親父いつか殺すと再び誓いを立てたのは、ポケモンセンターでハイパーボールを受け取った時である。
アイテム転送口から出てくるボールをリュックに詰めていたのだが、次第に入らなくなり、そもそも何個送ってくるんだ?なんて思ってたら普通に百個も転送してきやがってポケセンで箱と台車を借りるというはめになったわけなんだが、この落とし前、どう付けてくれる?指詰めろ指。
一生忘れられないジョーイさんのあの引いた顔。白衣の天使にあんな顔をさせた事実に悲しみを抱き、カビゴンにドナドナと台車を引かせて私は再びいかりの湖へ足を踏み入れていた。心なしか嵐がより凶悪になっている気がするのはギャラドスが発生させている竜巻のせいだろう。私の死に場所、ここかもしんない。トッキュウ6号もびっくりだな。

いや死んでたまるかよ。何が悲しくて縁もゆかりもない湖のほとりで死ななきゃいけないんだ。せめてマカラーニャ湖にしてくれ。百個のボールを運ぶだけでも骨が折れたというのに加えてこの強風、絶対ボール跳ね返ってきて捕獲どころじゃないから。ただでさえこっちは素人なんですよ。釣り以外は素人のレオモンと一緒。記録以外は何もやった事がないゆとり中のゆとりだから。よく今までポケモントレーナー名乗って来れたな私。悔い改めて。

雨風に全身を打たれながら百個のボールをお供に、暴れ狂うギャラドスに立ち向かう。それはまさに死闘。生きて帰れるかわからない状況、簡単な遺書を書いてジョーイさんに預けた。何も言う事はない。今はただあのギャラドスにボールを当てるだけ。例え肩が壊れたとしても。もう二度と野球ができないとしても構わない。戦力外通告を恐れる事なく、風下に立ってボールを構え、カビゴンを盾に私はいざ参らんとギャラドスに勝負を仕掛けに行った。これは赤いギャラドス捕獲に命を懸けた一人の少女の戦い記録である。プロジェクトX。ここで地上の星流して。

まぁ作戦は至ってシンプルだから。カビゴンに攻撃させたら一撃で相手が瀕死状態になっちまうんで、もうただひたすらにボールを投げるだけ。鬼のように投げ続ける。それ以外にない。逆に他にどうしろってんだよ。どうにも出来ねぇだろうがこの状況…誰か私を導いてくれよ…涙なのか雨なのかわからない水滴を拭いカビゴンに目配せして言った。

「…私がボールを投げるから、お前はひたすらにギャラドスの猛攻に耐え抜いてくれ。出来るな?日本語わかる?」

正直戦う事しか知らないカビゴンが防戦一方なんて初めての試みなので不安だったが、どうやら人語はそれなりに理解できるらしく私の問いかけにしっかり頷きキャッチャーミットを持ってギャラドスに向かい構えていた。おい本当にわかってんのか。磯野今日は野球しない。
まぁいいやと溜息をつき私は腕を振り上げ、ダイヤのAでしか見た事がないレベルの投球フォームを真似て思いっ切りギャラドスにハイパーボールを投げつけた。その球は、風の力を借りて目に見えない速度に到達し約160メートル離れた校舎の時計に直撃したとかしなかったとか。それはミスターフルスイング。
悪天候のわりにはコントロールいいじゃねーのってくらい真っ直ぐギャラドスに向かって行ったボールは、本体に当たる前に尾で力強く弾かれ、跳ね返ってきたおよそ150キロの剛速球を見事カビゴンはミットでしっかりキャッチしたので私は思わず拍手を送った。よし!さすが!バッターアウト!馬鹿野郎、野球じゃねぇっつってんだろ。何だこの球団。その助っ人外国人バッターで呼んだわけじゃないから。
茶番をしている場合ではない。一発目から捕獲できるとは思っていなかったためすぐに次のボールを構えたが、今のでギャラドスは自分を狙う不届きな私の姿を確認したらしい。血走った真っ赤な目を光らせるとこちらに向かってりゅうのいかりをぶっ放しそうな雰囲気を醸し出したので、慌てて私はスライディングしカビゴンの後ろにその身を隠しながら叫んだ。

「あと私に攻撃が当たらないようにすること!」

すぐ横を青い閃光が走り、カビゴンはキャッチャーミットを背中越しに掲げて頷いた。おせぇわ。焼き肉奢ってやるから全力で守ってくれ。

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