「あれ」

全く大変な目に遭ったぜ…と腰をさすりながら焼けた塔を出ると、入り口から少し離れたところに、一体いつの間に脱出したのか、ツンデレ野郎が立っているのが見えた。私は思わず声を上げ、ついつい合わせてしまった視線をそらせず苦笑する。

何だ…お前まだいたのかよ。こんなところで道草食ってたら職質受けて補導されるぞ。泥棒の件を差し置いても全体的に怪しいんだから。
ニートの私が言えた義理ではないが、暗くなる前に帰れよ、以外何も言えないくらい疲れていた私は、今日はもう休もうとポケセンへ直行する気でいたんだけど、不意に先程の彼とのやり取りを思い出して、つい方向転換した。

そういえばこいつ…私が落ちそうになった時、一応助けてくれようとしたんだよな…。
いろいろありすぎて記憶が消えかけていたが、伸ばされた手は幻ではなかったはずなので、不思議な気持ちでツンデレの傍まで行く。

私が手を掴んでたら一緒に落ちる危険性もあったってのに…咄嗟に出た行動だろうけど、それでも恩義は恩義である。まぁ落ちたけど。しかも落ちたのもこいつが迫ってきたせいだけど。そうだよ、そもそもお前のせいじゃなかったか?
混濁していた記憶が正しいものに変化していき、私は複雑な感情に顔を歪める。

あそこでお前が私を尋問しなきゃあんな事にはならなかったんじゃね?ふざけやがって…わざとじゃないって言っても死にかけたんだからな!大体不法侵入がまず重罪だし、お前が法さえ守ってれば誰も傷付かずに済んだんだよ!軽犯罪と思っていても巡り巡って私に不幸が訪れたりするんだからマジでやめろよ、手持ちがカビゴンじゃなかったら絶対死んでたんだから!

まぁ今回は結果的に記録が上手くいったから許してやるけどさ…。むしろスイクン達の常軌を逸したスピードを見たあとだと、あの落下がなければ逃げられていた可能性さえあり、悔しいがツンデレの功績を認めずにいられない。

私は貴様と違って善良なニートだからな。仕方ないから今回だけは感謝を述べておいてやる。だからお前も謝罪しろよ、突き落としてすいませんでしたって。別に落とされてはいないが記憶障害が起きている私に、そんな常識は通用しないのであった。

「さっきは…どうもありがとう。助けようとしてくれたよね、一応…」
「そんなんじゃない」

おいおい、ここに来て本当にツンデレか?テンション上がっちまうからやめてくれ。
テンプレみたいな台詞を吐かれ、無駄にそわそわした私は、初めてのデレが拝めるかもしれないと謎の期待を抱き、もう一歩近付いていく。

ツンデレ通りに受け取ると…マジに助けようとしてくれたのかもしれない。そして心配して待っててくれたのかもしれない。そりゃ目の前で落下されたら誰だって気になるだろうよ。この通りピンピンしてるから安心してくれ。かなりギリギリだったけど。よく生きてたな本当。逆に何故無事なんだよ。

主人公でよかった…と実質不死身のスキルに安堵しながら、いつになく気が向いた私は、ポケットからボールを取り出すと、先程は不発に終わった挑戦を受けるべく、相手を誘った。どうせ安否を確認しただけじゃ終わらないだろうとわかっていたので、先手を打ったのである。

「勝負しようぜ」

そのつもりで待ち構えてたんだろうが、とツンデレの事をお見通しの私は、さっさとボールからカビゴンを出した。いろいろと根に持っているので、今日こそ私の強さをわからせてやりたいという気持ちもあった。

いい加減理解していただきたい、私が滅茶苦茶に無茶苦茶に規格外に強いという事を。伝説のポケモンを捕まえて強く見せるまでもなく、最初から強いという事をな。
いまだにザコ呼ばわりしてくるクソガキを寛容できない私は、心の狭さを遺憾なく発揮し、本気のカビゴンでブチのめしてやろうと意気込んだ。
そんなおとなげない私に素っ気ない態度を取るツンデレであったが、その手にはしっかりとボールが握られていたため、素直じゃない様子にちょっと微笑ましくなってしまうのだった。

「仕方ないから付き合ってやる」

ツンデレのバーゲンセール状態にほくそ笑みながら、クッションにしたり盾にしたりしたカビゴンのご機嫌取り目的の勝利をおさめ、怒涛の新キャラ顔合わせと、ツンデレ大安売りの一日を終えるのであった。

いろいろあったけど…とりあえず今日の総括はこれに尽きるな。
焼けた塔、もう二度と行かねぇ。

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