マツバとのホラーディナーショーを終えた私はエンジュで一泊して次なる町、チョウジタウンを目指して42番道路を驀進していた。

もうね、怖い。よくわかんないけどマツバさん怖いわ。本能的に怖い。もう二度とタダ飯に目をくらませて食事の誘いを受けるのはやめると誓ったね。代償が大きすぎる。飯の味とかしなかったから。食材を活かした味とか全然わかんなかった。シオンタウンの音だけが無限ループしてた。何で相手が病んでるか病んでないかびくびくしながらご飯食べなきゃいけないんだよ、おかしいだろ絶対。何だろう、わざとなのかな?もしかしてわざとああいうキャラ作ってんの?病んでるか病んでないかはあなた次第…みたいな都市伝説なのか?わからん。わからんがイケメンと手を握り合った事実だけは家に持って帰ろう。それだけで良い。
幼少から何かよくわからん修行とかしてたらしいから感性も独特なんだろうと全てを生い立ちのせいにして私は湖上を進む。大体こうなったのも全部ミナキ君のせいだから。番号ならついでにタンバで教えてくれたらよかったんだよ。何住所だけ教えて退散してんだ、着払い伝票には相手の連絡先の記載も必要なんだからね!
何がスイクンだバーカバーカと小学生みたいな気持ちになっている私は、こういう事を考えていると本人が登場してしまうってパターンをすっかり忘れて、二秒後に早速後悔するはめになるのだった。


「…お前こそ私のストーカーだな?」

旅にストーカーは付き物である。レポートも書かずに調子よく進んでいるとどこからともなくBGMが聞こえてきて後ろからライバルがやって来るという、こんな事ならレポートを書いておけばよかった…系のストーカーが溢れているこのポケモン界。今さら人外ストーカーが現れたところで私は驚く事もなかった。目の前に出現した青色の生物に私は溜息をついてカビゴンに着陸を命じ地に足をつけた。
チョウジタウンへは、エンジュから東に湖上を波乗りして行く必要がある。相変わらずカビゴンは、俺はバタフライしか泳がない…というFree的なポケモンなので、いちいち水着を着用するわけにもいかない私はとうとう雨合羽を購入していた。小学校以来だぞこんなもん着るの。頼むからせいぜいクロールレベルに抑えておいてもらいたい。バタフライの水しぶきすげぇから。合羽越しでも何か痛い。跳ねる水が本当に痛い。そうやって全身打撲に悩まされながら進む私の行く手に、またしても現れたのがストーカー被害者兼加害者のあのポケモンであった。

人にされて嫌な事は自分もしないというのが小学校で習った唯一覚えている教訓である。案外こいつは自身が変態タキシードマントにストーキングされている事など気にしていないのかもしれない、その辺は私の知るところではないが、とりあえずストーカーされている人がストーカーをするという事は私に二重のストーカーが付くという事も同然なので、とにかく即刻おやめいただきたいと心の底から思っているわけなのである。

「スイクンさん…」

先回りストーキングという高度な技を使って、私の前に現れたのは先日タンバで会ったばかりのスイクンであった。こう何度も何度も邂逅していては伝説のポケモンも全くありがたみがないんだがその辺大丈夫か?お前もうそこらへんにいる野生のポケモンと同等の価値に感じてくるんですけど。自分の尊厳のためにもやめた方がいい。
一定の距離は保ちつつも明らかに私の前に立ちふさがっているとしか思えないスイクンは、私を、というか私のポケットを凝視して執拗に何かを訴えるような様子を見せる。がさつな私がポケットに突っ込んでいるものと言えばお菓子のゴミとかコンビニの割り箸と一緒についてくるけど全然使ってない爪楊枝とかそういう類になるわけだけど、用があるのはこれらでない事は明白なのでお目当てと思われる物をゴミをかき分けて取り出した。

図鑑とセットの旅のお供、高解像度カメラである。
これが欲しかったんだろうが!好き者め!とカメラを回すと、スイクンはドヤ顔を決めたのちに、馬鹿めこれも残像だ、とでも言わんばかりの動きで私とカメラの機能性を翻弄し、ならばスーパースローで対応してくれると二刀流でしばらくスイクンの動画を撮り続けた。
いやこれ一体何の茶番なんだよ。どんだけ映りたがり?こいつやっぱ間違いなく私じゃなくてカメラに写るために付け回してきてると思うんですけど。フレームアウトしない程度に反復横跳びを決めるスイクンに私は白けた目を送る他ない。もっといるやろがカメラ持ってる奴。そりゃあ私ほどの高度テクニックを持ってる人間はそうそういないにしてもさぁ。そんなに気に入ったなら自撮りしろ自撮り。何にしても私をつけ回すのだけはやめてほしい。何度でも言うがお前にまずストーカー付いてるからな、ストーカー付きのお前が私をストーカーしたらそれもう縦並びのドラクエスタイルでしかないからね。棺桶に入れて引きずってやろうか。
もうこんな事してたら絶対あいつが来るよ…と並び順的にクリフトポジションの男がやって来そうな事態に怯えて私は震える。頼むから早く森へ帰れとタイバニ14話のバーナビーみたいなポージングを決めるスイクンに祈っていたら、突然被害者兼加害者はモデルの仕事をやめて素早く四本足で立ち上がった。思わずカメラをそらして肉眼で確認するとその時にはもう水の上を走り去っていて、このパターンに身に覚えがある私は聞こえてくる足音の正体を確かめようともせずただ立ち尽くしていた。やめようよパターン化にするの…誰得なのか本気でわからない。どこ需要なんだ?
怒涛の勢いで近付いてくる足音の主は後ろから私の肩を掴むと、感動を抑えられないように揺さぶってきたので合羽に付着した水滴が四方に拡散していく。やめろスプリンクラーみたいになってる。

「スイクン…なんと勇ましく、なんと瑞々しく、なんと美しく、なんとすばしっこいのだ!」
「…ミナキ君」

君はなんと恐ろしいのだ、ストーカー的な意味で。
案の定スイクンあるところにこの男あり、って感じに現れたのは浪速のストーカー大魔神、タマムシシティのミナキ君である。スリープ、ゴース、マルマインという手持ちで一体どうやって海を越えてきたのかさっぱりわからない謎の青年だ、気を付けろ。
いきなりやってきてやはり挨拶もなしにスイクントークに入るミナキに私は溜息をつかざるを得ない。
もうね、君は一体今まで何をしていたんだ?来るのが遅いわ。スイクンずっとここで待機してたから。私の出待ちしてたんだからね。スイクン歴十年以上のわりに私より遅いってどういう事なの、ファンならちゃんと追いかけて。例え熱愛が発覚しても、ヤンキーの過去があっても、隠し子がいても、それでも愛して追い続けるのがファンなんじゃないのか。その一線を越えた結果ストーカーとなっているんだろうが、本当スイクン去ったあとにミナキ君と二人残される気持ちも考えてほしい。今度二人っきりにしやがったら絶対に許さねぇからなオーロラ野郎。二度と撮ってあげないんだから!
さとう珠緒のように一人でぷんぷんしている私をよそに、ミナキは自然にこちらの肩を抱いたままスイクンが去った方を見て哀愁のオーラを放っている。逆にすげーわこのナチュラルジローラモスキル。もはや慣れ切っちゃって何の違和感もない。共にスイクンを追う仲間みたいな認識で肩を組まれているこの状況に1ミリの違和感もねぇわ。マジでスイクンの事しか頭にないらしい彼は、特に距離感的なものに引っかかる事もなく私を見て口を開いたので、この間スイクンをこんなに近くで見れて感動、とか言ってたくせに女子とこの距離感で会話している事には何の感動もないんだなと複雑な気持ちを湧かせてくる。心外。もうただただ心外。ここで私がミナキ君…ち、近いよ…とか言って顔にスラッシュ六本くらい入れないと女子として認識してもらえなさそうな環境が本当に心外です。パンツェッタ・ジローラモなみに女慣れしてたとしてもそれはそれで腹立つけどな。羨ましくねーわ。

「レイコ、やはり君はいつもスイクンが現れるところにいるんだな」

発言すら心外だったので私は眉間を押さえて首を振る。
やはりとか言うな。そんな風に言われるほど遭遇してないし、その言い方だと私がまるでスイクン追いかけてるみたいじゃねーの。私のいるところにスイクンが現れてるんです。スイクン探知器じゃないから。お前の席ねぇから。
偶然でしょ、と適当に答えればミナキは納得していなさそうな表情をし、わずかに唸って目を閉じる。首から上は本当にイケメンなんでこのまま石化してくれたら未来永劫私が大切に保管するわこの石像。家宝としてガラスケースに入れておくから。これでずっと一緒だよ…ミナキ君…やばいなマツバの瘴気にあてられてヤンデレが感染してるじゃねーの。
冗談はさておきミナキは再び口を開くと自分に言い聞かせるように呟いた。

「まぁいいさ。スイクンを追い求める気持ちは私の方が上なんだ」
「そりゃあそうじゃ」
「私の祖父は…伝説に詳しい人でね。特にスイクンの事は子供の頃から何度も聞かされていたんだ」

さりげなくオーキド博士のモノマネをしてみたが悲しいくらいに総スルーで身の上話を返される。確かに突っ込まれても困るけどガン無視ってのもどうかと思うな私。いくら似てないからって無かった事にしなくてもいいじゃん。そもそも私の声は聞こえていなさそうな件は置いといて、私はようやくミナキの腕を払い共にスイクンが去って行った青い湖を見つめた。空が映り込んだ湖面に目を落とす。流れる雲。優雅に舞う鳥。全くどうしてくれんねんこの雰囲気。いや私のモノマネがスベった事ではなくて。
そもそも何、もしかして張り合われているのか?水面から視線をミナキの方に移して私は瞳を細める。スイクンを思う気持ちは私の方が上、とかって…別に私の中にスイクンを思う気持ちは存在してないから。あなたに追われて可哀相だなっていう同情心以外は何もない。ただのモデルポケモン。カメラマンと被写体の関係よ。だからライバル心とか抱かれても困惑しかないんだけど。最近伝説厨としか遭遇していない感じがして何だか妙に気忙しい。伝説のポケモンに微塵も興味ない奴、五百円払うから早急に私と友達になってくれ。その安さでは友情は買えない。いや高くても買えないだろうが。

にしてもミナキ君…まさか祖父の代からスイクン厨だったとはね。さすがの私も恐れ入ったぜ…受け継がれしDNAに少々ぞっとして背筋を震わせた。孫へあげるのはもちろんスイクンオリジナル。何故なら彼もまた特別な存在だからです。もうよくわかんないけど男ってそういうもんなのかね、伝説のポケモンの事大好きなんですか?マサキも珍しいポケモン持ってた気がするしうちの父も研究三昧、全国の小学生男子達もSランク妖怪に夢中…何がいいんだか理解に苦しむわと呆れる私のニートへの嗜好もまた人には理解できないものであるという事はもちろん棚に上げている。放っといてほしい。

「スイクン…お前がどこに向かっているのか、それを見届けるまで私は追い続けるぜ…」

キザな横顔でストーカー宣言を決めたミナキに、もはや何も言う事はなかった。頑張って、とも告げる気にもなれずただ隣で合羽についた水滴を払う。あ、そうだまだバタフライ攻撃を受けなきゃいけないんだった…スイクン騒動で完全に忘れていた私はボールの中でアップを始めているカビゴンに無の表情を向けて肩を落とす。こいつ何故いつも無駄にやる気全開?Free出演狙ってんの?
するとミナキはようやくスイクンから気をそらしたのか、私の方を勢いよく振り返って長いマントをバサバサつばさ妖精の翼って感じに揺らし整った顔を向けてきたので思わず後ずさって距離を取る。今の後退完全に条件反射だったから己の行動を色々と悔い改めてほしい。

「時にレイコ、私の番号は受け取ってくれたかな?」
「え?ああ…はい。昨日マツバさんから…」

こんなにすぐ会うなら何もマツバにことづける必要なかったんじゃないか、と思いつつもポケギアの登録画面をミナキに見せた。博士と実家とヒビキ君に続き二人のイケメンの番号を入手した私は、傍から見ればまるで合コンクイーンみたいになってるかもしれないけど実際中身はヤンデレとスイクンデレである。このポケギア呪われてんじゃないの。
不吉な道具を所持していることに怯える私であったが、次の瞬間ミナキが鬼気迫る様子で肩を掴んできたのでこっちはこっちでびびる事となった。私に安息の地はないのか。

「では何故連絡をくれないんだ!」
「えええ…」
「さっきスイクンがいたのに!」
「だ、だって…すぐ逃げちゃったから…」

成人男性にマジな顔で迫られる少女の気持ち考えた事ある?普通だったら泣いてるわ。
思わず、ふええ…系の夢主人公になってしまいそうだった私はすぐに己を取り戻して背伸びをしながら胸を張る。あぶねぇな、キャラがブレたらどう責任取ってくれんだよ。めげない、しょげない、泣いちゃ駄目、というざわざわ森のがんこちゃんの名言を思い出して再三ミナキの腕を振り払った。しかしそれ以上強気に出られないのは、今回はわりと電話をかけるタイミングがあったからで、あそこでスーパースローカメラとか出してなかったら普通に結構時間があったと感じわずかに申し訳なさは感じている。たぶん全然連絡できた。今日に限っては連絡できたからちょっと何か…ごめんな。本当。別に連絡してやる義理はないけど私も遊びすぎた自覚はある。しかし目の前で挑発的に、この動きが見切れるかな?って事をされたら絶対に撮影してやると闘志を燃やしてしまうのがポケモンカメラマンというもの…私にも私のプライドがある。悪いが諦めてもらおう。私の職業何なんだよ。
次からは連絡するんで、と何故私がフォローしなくてはならないのか疑問に思いつつそう言えば、納得したのか元々聞いていないのかミナキは遠くを見つめて目を細めた。これ私身代わり人形とか置いてても気付かれないんじゃないの?

「長い間旅をしてきたが…君ほどスイクンを引きつける人物に私は出会った事がない…」
「磁石か私は」
「確かに君のその強さは、誰もが惹かれる圧倒的なものだろう…スイクンもそこに何かを感じているのかもしれないな…」

いやあいつはただの出たがりだから。地元に笑ってこらえての中継車が来てたらわざわざカメラに写りに行く小学生と同じようなもん。絶対それだけだと思うしそうとしか考えられない。見せてやりたかったわ、出会い頭にカメラ出せやって感じに顎で指図するチンピラみたいなスイクンの顔を。百年の恋も冷めるで。
初恋の人の幻想を追い求めていくロマンチストみたいなミナキ君に白い目を向けて私は溜息をついた。正直どこがいいのかよくわかんない、本当わかんないからスイクンの良さ。確かに他の…なんだっけ、ライコウとエンテイに比べたら顔立ちも王道的ハンサムだけど目の前でバーナビーブルックスJrのグラビア撮影みたいなポーズされてみろよ、バニーちゃんファンだって草不可避だったでしょ?そういう事です。理解できないな、と首を振って私は言葉を放った。

「…スイクンのどこが好きなの?」

思わず尋ねたらミナキ君はジャパニーズホラーに有りがちな女の霊なみに目を見開いてきたので、完全に聞かなきゃよかったやつだと察知した私は即自己嫌悪に陥り、もう二度と好きな男とメールを続けたいがゆえに全て疑問形で返信する、というテクニックを好きでもない男には使わないと固く誓った。まずメールをする相手がいない事などは言うまでもない。

「好きな事に理由がいるか?」

しかし返答は案外普通のものだったので、ミナキ君の感性はまだ一般人寄りである事に対しての希望が見出せた瞬間は素直に喜びを感じてしまった。確かに、と私は頷いて自身の求めてやまないニート生活に思いを馳せる。私も特に大きな理由はないけど本能的な面でニートを求めているから同じようなもんなのかな。びびっと来たっていうか使命を受けたっていうかそういう設定っていうか。好きなものは好きだからしょうがないってつたえゆずも言ってたしミナキ君もそういう事?DNAがスイクンを求めている?それもちょっと怖いわ。

「だが強いて言うなら…スイクンはとても美しい」

あんのかよ。あるじゃねーか理由。何で最初ワンクッション置いたんだよ。あるなら最初から言えや。もしかしてこいつ私をおちょくってんのか?と最近おちょくられまくっている気がするのでなかなかに疑心暗鬼である。もうヒビキ君に会いたい。私を癒して尊重してくれるのはヒビキ君しかいねぇわ。ワカバのド田舎に向かって念を飛ばす私にミナキは言葉を続けていく。

「もちろんレイコも美しいが…スイクンはもっと…神々しく…理屈ではない何かが私の感情を揺さぶるのだ…」

こいつ何でわざわざ私を踏み台にしたんだろう。褒めてんのかディスってんのかはっきりしろや。比較対象にされて複雑な気持ちの私はもう舌打ちを堪えられない。一回や二回じゃ気が済まないよ、舌打ちだけでお前の登場テーマ歌ってやろうか。
ここ数日で何回スイクンというワードを聞いたかもわからない私の精神的疲労は積み重なっていくばかりなので、そろそろ退散しようと雨合羽のフードを被ってプラスチックのボタンを全て留めた。早く行こう次の街に。もう当分青色は見たくない。見たくないからって赤いギャラドスとかも見たくねーけどとにかくスイクンは充分なくらい撮影したから今は間に合ってます、本当。出て来なくていいからね。カビゴンもバタフライしたがってるしスピードワゴンはクールに去るぜ…とボールを出した瞬間、一つ思い出した事があったのでそれだけミナキに伝えておいた。

「あ、そういえばスイクンの動画ですけど…着払いで送っときましたんで。どうぞご確認ください」
「おお!そうか!ありがとう!帰ったらお礼の手紙を書くぜ!」

古風。まさかの文通か。本当あなたは…何故!いつも!やり取りが!郵送なんだ!?動画データだってメールで送ればいいと思うしお礼も電話でいいから!この人は一体いつの時代に生きてるんだよと最後まで私は頭を抱える。グラデーション同人便箋の世代なのか?定額小為替で支払いをしていた時代から抜け出せていないというのだろうか。どこまでも謎の青年…ミナキ…私はスイクンがどこに向かっているかよりもあんたの生い立ちの方が気になるわい。
楽しみにしてますと椿鬼奴のような声で社交辞令を述べて私は古代人をやり過ごそうとした。すると一体どこが彼の琴線に触れたのか知らないが、ミナキは穏やかな顔で笑うと私の肩を軽く叩いて称賛の言葉を投げてきたため、ますます謎の青年に対しての謎が深まっていき、逆にもう何も知りたくねぇという境地にまで達するのであった。スリーサイズとか事務所NGのタイプ。

「レイコ、君は若いがいい奴だな。マツバが気に入るだけの事はある…」
「私は気に入られていたのか」
「もちろん俺も同じだぜ。スイクンに認められている分、少々妬ましさはあるがな…」

後半声のトーンが下がっていたのでこれ以上妬み嫉みを投げられる前に私は激しく相槌を打ち会話を切り上げた。わかったありがとう嬉しいよ、私も…全然嫌いじゃないご両人の事は。ちょっと引いてるだけ。全く嫌いとかではない。これからも程々に付き合ってくれよな。程々に。本当に程々に。
勝手に好かれて妬まれたんじゃたまんねぇよと私は肩をすくめてカビゴンを出す。準備体操をしている巨体を尻目に、ミナキ君はスイクン追わなくていいわけ?と退散ワードを口にすれば、彼はハッとして手袋をはめ直しながら慌ててマントを翻した。最初に言えばよかったわこれ。俺は何て無駄な時間を…三井顔で後悔しても遅い。

「そうだスイクンを追わなくては…!じゃあなレイコ!寂しい時やスイクンを見かけた時は連絡してくれ!」

少なくとも前者はしねぇわと真顔になりながら去りゆくミナキに両手を振る。彼女かお前は。しないから。絶対にしないから安心してほしい。私寂しい時はニコニコを見るって決めてるからよ。どうしても連絡してほしいってんなら歌ってみたとか投稿してくれよな。ミナキ(歌い手)ってタグ付けてやるから。一度振り返り白い手袋をはめた腕を挙げてくるミナキに苦笑を浮かべ、私は大きな溜息をつきながら地獄のバタフライに備えて精神統一をするのであった。
スイクン、ジョウト離れてくれねぇかな。マジで。
願いが通じたのか、次にスイクンと邂逅するのはカントーであるという事を、この時の私はまだ知らない。

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