衣装disも一通り済んだ事だし、とりあえずどうするかな…とこちらに気付いていないプラズマ団を遠目から見ていたら、いきなりチェレンはボールを構えてプラズマ団の前に飛び出していったので、さっきから私は衝撃に頭が追いつかない。
もうわかったから一応相談とか合図とかしてほしいせめて。急いでるのはわかるが相手がチャカとか持ってる可能性も考えようよ。一度も考えた事のない私が言うんだよ、聞くわけないよね。失礼しました。

流れに身を任せ、私もチェレンに続きボールを構える。
全く勇ましいお坊ちゃんだよ、両親の顔が見てみたいもんだぜ。ハゲてそうな気がするけどな。別にチェレンの生え際の話なんてしてないだろ!
プラズマ団はいきなり出てきた子供に驚いた様子であったが、すぐに身構えてきたので、お互い腹は決まったって感じだった。ただ水を差すようで悪いんだけどこの状況なら普通に奇襲できたんじゃないかと思ってしまう私である。背後から近付いてくるもう一人の男に気付かず毒薬を飲ませる展開もいけたと思うんだが?もしくは遠くから人に向かって破壊光線打ったりとかね。しないけど。何故なら死ぬので。そんな恐ろしいこと誰が…え…?ワ…タル…?くっ頭が…!発売から二十年経ってもネタにするのをやめられない…!
まぁ奇襲だろうが強襲だろうが何でもいいよ、どうせ私勝つしな。前世は天狗だった可能性が微レ存っていうか確定みたいなところある。そんな夢主は嫌だ。

「…いきなり戦闘ですかチェレンさん」
「こいつら話が通じないメンドーな連中です」

さらっと文句を言ったらはっきりとした口調で返ってきて、嫌味も上手にかわしていくそのスキルに、私は素直に感服した。個人的には君もその話が通じないメンドーな連中に含まれるわけだが自覚はないようだな。私をシナリオに誘導していく能力、今すぐ喪失してほしい。
というか、こいつらが話の通じない連中だってよく知ってんなお前。もしかしてだけど〜もしかしてだけど〜すでに何回か首突っ込んで絡んじゃってんじゃないの〜!?
どぶろっくが脳内で歌い出し、とんでもないトラブルメーカーと知り合いになってしまったらしい事実に、やはりガキに絡むとろくな事はないと私は痛感させられる。
完全に何回か会ってるでしょこのプラズマ団に。素敵ファッションのプラズマ団にだよ。もう絶対きみとは旅したくねーわ。現状を見ておわかりのように私もわりと巻き込まれ体質だからな、二人揃うと無敵の騒動呼び込みマシーンが完成してしまうだろうが。私の5キロ圏内にはなるべく入らないようにしていただきたい。それが互いのためよ。

何だかつらくなってきたので、私はさっさとボールを取り出し、敵の前にカビゴンを放り込む。何やらごちゃごちゃと威勢のいい事を言っているプラズマ団であったが、さすがに狭い洞窟内で巨神兵と対面すれば静かになるというもの…。しかし戦意は喪失しなかったようなので、フリーザを前にしたベジータよりは骨がありそうである。まぁ負けるけど。普通にお前らもフリーザに殺されてナメック星の土に埋められるけどな。せせら笑いながら天狗していると、チェレンに名前を呼ばれて正気に戻った。ごめん集中します。しなくても勝てるが。ごめん天狗も自重する。自重しても勝てるが。もう何も言わねぇ。

「誰かと組んで戦うのとか久しぶりだから自信ないな…自信なくても勝てるけど…」
「…久しぶりって事は…誰かと一緒に戦った事あるんですか?」
「普通にあるよ、嫌でもそうなる」
「へぇ…」

聞かれたので素直に答えれば、何故か恨めしそうな目をされ、私は思わず身を引いた。
な…なに。何か文句でも?天狗発言に引っかかったのかと思ったが、そこではなさそうなので逆に心配になる。
うそ…私の言語も電波…?いやそんなわけないだろ。ちゃんと人語だった。天狗語は少し話したかもしれんが気にしていないようなのでそっとしておくとして、むしろ何で天狗発言には何も言わないんだよ。ツッコミ待ちみたいなところ無きにしも非ずだよ。事実強いからかな?イッシュ人ってもしかして謙遜とかしない系の人種?私向けじゃねーか。とてつもなく住みやすい国だな。
移住を考えつつチェレンから目をそらし、私はタッグの事に思考を切り替えた。

タッグね、タッグバトル。正式にはマルチバトル。このレイコの生まれた時代にそんなものはなかった。あれは今から数年前、2004年発売のポケモンエメラルドより…いやいいわ。その辺Wikiで見て。
とにかく何回かしたよタッグバトル。一緒にあいつをぶっ倒そうぜみたいな可愛げのあるバトルとか、ちょっとロケット団潰すから手伝ってみたいな年頃の女子に頼むべきものではないバトルとかしたけど、私の意思でタッグを組んだ事が一度もない事実にいま震え上がってしまったよね。そして現在も記録更新中。とんでもない事に気付いてしまって思わずガラスの仮面顔である。恐ろしい子…!
自らの意思で率先してタッグを組む日が来るのかと心配になっていれば、チェレンはまだ食い下がってきて、正面のプラズマと隣のチェレンを交互に見続けた結果、首の筋肉は限界だと言わんばかりについに悲鳴を上げた。ひ弱すぎかよ。

「どんな人と?」
「どんなって…とりあえずこいつら片付けてからね」

何故か気にしてくるチェレンを優しく諭し、私は勝負に集中する事にする。しかし集中している間にひねり倒したので、一人静かにコロンビアポーズであった。
普通に勝つからな。本当に負けた事ない。そういう設定。私のカビゴン倒したきゃ100レベの格闘タイプ連れてこいって話だよ。防御低いから間違いなくBADEND。絶対に連れてこないで。
私がコロンビアしている間にも当然時は進んでいるので、こちらが勝利の余韻に浸っている隙に、チェレンは奪われたという知り合いのポケモンを取り返していた。プラズマ団は悪役らしく尻尾を巻いて、イモトアヤコかなってくらいの速度で我々の前から逃げ去っていく。洞窟には私とチェレンの二人だけが残され、足音が完全に消えるのを聞き、あっという間の出来事の終焉に溜息をついた。

早い。もう全てが早い。お前普通に仕事早いなチェレン。私ただドヤ顔でボール投げて両手あげてるだけだったんだけど。この達成感のなさ。まぁポケモン取り戻せたんならいいけどね。それが一番大事。大事MANブラザーズバンドがそう教えてくれたでしょ。世代じゃないから知らないという可能性に気付いてしまった私は無言で虚を見つめ、もはや何も言うまいと沈黙した。平成が終わる事も信じられない老害は黙るよ。

しかしこれではっきりした事が一つだけあるな。いや私が老害な事じゃなくて、私とチェレンがプラズマ団のブラックリスト入りした事ですよ。
取り戻したポケモンを優しく抱えるチェレンを横目に、私は平成どころか平穏さえ終了させられ、心の内は修羅である。
もう完全にマークされたと思うわ。あれだけ衣装に金かけてる組織が敵対するトレーナーを放っておくとは思えないんでな。これで放っとかれたらさすがにびびるわ。いい加減警戒心のある組織に出会いたい、例えゲームのシナリオを覆す事となっても…。しかしCERO:Aがそれを許さないのであった。
くれぐれも背後には気を付けろよ、と助言を残し、私はカビゴンをボールに戻す。あと変態にもね。これはわりとガチだから。旅立って最初の町で変態に会うとか君すごいもの憑いてると思うから本当に気を付けてほしい。心配だよ。他にもっと心配するところはあると思うが、今日はいろいろ衝撃的だったのでもう何も考えたくない。とにかく戦闘は終わったのだ、こんなところに長居は無用だね。私はさっさと洞窟から脱出し、あとに続いてきたチェレンを振り返って尋ねる。

「サンヨウまで戻るの?」
「はい。ポケモンを返してあげないと」
「じゃあ乗りなよ。送ってあげるから」

今度はチェレンにメットを渡し、私は原付にまたがった。自分でやっておきながら一連の動作に思わず乾いた笑みが漏れる。
一体どうしたんだい私、ヤキが回ったか?送ってあげるなんて優しいじゃないの。超優しい。バファリンを越えた。そんなキャラじゃなかったはずだぜと自分に問いかけつつ、まぁここで関わってしまったのも何かの縁だと言い聞かせ、ろくに働かなかった詫びも込めて来た道を引き返していく。たまに徳を積んでおかないと不慮の事故とかで死にそうだからな。一回死んだ方がいいんじゃないのか。

それにしてもさっきのプラズマ団とかいう奴ら…やっぱどの組織もポケモンを盗むという発想は同じなんだろうか。何が目的か知らないが随分安直ですね。陸とか海とかを増やす!湖に爆弾を落とす!くらいぶっ飛んでたらちょっとは何か思うところもあったかもしれないけど、ただのポケモン泥棒ならサトシのピカチュウを狙うムサシとコジロウと大差はない…。でもポケモン解放が何とかって言ってた気もするな。宗教っぽいワードだ。謎は多いけど、別に知りたくもないし関わりたくもないので、出来るだけ回避していこうと誓い、ノーヘルで清々しく風を浴びる私に、後ろのチェレンが声をかけてきた。
言うまでもないが、ノーヘルは犯罪です。良い子も悪い子もマネしないでね!

「レイコさん」
「なに?」
「さっきの続きですけど…」

なんだっけ。
すでに先程の会話など忘却の彼方である私は苦笑しつつ、あれね、あれあれ、わかるわかると適当に頷き、相手の出方を窺った。マジにわかんねぇから詰んだわ。すまん。しかしきっと大した話ではないと思う。そしてそれは恐らく正解である。

「誰とタッグバトルした事あるんですか?」
「ああ、その話ね…。えっと、ジョウトのチャンピオンとか…ホウエンのチャンピオンとか…シンオウの…チャンピオンとか…」

タッグの話かと思い出して、すぐに記憶を辿り、指折り数えつつこれまで共に戦った人達の顔を走馬灯のように脳裏に浮かべていく。口に出しながら複雑な気持ちになってきたので、最後なんかほとんど蚊の鳴くような声だ。全員のニヒルな笑みを思い出すと、こっちとしては失笑しか漏れない。
冷静に考えるまでもなくチャンピオン率やべぇな。自分で言ってて引いたわ。嘘だろ承太郎。本当に?こんなにこき使われたっけ?全部タダ働きだよ、タダ。だってよく考えなくても私の手を借りずに解決できたはずなのに、わざわざ私とタッグを組んで事件に挑むという謎行動だから本当に理解できない。
チャンピオンってあれかな…いろんな人とタッグ組んだりバトルをしたい、そういう純粋な精神を持った人がなるべき職業なのかな…私のような汚れた人間にチャンピオンになる資格はない…もしかしてそれを教えるために?放っといてほしい。何かちょっと残念な心境になったところで、もうこの話は終わらせようと勝手に決めていたら、何故かチェレンはまだ食い下がってきたため、こいつとんだ物好きだなと眉をひそめる。こっちは思い出して結構傷付いたからもうやめてほしいんだけど。

「どういう…関係なんですか、その人達とは」

ストレートなようで曖昧に尋ねられた私は、反応に困って首を捻った。質問の意図が不明確な中しばし考えたが、特にこれといった関係性は浮かんでこない。
どういう関係って…何。どういう感じに聞いてきてんの。何かいかがわしい響きだけど。強いて言うなら知人だな。ただの知人。いや、それともあれか、シロナさんと百合かどうかって事を聞いてるのか?全くしょうがない子だね…男の子だから気になるかもしれないけど、そういうのは秘密にしてた方が燃える…そうでしょ?どうでもいいわ。
まぁこの子チャンピオン目指してるって言ってたし、コネやアドバイスなどが欲しい感じなのかもしれんなと思うと、若干微笑ましい気持ちになってくる。この就職難の時代…そういう手を使うのも全然ありだと思うから、片っ端から当たっていくのは賢い方法だろう。でもごめんね、もしかしたら私ポケモンリーグさえ出禁の可能性ある。泣けてきたがな。

「別に…そんなに何度も会ってるわけじゃないし、特別親しいわけでもないよ。困った時に協力しただけ」

大人な対応で答えたが、今の言葉には語弊がある。協力したのではなく、協力させられたのだ。たまたま突っ立っていた私を使っただけだあいつらは。そういう奴らなんだよチャンピオンってのはよ。個性の暴力ですよ…しかし今となってはいい思い出…になるのはまだ早いからな。あと十年は根に持ってやるぞ。どの辺が大人?
私の返答に少し納得したらしいチェレンは、さっきまでの饒舌とは裏腹に、今度は急に黙り込んだため、年頃の少年の気持ちが全くわからず首を傾げる他ない。
何かすまんな、がっかりしたかねチャンピオンと親しくなくて。夢壊した感じで。コネもなくて悪かったわね。今度会った時はシロナさんと有栖川樹璃と高槻枝織みたいな感じになるよう頑張ってみるわ。奇跡を信じて。想いは届くと。届いてたまるかい。

しばらく沈黙が続き、何だかちょっと気まずい空気に居たたまれなくなる。早くサンヨウ着かねぇかなとぼんやりしていたら、チェレンはまた私の服の裾を引っ張ってきた。今度は体が傾くほどではなかったが、普通にくすぐったかったので一瞬驚きに肩をすくめる。
何ちょっとびっくりするじゃん。やめなやめな。こちとらノーヘルだよ。事故したら罰金取られるやろが。ていうか走行してるところ見られただけでも罰金だっつの。本当に誰もマネすんなよ。盗んだバイクで走り出していいのは尾崎豊だけだからな。

「それなら…」
「ん?」
「それなら、その中だと僕が一番…レイコさんと親しかったりしますか」

低めの声で聞かれて考える。何だか犯罪めいた質問に動揺して、ハンドルを握る手が震えた。
え、イッシュって別に18歳未満とタッグバトルしても罪には問われない…でしょ?大丈夫?そういう謎法律ないだろ、頼むよ。たとえ親は殺しても性犯罪の加害者、しかも冤罪になるのだけは本当に嫌なんだから。司法の圧力に怯えつつも、そうだなぁと曖昧に返事をして私は原チャのスピードを緩めていく。サンヨウシティはすぐそこに見えていた。

「私の電話番号知ってるの君だけだからね」

そう答えたあとに思い出してちょっと顔が引きつった。
あ、ポケギアとかポケナビとかの番号は普通に多数に知られてるかもしれん。電話持ちすぎててその辺よくわからないからどうかな。国内の電話くらい統一してほしい感じだよ。
訂正しようかと思って振り向いたが、チェレンがどことなく嬉しそうな顔をしていたため、水を差すのも申し訳ない気がし、結局黙っておく事にした。いつもそういう顔してれば可愛いのに、などと年寄り臭い事を思った自分に苦笑して悲しみに暮れる。もうすっかりBBAニート。波紋の呼吸学ぶか。コオォォォオオ。

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