確かに私はその昔、バンダイから発売されたキーチェーンゲーム、たまごっちに魅了させられた事があった。

世話を怠って死んでしまった悲しみに打ち震えた事もあったし、何なら十回くらい殺した感じだし、めちゃくちゃリセットしたし、挙句飽きてデジモンに移行したクソである。まともに育て切った覚えのない私は、このように何かを世話するという行為が得意とはいえず、いまだに自立したカビゴンしか所持できない状況なんだが、そんな私に、愚行を働く者がいた。

「…卵を預かってほしい…?」

マダツボミの塔を攻略し、ついでにジム戦も終えた私は、原付に跨って次の町へ行こうとしたところで、ウツギ博士からの電話を受けていた。ポケギアってのは便利だが、用事を押し付けられやすい点は大いに問題ありだと感じる。

嫌な予感がしながらも、一体何用かと渋々尋ねたら、なんと、この前持ち帰った卵を預かってほしいなどとほざかれたのだ。そう、ポケモン爺さんにもらった疑惑のポケモンの卵である。
すっかり忘れてたし何なら忘れたままでいたかったくらいなのに、突然そんな事を言われ、混乱しないはずもなかった。こっちはただでさえジムリーダーのハヤトが使ってきた9レベだか13レベだかのピジョン見て混乱してんだよ、これ以上頭を掻き回さないでくれ。進化レベル18なの知ってんだからな。

まさかすぎる特命任務は荷が重いどころではなく、実際荷も重くなるし、とても博士の頼みを聞ける状況には思えなかった。

いやだって絶対無理でしょ。お前知らないだろ、私の管理の杜撰さ。
いつか使うだろうと思って取っておいたコンビニの割り箸とか、もう三年くらいリュックの底に眠ってるんだぞ。ジムバッジはちゃんとバッジケースに入れてるにも関わらず、そのケース自体が紛失するし、いま使ってるこのポケギアだってリュックの奥底に沈んでた、だから一回留守電になっちゃって掛け直したのよ!そんな私に…卵を預かれだって?

たまごっちと同じ運命を辿るだけですよ、と力説しても、マッドサイエンティストの博士は聞く耳持たず、どうにか卵を孵そうとその事で頭がいっぱいになっているようだった。

「ポケモンの卵、ここに置いていろいろ調べてみたんだけど変化なくてねぇ…レイコさんポケモン連れてるでしょ?元気なポケモンと一緒にいたら何か影響されるんじゃないかと思ってね」

私のカビゴンが元気かどうかはさておき、まずトレーナーが元気じゃない事に関してはどう解決するつもりなんだろう。能天気な博士に半分キレていたが、この前ワニノコをみすみす逃がした負い目もあり、私は強く出る事ができない。無駄に責任感のあるニートであった。

まぁ偽物だとは思うけどさぁ…でも仮に本物だったらどうすんだよ。専門知識もないし、電波の入らない洞窟とかで孵化したらやばくないか?へその緒とか切れないからな?それ以前に絶対割るって。私のアグレッシブなドライブテクニックに卵が耐えられないって。

えー…と終始歯切れ悪くしていたら、もう持ってるだけでいいから!と最後には言われ、仕方なく私は了承した。どうなっても知らないからね、と脅しだけは入れ、わざわざキキョウまで配達に来た博士の助手から卵を受け取り、早々に持て余している。

地獄だ。忘れてたけどそれなりに重いんだった…。
何とか整理したリュックに卵を押し込み、背負ってうろうろしてみたけど、普通に重いし神経使う。持ってるだけでいいとか簡単に言ってくれるけどさぁ…こっちは毎日記録に勤しんで大変なんだよ。草むらを歩き回っていれば、木にぶつかる事だってある…そんなとき真っ先に卵の心配をしなきゃならないなんて、母性の死んだ私には困難すぎるよ。

引き受けるんじゃなかった…といつ終わるかわからない地獄を背負い、この先にマジに洞窟が待ち受けてると知って、さらに鬱になる私であった。
もうスクランブルエッグにして食うか〜。

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