三年前のトキワに飛ばされただけでも衝撃だってのに、意外すぎる組み合わせを見て、私の戸惑いはピークに達していた。不審な私の隣で息をひそめるヒビキくんが、何だかよくわからないけどやばそうだから関わらんとこ…って感じの顔をしている事も驚きだった。そんな目で見ないでよ。

マジでどういう事なんだ?ただならぬ雰囲気に、かつてないほどの緊張感が私を襲う。
ツンデレとサカキ…どちらも顔がカタギじゃないこと以外、何の共通点があるんだろう。確かにツンデレ氏はロケット団に何か思うところはあるようだったけど…。まさか…お前…組織に親でも殺されたの…?
あの時のカラカラの擬人化…?と血迷い始める私だったが、まだ擬人化の方がマシだと思える真実が、このあと明らかになる。

「一番だって…世界で一番強いって言ってたじゃないか!」

ショタツンデレと思わしき少年が、何やら切羽詰まった様子でそう叫んだ。その何とも物悲しい声色に、事情もわからないのに胸が痛んでしまって、凄まじい居心地の悪さに苛まれる。これ絶対ここにいちゃいけないやつでしょ?とセレビィを恨み、それでも聞き耳を立てずにはいられない。

なに…何の話?怖いんですけど。
まるで大人を困らせる子供のようにサカキへ突っかかっていくツンデレに、私はハラハラしっぱなしだ。だってその男、普通にめちゃくちゃやばい奴だからな?年端もいかないツンデレ氏が絡んでいい相手じゃないって!私が言えた義理じゃないけど!
しかし何故だろう、両者からは警戒心のようなものが感じられず、子供がヤクザに絡んでいるというのに、私の直感も助けに入らなくていいと言っているので、何とも不思議な状況だった。

「やめちゃうのかよ!?どうすんだよこれから!?」

こっちが勝手にそわそわしている間にも、責め立てるようなツンデレの声は止まらない。段々と二人が親しい間柄に見えてきて、そんなわけなかろうと自分に言い聞かせた。
何だかわからないけど盛大な伏線が回収されようとしている気がする…!い、嫌だ、見たくない…!見せなくていいってこんなの!やっぱ夢なんじゃない?ツンデレとサカキに接点なんてあった日には、私もうどうしたらいいかわかんないから!

両方とも、縁があるどころの話ではないくらい関わり合った相手である。二人の人生において、私の存在は確実にターニングポイントだったと言えよう。
そんな、私を介した接点しかなさそうなお前らがどうして仲良くトキワに!?この時はまだ私はツンデレの事なんて全然知らないし、ていうかツンデレ氏はジョウト出身じゃなかったのかよ!?お前の事を何も知らない自分にショックを受けたわ今!貴様が謎のストーカーであった事を忘れさせる衝撃。頼むから余計な情報を得る前に帰して。今だけはウバメの森に行きたくて仕方ないからさぁ!

時期を考えると、この時空はロケット団解散直後ではないかと推測する。もしそんな時にサカキに見つかろうものなら…なんて思うと冷や汗が出て、私は逃げるに逃げられない。
早くどっか行ってくれ…と願う私をよそに、二人は井戸端会議でも始める勢いでのんびりかつ真剣に語り出す。スタバでやってくれねーか?

「…負けを認めなければ先には進めない。私はより強い組織を作るため、今は一人になる」

そんで完全に私のせいじゃない?この揉め事、私が元凶じゃないかな?
心当たりしかないサカキの発言に、私は頭を抱えた。初めから文脈を追って考えると、なかなか悲惨な現状に顔を上げられない。

待ってくれ…この会話をする状況を招いたのが私だという事を思い知らせないで…。目的は不明だが、セレビィが鬼畜である事は判明したので、もはや次会ったら容赦はないぞという感じである。お前本当覚えとけよ、可愛いからって許されないからな。

どうやらツンデレは、世界で一番強いと自称していたサカキが、私のようなクソニートに敗北した事を責めているらしい。それをさらに裏付けるよう、再び怒号が飛ぶ。

「強いって何だよ!大勢で集まったって、結局子供一人に負けたじゃないかよ!」

ごめんて〜!その子供、才色兼備文武両道で奇跡の美少女最強トレーナーだったんだって〜!
ただの子供でない事をお前は三年後に知る…とカミングスーンする私の苦悩はピークに達した。ていうか元はと言えばそのおっさんが犯罪者なのが悪いんだから…私は前回も今回も善行に走っただけだというのに、何故かとても刺さって仕方がねぇよ。

通行の邪魔だった、実家のある街が占拠された、仕事だと思ってるし最悪殺す事もある、などのしょうもない理由でカントー最大マフィアを壊滅させた事に負い目のある私は、まるで自分がツンデレ氏に責められているような気分になり、テンションが地まで落ちていく。

そりゃあね、正義の心を持って悪を成敗したのであれば、私だって堂々と自分の正当性を主張できますよ。このままロケット団を野放しにはできなかった、母を失ったカラカラ、そして子を遺して逝ったガラガラのためにも戦わなくてはならない…的な心情で、確固たる信念を持ち解散に追い込んでいたなら、悔いる事など何もなかった事でしょう。
でもほとんど成り行きみたいなもんだったからよ〜!ごめんって!反省してるから!その辺にしてやりなよ!私のようなニートのガキにやられちまって解散するしかないサカキの心情お察ししてやれ!

三年後のお前ならきっとわかるはず…と性懲りもなくカミングスーンを続ける私も、強いって何だかいまだにわからないので、ついでにサカキにご教授いただこうと耳を澄ませた。もはや盗聴についての罪悪感を失いつつあるレイコであった。

「大勢の力を組み合わせる事で大きな力を生み出す、それが組織の力というもの…それが組織の強さなのだ」

言い淀む事なく持論を展開したサカキに、私はわずかに胸打たれた。普通に極悪人だとは思うんだが、身内の事はそれなりに大事にしているところがこの男のカリスマ性なのだろうと思い、複雑な気持ちが刺激される。

「私は部下達の力を活かし切れなかった…!」

少し語尾を強め、サカキはツンデレに背を向けた。あのポンコツの部下共に活かす力なんか無いっしょ、と思いながらも、確かにラムダあたりはもう少し上手く使えたんじゃないか…とマジレスを重ね、ここまでの旅路を思い返した。

大勢の力を組み合わせる事で大きな力を生み出す…か。それってポケモンとトレーナーも同じなのかもしれないな。
一人では成し遂げられずとも、ポケモンと一緒なら強くあれるのがトレーナーだし、その逆も同じ。舞妓さん達は、自分の弱さを認める事も強さだって言っていたが、あれも結局はそこに終着する気がしてきた。空飛べなくてもハクリューが一緒にいてくれたらいいって思ったのも、一緒にいるのが一番の強みだって潜在的に知ってたからに違いない。結果的に進化を果たしたから完全に証明されたな。強さの方程式、完封です。

まぁ物理的強さの理由は知らないけど…カビゴンもカイリューも元々強いんで…。部下の力を活かし切っていても敗北は決まっていたであろうサカキを薄目で見ながら、成り行きを見守るしかない我々は、とうとう物騒な宣言まで小耳に挟んでしまう。

「私はいつの日か必ずロケット団を復活させる!」

遊戯王だったら、ドン☆と効果音がついていたであろう決め顔で、サカキは言い放った。ごく最近その復活を邪魔した私はそっと手を合わせ、謎の申し訳なさを誤魔化すべく、心を無にして感情をやり過ごす。ただただ居たたまれない、それだけであった。
まぁ三年越しの復活も残念な事になりましたけど、でもアローラ…?RRロケット団…?みたいなビジョンが一瞬見えた気がするからそっちで頑張ってほしいと思う。私は行かないけど。本当に。フリとかじゃなくて。
自ら物騒なフラグを立てていると、一際しんどそうなツンデレの咆哮が轟いて、胸の痛みもいよいよ限界が差し迫る。

「わかんねぇ!」

そして、そのまま心臓が止まりそうな真実を、よりによって盗み聞きの形で得てしまうのだった。

「親父の言ってること、全然わかんねぇよ!」

合掌していた手を解いた私は、一瞬完全に昇天しかけた。スペースキャットの顔で銀河をさまよい、散らばる星々に潜む伏線を回収しながら、こっちが叫びたい気持ちになってくる。待ってくれ、と懇願しても、動き出した運命は止まらない!

ちょっと待ってよ。
今なんか、聞き間違いであってほしい単語が飛び出たんだが、やっぱ聞き間違いだよね?
現実逃避の得意な私は、ぼちぼちFGO二部三章やらなきゃなぁ…とか、メギドも詰んでるんだよなぁ…とか、旅を終えた先に待っている娯楽の事を考え、心を落ち着かせようと必死に努めた。
だって長くつらい旅だったもん…ご褒美のこと考えても罰は当たらなくない?初日からクソガキに突き飛ばされてよ、結局タンバとフスベ以外皆勤賞のストーキングだよ。今でこそ打ち解けてきたものの、わりと最近まで印象は最悪だったからな、ツンデレ氏。そして思い出される、謎めいた言動の数々が…。

尖りすぎた性格、垣間見えた複雑そうな家庭事情、倫理観の欠如、ロケット団への執拗な怨恨の念…愛情について指摘された時なんかは、何のことだかわかんないとまで言った。あの瞬間、これはやばい案件だな…って直感したけど、でも思ったよりやばかったことまでは、さすがの私も想像できなかったって話ですよ。

親父、という言葉の意味を考え、オジキ的な方面じゃないなら、可能性は一つである。

ツンデレ…!
お前…!
サカキの息子だったのか!?顔面の凶悪さに遺伝子振り過ぎでしょ!

ポケスペが先かゲームが先かでファンが揉めた問題をぶち込まれ、驚きのあまり息もできない私は、知りたくなかった真実の中で、複雑に苦悩するのである。

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