茶番のせいで死んだじゃねーか。

引き返そうかと再度エンジンを回そうとした時、急にチェレンは私の袖を引っ張ってきたため、突然の事に抵抗もできず少し体が反った。おい危ねぇなお前…車体が傾いたら共倒れなんだからな、100キロ近くある原付の下敷きになる気かよ。そうまでして私の袖を引っ張りたい理由とは一体何事だと思って振り返ると、彼は遠くを指差して視線を誘導してきたので、指の先にある景色を追う。するとそこにあったのは、どの地方にも存在する決して避けては通れない魔境、シティガール最大の敵、暗く冷たい洞窟であった。

「…フラグしかねぇ」

思わず呟いてしまうくらいフラグ。うわ…って言っちゃう。うわ。その露骨で激しくベタな展開には、慣れている私もさすがに失笑を禁じ得なかった。

ないわ。これはない。この主張はやばいでしょ。トムリドルの日記くらい見つけてください感出てるけど。だってもうそこしかないじゃんこれ。行き止まりだし。これはもう確定だな…。プラズマ、いるね。あの洞窟に。
確信を抱きながらヘルメットを取り、我々は洞窟に向かうべく足を踏み出した。溜息が止まらなすぎて息切れしてる人みたいになっているが、呆れても仕方がないってものだろう。ベタすぎ。久保帯人の漫画か?ってくらいベタだ。あれで原稿料同じだってんだからやってらんないよな。
卍解する私は、何となく洞窟に入るとなると憂鬱な気持ちになってしまう。当たり前だけど私シティガールだから洞窟嫌いなんで。出現率5%のピッピを記録するために山籠もりしたり、金曜のみに現れるラプラスを記録するために山籠もりしたりと、とにかく年頃の娘にはありえない山籠もり経験豊富だから悲しい人生送ってるんですよ。まぁ山籠もりも家籠もりもそんなに変わらんけどな。放っとけ。
もういいよついでにポケモン記録するから。どうせそのうち行かなきゃいけないところだったんだ、今行ったって同じさ。自分に言い聞かせて私は勇猛果敢に先を行くチェレンに続き、小走りで洞窟を目指していく。すると入って早々目的の連中を発見する事となり、その驚きの風貌に私は思わず絶句するのであった。

「プラズマ団…」

チェレンの呟きを聞きながら、私はたまらず団員を二度見した。
うわ。え?あれが…プラズマ…?マジ?え?うわ。うわ…だ…ださ…え?
プラズマ団、ダサくね?

洞窟の中に足を踏み入れると、そこには確かにプラズマ団と思われる下っ端団員が二名ほど隠れていて、やっと逃走劇に終止符が打たれる事に安堵したのも束の間、どうせ今回も変な制服着てるんだろうがと心構えをしていた私でさえ驚く事になるその奇抜なコスチュームに、これじゃコスプレAVも出せねーだろって感じの感想しか出て来なくなるくらい、とにかくそれは衝撃的な衣装であったのだ。こんな長台詞言うくらいにはな。
遠巻きに見つめながら放心して、私はプラズマを上から下まで凝視する。

おかしい。もう何か全体的におかしい。いやこれは…普通にやばいな。
明らかに活動には向かないそのファッションに言葉が出ない。いやどんな活動してるのか知らないけど、アクティブには動けないっしょ。ラフな宇宙服っていうか…もしくはラフな中世ヨーロッパの甲冑のような…いやもう頭。頭だよ!被り物!何か密度の高いフードみたいなの被ってんの!それが邪魔!視界悪いし耳も遠いんじゃないか!?斬新!意味わかんねぇな!もうイッシュ意味わかんねぇわ!了解!
絶対コストかかるしいい事ないだろと組織目線になって経費の心配をしてしまう。これまでいろんな悪の組織を見てきたが、コストパフォーマンスについて考えさせられたのは初めてであった。一生考えたくなかったよ。
いっそデザイナー雇った方が安いだろと考える私は、どうして悪の組織の衣装について真剣に意見を出しているのか疑問を抱き、イッシュのおかしな空気にやられ始めている自分を嘆くのだった。帰りてぇ。

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