04.シッポウシティ

マジで順調だなこの旅。旅っつーか図鑑集めが順調だわ。岡ひろみが覚醒した時くらい波に乗りまくっている私だったが、その間に宗方コーチが息を引き取っている事を知らないのであった…。
別の漫画と化している私は、サンヨウシティを出て次なる町、シッポウシティにやってきた。早速ジムを探してうろつき、いやはやこんなに順調でいいのかねとほくそ笑む。
本当もうさくさく進んじゃう。一行で町移動しちゃうから。一行でポケモン勝負も勝てるからね。エリートトレーナーの風格溢れちゃってるな…気品もあるし性格も良し、これならシッポウジムも余裕でしょう。
しかし、ニートレーナーの分際でエリトレを気取った報いなのか知らないが、肝心のジムは全然見当たらず、町を一周したところで私は足を止めた。

そう、ここ、ジム無い。
ジムあるって聞いてたのに全く見当たらないんだが。これってもしやあれか?サンヨウみたいにレストランの中にあるとかそんな感じ?本当イッシュは都会っつーか意味不明っつーか…何故そこにそれを?みたいなのあるね。レストランの中にジムあったらまぁ普通に食器飛ぶじゃん。うちのカビゴンなんかボールから出しただけで振動で皿十五枚も割ったし。サンヨウジムは確実に出禁、はっきりわかんだね。

出禁記録を更新しているだけでは何も見つからないので、仕方ないからいろいろ観光がてらにジムを探してみるかと私は原付をおりて歩き出す。
サンヨウもそうだったけど、ここも結構お洒落な町だよ。ネーミングはちょっとジャパンリスペクトっぽいけど。そんな事を言い出したらイッシュにある町的なものはみんなジャパンデザインパターンリスペクトって感じなわけだが。作ってるのが日本人だから仕方ないね。
メタりつつ注意深く周囲を観察し、町の中央まで行けば、何やら親しみのある古風な建物が見えてきたので、私は足を止め頭上を見る。これ何かに雰囲気似てるな…と記憶をたどれば、プテラの顔が浮かんでハッとした。
そうだ、あれだあれ、ニビの博物館。ひみつのコハクをくれる事で有名なニビ科学博物館じゃないですか。あそこでもらったプテラ死ぬほど懐かないから投げ返した方がいいぞ。何なら憎悪すら向けられてる感じだし。今頃父の研究室で優雅に寝てるんだろうなと思うと無性に腹が立ったが、気持ちをやり過ごして建物の近くまで行く。入口にある看板を見ると、やはり博物館と書いてあった。

シッポウ博物館。なるほどね。どうせしょぼい月の石とかスペースシャトルコロンビア号とか展示してあるんでしょ。50円で入れるレベルの。いあいぎり使えば裏口に入れるという管理体制が雑な場所なんだろうが。博物館にろくな思い出がない私は、看板を睨んで鼻を鳴らす。
まぁ入って早々大きいドラゴンポケモンの骨とか飾ってあったら謝るけどな。カントーの田舎と比較してすいませんでした。
図鑑集めのヒントになるかもしれないし、どうせ今日はここに泊まる予定である。寄っていって損はないだろう。レイコはニートになるためならいかなる努力も惜しまない女であった。それはもはや普通に勤勉な人間になってしまっている気もするが、あまり深くは考えない。考えたら負けだし仕事と思ってるから最悪殺す事もある。

入場料とかいるのかなぁなんてぼんやりしながら財布の中身を思い出していると、突然目の前に何かが現れたと思ったのも束の間、私は入口の前で出会い頭に何者かと結構な勢いでぶつかってしまった。突然の衝突事故に一瞬銀河が見え、死兆星を視界の端に確認する。いや死んでたまるかよ。
いってぇなと前頭葉のダメージによろめいて、てめーどこ見て歩いてんだよ!と典型的な怒号を飛ばしかけたが、こっちも全く前を見て歩いていなかったので素直に謝り顔を上げる。いい子じゃん私。大体こんな漫画みたいなぶつかり方あるかよ普通。食パンくわえて遅刻遅刻〜!とか言ってたら間違いなくラブストーリーが突然始まってたぞ。
しかし徐々に視線を上げ、ぶつかった相手の顔を見た瞬間、私の脳内の小田和正は沈黙していった。

あれ…こいつ…もしかして。
深く被られた黒い帽子。ダメージヘア気味な緑の長い髪の毛。お洒落なのか何なのか腰にぶら下げているルービックキューブ。そしてあの電波な。変な名前の。

「え、N…」

私はひきつった声で呟いた。まさかこんなところでまた出会うとは完全に想定外である。

え、何してんのこいつ。この不審者まだうろついてたのか?病院に戻らず?大丈夫かよ。きっと今頃大騒ぎですよ。101号室のNさんが戻らないんです!何だと!24時間以内に薬を打たなければ電波を発生させてしまう!お願いです!Nを…Nを探してください!あの子は何も知らない無垢な子なんです…!あんな病気にさえなっていなければ今頃…!妄想上のNの母が脳内で泣き崩れる。茶番はいいから早く帰りなさいよ。お前がここにいても何のメリットもないし、危うくラブストーリーは突然にのイントロが始まってしまうところだったじゃねーか。ここでお前が大丈夫ですか?お怪我は?とか私に声をかけてきていたら確実にサビ流れてたからね。始まってたよ、東京ラブストーリー。危なかった。

計画的なラブストーリーを求めている私は棒立ちで相手を見据える。
本当何でこんなところにいるんだよ、博物館に一体何の用が?電波でも立ち入れるという事は入場無料の可能性が高いなと不躾な憶測をしてNを見ていると、向こうも私の存在を認識したのか、少し微笑むとお構いなしに近付いてきたので、思わずスペシウム光線の構えを取って動きを制する。もちろん光線は出ない。つーかぶつかったこと謝れや。

「僕は誰にも見えないものが見たいんだ」

これだもんな。謝罪という概念が死んでる。挨拶もなしに電波を発生させ始めたNに、私も今なら光線を打てるかもしれないという気分になってくる。いきなり始まった電波トークショーに露骨に顔をしかめ、半口を開けた。
何なんだよお前。もう何もわかんねぇから。意味がわからない。言っとくけどイケメンだからって何でも許容してやると思ったら大間違いだからね。ただしイケメンに限る、とかいう言葉もあるけど、電波は除くって意味合いも含まれてるから何も許されませんよ。その辺理解して生きてほしい。まぁ今ならさっさと謝れば許してやるけど。許容してんじゃねーか。

度重なる電波トークにもひるまず突っ立って、もう何を言っても無駄な感じがした私は、半分諦めながら構えを解く。光線は出ないし三分間も戦えない私は所詮クソニートだ。ジュンサーさんが通りかかってくれるのを待つことしかできない非力なウルトラニートよ。
ただな、こんな人間の底辺を生きる私にも一つだけお前に要求できる事がある。それが謝罪です。正式な謝罪ね。とりあえずぶつかったこと謝ってほしい。挨拶より電波より先に謝罪だよ。私を見て。咄嗟に謝った日本人の腰の低さを見ろや。
果たして会話が成立するかどうかは不明だったが、最終的には土下座して謝らせたかったので、私は通信ケーブルを使い、Nとのコンタクトを試みる。

「…誰にも見えないもの?」

オカルト電波の発言を復唱し、私は尋ねた。
無視して逃げてもよかったんだが、このまま通報の機会を窺うのも悪くないと判断し、こっそりリュックからライブキャスターを取り出そうとする。しかし片付けられない女なのが災いし、コンビニで貰った割り箸しか掴む事ができない。捨てろよ。
私がちゃんと返答した事に満足したのか、リュックを漁っている間にNは口を開いて、さらに言葉を紡いでいく。とりあえず謝る気はないわけね。もういい、ならば訴訟だ。法廷で会おう。

「ボールの中のポケモン達の理想。トレーナーという在り方の真実。そしてポケモンが完全となった未来…」

早口でつらつらと話すNの言葉に、私は早くも聞き手に回る事を挫折しそうだった。CERO:Aを明らかに越えた高難易度に頭痛すらしてくる。
高い。難易度が…高い。何の難易度って不審者の難易度が高すぎるわ。目頭を押さえて静かに唸った。

これは…何。何だ、どうする。何を言っているの?二回しか会ってないクソニートに一体なにを?まさかとは思うけど哲学的な話ではなかろうな。ニート相手に。小卒のニート相手にか。もうニートになるしか道のない低学歴のIQ察してくれよ。学の無さは見たらわかるだろ。放っとけ。
具合が悪くなりそうなNの小難しい言葉に顔をしかめながらも、下手な事を言って逆ギレされてはたまらないので、わりと真剣に電波への理解を深める努力をした。電波を避けるにはまず電波を知る事が大事だ、あと何気ない会話の中にお前の入ってる病院のヒントとか隠されてるかもしれないし。すぐに連れていってやるから安心してくれジャミングボーイ。そして二度と戻ってくるんじゃないぞ。

とりあえず整理だ。リュックの整理はできなくても話の整理はできる。小卒の私は頭を捻り、Nの言葉を最初からゆっくり脳内再生した。
とりあえず聞いたのは、誰にも見えないものが見たい→ボールの中のポケモン達の理想→トレーナーという在り方の真実→そしてポケモンが完全となった未来。以上だ。
つまり理想、真実、未来が見たいと。納得した私は勝ち誇った顔をしたが、意味は全くわからないので苦笑してごまかすしかなかった。
いやそんなもん誰にも見えねーよ。お前の言った通り目に見えるもんじゃねぇ。だからお前にも見えないと思うわ。
顕著に出ている厨二病の症状に、早くお薬を処方してあげたい気持ちに駆られたが、未来以外は何とかなるんじゃないかと思い直して、私は首を捻った。

ボールの中のポケモン達の理想…トレーナーとしての在り方の真実…それはポケモンとトレーナーが模索していけば掴めるものなんじゃないだろうか。ニートの私が偉そうに言うのもあれだけど。ライブキャスターの代わりに出てきたモンスターボールを見つめ、静かに息を吐く。
その間、Nは私を責めるような目で見ていたので、さすがの私もたじろいで逃げ腰になってしまう。そういえばこの人もポケモンをボールに閉じ込めるなんてマジ萎え…みたいなことを言っていた気がし、ますます居たたまれない。
そんなの…ポケモンに寄るだろうし…トレーナーにも寄るだろ。何が幸せかなんてそれぞれ違うんだ。結婚しない奴は非国民みたいな扱いをしてくる連中にもそれをわからせてやりたいし、ボールに閉じ込める事を悪とする連中にもわからせてやりたい。
つまり何が言いたいかというと、個人差。私からは以上だ。

「キミも見たいだろう?」

当然でしょ?みたいなテンションで問われたが、そんな事は全くなかったので私はすぐに首を横に振った。

「…そもそも私まずトレーナーじゃないし」

本職はニートだ。主な仕事内容は自宅警備。

「あんたの言ってる事はよくわかんないっていうかほとんどわからないけど、でも何か違うと思うな」

何にでも反骨したいお年頃なもので、私は冷たく言い放つ。
本当にね、ガチでわからん、お前の言ってる事は全てな。小卒にもわかるように言ってほしい。お前がいちいち小難しいから子供たちもBWをプレイせず金銀リメイクの方で遊んでるという悲劇が起きるんだよ、悔い改めろ。お前のキャラデザ担当の人も炎上してたしよ。すいません何でもないです。
触れてはならないメタフィクションに切り込んでしまった私を、Nは失望したように見つめ、そして呟いた。

「期待外れだな」

真面目に答えたというのに、Nの口から出た言葉はたった八字で、これまで私が結構な文字数を使って必死に考えたものを一言で片づけられてしまった事実に、思わず白目を剥く。

期待外れだな。以上。

今のは…さすがの私も繊細ハートを粉砕されたぞ…跡形もなく粉々、クリリンなみに玉砕したわ。かなり真剣に色々と譲歩した末のこの仕打ちには、怒りを通り越して悲しみの方が強かった。つらい。とっても真面目に考えたのに…悲しすぎ…もう無理…マリカしよ…ブフォォォンンヒャハァァァヒュイゴー!虚しい。

私の返答を偉そうに評価してそう呟いたが、そのわりにNは笑みを絶やしていないので、不気味すぎるあまり早く通報したい衝動に駆られた。期待外れとか言ったわりに結構気に入ってるでしょ私のこと。カラクサで会ったの絶対覚えてるよね?そりゃ私はお前みたいな不審者に会ったら絶対忘れないけど、そっちは私のような平凡夢主のことなんていちいち覚えてなくても無理はないのに、完全に顔見知り感出してきてるからこれは間違いなく目をつけられたわ。不本意。通報しましょう。
ようやくライブキャスターを見つけたその時、Nは私から離れると、少し間隔を取ってきた。博物館前で謎の距離感を保ちながら向かい合う形となり、一体今度は何だと思って相手の手元を見れば、そこにあったのは赤と白の見慣れた球体。ポケモントレーナーの友こと、モンスターボールであった。

まさか。またかよお前。

「それよりも僕と僕のトモダチで未来を見る事ができるか、キミで確かめさせてもらうよ」

それよりもだと貴様。おい。待てよ。そういう感じで流すのかよ、だったら最初から聞かないでくれるか?私の貴重な時間を返して。お前と話してなかったら数秒延びたはずのニート時間を返せよ。せこい。

いよいよ腹が立ってきたので、私もボールを手にして挑発に乗った。
上等じゃねーか電波野郎。学歴で人を小馬鹿にしやがってよ!この世界で重要なのは人格だって事を思い知らせてやるからな!ニートが人格を説くという本末転倒な妙技をとくと見よ。
こうなったら完膚なきまでに叩きのめしてやるぜ。二度と私の前に現れられないようにトラウマ植え付けてやる。むしろこっちがトラウマになってる事には気付きたくなかった。現実は非情だ。
なんて思ってる間にもやっぱり勝負はつくわけで、指示を出すより前にカビゴンはNのポケモンをフルボッコにすると、余裕のミサワ顔を披露する。もうボールから出すだけで終わっちまう。トレーナーとは一体何だったのかって感じだ。少なくともこれはトレーナーとしての在り方の真実ではないなと思ったら、Nの言葉も馬鹿にできず、私は気まずく立ちすくむ。

瞬殺されたNはポケモンをボールに戻し、俯きがちに何かを呟いた。負け惜しみなら聞いてやるぞ、と私は上から目線で髪をかきあげ、勝利者の余裕を見せる。といっても三分くらいしか待たないからな。短気加減がムスカと一緒。

「まだ未来は見えない…世界は決まっていない…」

全然違った。負け惜しめ。惜しめよもっと。手応えがなさすぎる勝負に、私の堪忍袋も限界が来そうである。
お前と戦っても何も楽しくないし困惑だけが募るから本当にやめてほしい。爽快感ゼロ。何なんだよと項垂れながら、敗北時のセリフさえ人語を越えているNに、私はもうお手上げだった。
もういい、好きにしてくれ。しんどいわお前。頼むから私のIQに合わせてほしい。知能が違いすぎるから…お前の事はもうセーラーマーキュリーだと思って接していくから許してよ…何も悪いことしてないのに何故私が許しを請わなきゃならないのか。この空間は何?虚無?
バトルに勝利したこっちが白旗をあげているにも関わらず、Nはボールを見つめながら尚も話を続けようとする。ジュンサーさん早く。私の精神が取りこまれる!

「今の僕のトモダチとではポケモンを救い出せない…」

独り言なのか私に言ってるのかよくわからない音量でNは語り続けるも、私にはもはや返事をする元気など欠片も残ってはいなかった。何をしても勝てるイメージが湧いてこないので、最後には気力を完全に失い五感も奪われていくような感覚に陥ってくる。これが…幸村精市のテニス…?
いっそ逃げた方がいいのかもしれないと考えたが、よくよく考えれば私は博物館に入りたかったので、入口付近を占拠しているNがどいてくれない事には身動きが取れない状態だった。この先はポケモンリーグ殿堂入りしないと入れないよ、みたいな感じで洞窟前に立って入り口を封鎖しているCPUのごとく私を邪魔するNの役割に、歯ぎしりが止まらない。歯が摩耗したらお前が責任取れよな。

「僕には力が必要だ。誰もが納得する力」

マウスピースの作製費について考えていた私を、不意にNはじっと見つめてくる。
力が…ほしいか…?とでも言えばいいのかとガンつけ、腕を組んで鼻を鳴らした。全部なに言ってるかわかんないけど力の話なら全然するよ、最強の力持ってる私の話聞く?力の話する?ミサワ顔でな。レベル上げしすぎて二日寝てないわ〜二徹だわ〜的な事だよ。電波カワイイ宣言してんじゃねぇぞ。

そのさぁ、誰もが納得する力ってつまり俺、そう俺の?この俺様の美技?に近いところあるんじゃないの。私の力どう考えても誰もが納得する強さなんだけど。でも誰もが手にできる力じゃないんでな。主人公じゃないとたぶん無理。だから諦めてほしい。ミッドフィルダーがキーパーになれないのと同じで、これはポジションの問題だから。

力があるっていうのは悪い事じゃないし、むしろ何かと有利だし、このような変態電波相手に不名誉な大敗を刻む事もないから、わりと最高って思ってるところ少なからずあるよ。誰もが納得するこの圧倒的手持ちの強さは、私の人生に莫大な影響を与えてくれた。情熱大陸に出れるくらいにはね。
しかしだ。その力があったからこそ、私がイッシュまで飛ばされてしまったのもまた事実。私が非力であったならば、私のポケモンが100レベでなければ、親もこんな異国に放り出したりはしなかっただろう。つまりそれだけハイリスク。リターンも大きいかもしれないが、得た力で失うものも…あるよ。たとえばニート生活とか、ニート生活とか、まぁここから見えるニート生活的なものはみんなニート生活だな。
お前にその覚悟があんのかいと睨んでいたら、Nは決め顔で私を見た。腹立つなその顔。

「必要な力はわかっている。英雄と共にこのイッシュを作った伝説のポケモン、ゼクロム」

頭の中でこれまでと今後の人生を嘆いていると、急にNの言葉に具体性が帯び出して、私は露骨に驚いた。同時に初めて食いついた。

え、で…伝説…?伝説のポケ…モン…?
まさか変質者からヒントを得られるとは思わず、私は口を開けて衝撃をあらわにする。
で、出た、伝説のポケモン…ここにきて出た!一種族一個体しかいないという伝説のポケモン!ついにこの地でもその話が出たか!フラグが!まさかこの電波の口から出るなんて!一気にテンションが上がり、ちょっと食い気味に身を乗り出す。

やはりイッシュにもいたか、伝説のポケモン。そう、それを記録しなければ私の旅は終わらない。これが結構な難関なのだ。シリーズを重ねるごとに伝説ポケモンのバーゲンセール状態な昨今…唯一無二のポケモン達を見つける事が今までどれだけ大変だったか貴様にはわかるまい。これまで出会ったポケモン達の顔が走馬灯のようによみがえりながらも、伝説ポケモンの居場所のヒントでも得る事ができればこの電波の話に付き合った甲斐があると思い、私はここにきてようやく気力を取り戻した。

でも力が必要って事はお前…もしかして捕まえる気か?伝説のポケモンを。
電波に従えられるポケモンを想像し、一瞬スペースキャットの顔をしてしまう。
お前が?本当に?電波にそんなポケモン従えられるの?いやでもこいつが捕まえたやつを記録させてもらえばいいわけだから、探す手間は省けるという事も…有り得る。伝説の話を持ち出した本人であるNをスルーして、私は思考を巡らせる。
ちょっと非人道的手段でこいつをどうにかして、その隙に記録を取らせてもらえればあるいは…そうなるとこいつとそこそこ関わっておけばまたどこかで出会うだろうし、こいつが伝説のポケモンを捕獲したあとでコンタクトを取り、何やかんやして記録させてもらえれば私のニートは当確…?いけるんじゃねーの。この計画、いけるで工藤!思わず服部顔でガッツポーズを決めた。

「僕は英雄となり、ゼクロムとトモダチになる」

頑張れ工藤。何かもういろいろとよくわからないところも多いけど、その伝説のポケモンと友達になるってところだけは全力で成功を祈っているわ…頑張って…私の余生のためにもな。次会う時はお前がそのゼクロムとやらを捕まえた時だね。それ以外ではもう…いいから。お会いしたくないです。
この電波がゼクロムを使って何をしようとしてるのかは知らないが、そんなもん私には関係ないので甘い蜜を吸う気持ちでNの成功を祈った。私は自身のニート生活のためだけに生きてるんだ。それ以外はどうだっていいんだ。目的を達成するためならポケモンをボールに閉じ込めておく事だって構わないし。全然構わない。構わない…事もないか。そういうのはちょっと違うよなやっぱ。

私のポケモンどう思ってんだろう。閉じ込められてるとか思ってるかな。それはちょっと困るな。そんな事ないよねと言い聞かせて顔を上げたら、そこにはもうNの姿はなかった。

早。相変わらずの早業。さようならくらい言えよ。お前はまず挨拶というものを覚えた方がいい。うちのカビゴンでも出来るぞ。とにかく今度はゼクロムと共にお前の親にも会わせろ、ガチ説教してやるからな。悪の組織のボスとかだったら遠慮するけど。フラグじゃねーよ。
何だか微妙にもやもやした気持ちにさせられたので、わけもわからず苛立ちながらも、私はようやく当初の目的であった博物館へ足を踏み入れる事ができた。

長かった…ここに入るまで…長かった…。ロード全章歌い切ったくらい長い時間に感じたわ。とりあえず無事に博物館に入れそうだから一安心。嫌な事はさっさと忘れよう。今日の変質者は明日に持ち込まないがモットーです。
ところでここ入場料はいくらなのかな…と表に出ている看板を見たら、そこには大きな字で衝撃的な事が書かれていた。

シッポウシティポケモンジム。
ジムリーダー、アロエ。

ジム、ここじゃん。

  / back / top