チートカイリューと私のカビゴンは息を合わせる間もなくワンパンで相手を仕留め、当然の事ながら無事に勝利をおさめてボールに戻る。
本当にタッグの意味がないくらいワンマンなバトルだったな。ただ隣に並んだだけだこんなもん。タッグでも何でもねぇ。ゲーフリ何のためにダブルバトル導入したんだよ、私にとってはただフラグを立たせるためだけのシステムに過ぎないんだが?完全に不要なんで廃止してもらいたい。蓮舫仕分けしろ。

そんな政策はさておき、あっさり瞬殺されてしまったアテナと下っ端は驚いた顔をしながらも、負け慣れているのかすぐに現実に戻って悔しげに唇を噛んでいた。私のカビゴンを見て三年前の事を思い出しても良さそうなものなのに、ちっとも琴線に触れないみたいだから案外この変装も意味なかったかもしれねーな。ランスだけだよ、私のカビゴンに見覚えあるって言ってたの。本当惜しい人を亡くしたね…勝手に殺すな。
瞬殺したけどどうする?みたいな腹立つ顔をしていれば、アテナも負けじと腹立つ顔で迎え撃ち舌打ちをする。もはや撤退するしかない流れ…最後にワタルの40レベのチートカイリューについて言及などあれば聞いてやるぞ。私がいろいろ言いたいわい。

「…まぁいいわ」

意味深に笑ったアテナは、特にカイリューに対して指摘する事はないらしい。腑に落ちねぇ、絶対電波より違法だから。負けたというのに絶望に歪まなかった顔は、どうもまだ何かを企んでいるような気がして私は嫌な予感に顔を引きつらせる。
よくよく考えてみれば、こんなに広いアジトだというのに団員はそこまで多くないし、何より怪電波を流しているわりに理科系の男風な団員の姿が見えなかった。三人くらい眼鏡はいたけど、ちょっと少人数すぎるのが気になってはいたんだが…まさかもう任務は完了して自爆の一途を辿っているのか?ヒイロ・ユイされちゃたまんねぇぞと思っていれば自爆以外は大体合っていたらしい。言葉を続けたアテナは不穏な事を言ってまたしても私の顔を歪ませるのであった。

「電波の実験も上手くいったみたいだし、こんなアジトどうにでもなれだわ。あたくし達の狙いはもっともーっと大きいの!ロケット団の恐ろしさ、いずれわからせてあげるわよ。その時を楽しみにね…」

完全にフラグとしか取れない台詞に心底嫌気が差している私の頭上で、突如警告音のような馬鹿でかい音が鳴り始めた。ロボットアニメで聞いた事のあるエマージェンシーコール的なやつが、赤いランプを回転させてアジト中に響き渡る。
おいおい、何だ急に。まさかマジに爆発物でも仕掛けられててアジトを木端微塵にするつもりじゃないだろうな。緊急避難の音?怯えてワタルの傍に寄っている間に、いつの間にやらアテナの姿はなく、相変わらず逃げ足だけは早いロケット団に陸上を勧めたい気持ちに駆られる。
影も形もねぇ。音のせいで全然気付かなかったわ。どこ行ったあの年増。いや関わりたくないから消えてもらっていいんだけども。しばらくうるさい音が鳴り響き、階段やエレベーターが忙しなく動いていたようだが、少し経つとそれも消えて人の気配がしなくなった。どうやら撤退の合図だったらしい。広いアジトにマスク女とマント男だけになってしまったという完全な変態ワールドを打破するべく、私はさっさと変装を解いた。やっとまともな空気が吸えるってもんだよ…暑苦しかったこれ本当。どっちが悪役かわかりゃしないこんな装い、二度とごめんだね。ん?ラジオ…塔…?くっ頭が…!

一気に静かになった地下で、唯一怪しい機械音を発している方向を私は見た。
あれが怪電波発生装置かな。小卒には何が何だかさっぱりわからないが、正面に大きな機械が設置され、無造作にいくつもコードが張られている。いかにも複雑そうな装置だけど…コンセントごと抜けば止まるのかね。そんな簡単な仕組みで済めばいいけど、下手したら爆発、なんて事があったら洒落にならないので、一刻も早く警察を呼んで対処してもらいたいところである。まぁワタルが爆弾処理の資格でも持ってたら話は別だけどな。普通に持ってそうだから超怖い。ナイト&デイのトム・クルーズみがある。
トム本当に身長170センチもあるのか疑惑を抱えながらワタルを振り返れば、彼は私を見て微笑んでいたのでかなり露骨にびびってしまい、肩をすくませた。え、なに怖い。何見てんだよ。髪に芋けんぴでもついてるって?一晩で法隆寺建ててやろうか?少し後ずさって構えると、ワタルは依然として微笑んだまま、そして何だかバツが悪そうに苦笑を浮かべたので私も不審げに相手を見つめた。

「悪かったねレイコちゃん。君が頑張っているのを見てちょっと出番を待ってみたのさ」
「…え?」

しれっと言ってのけたワタルの言葉に眉をひそめずにいられるほど、私は潔白ではなかった。
私が?頑張っているのを見て?出番を?待っていた?謎の文字の羅列に頭が混乱し、しばらく脳を停止させながらも、自然と蘇るアジトでの思い出が私の頭をかすめていく。
頑張ってるのを見てたって…それじゃあれか?私がツンデレにド突かれてたのも、ラムダとショートコントやってんのも、銭形警部のモノマネやってんのも、ヤミカラス抱えて走ってんのも、どれもこれも全部見ていたと、そういう事なのか?数々の奇行を思い出し、殺せんせーのような無の表情になりながら、直後に感情のビックバンが起きる。
なんて日だ!

はあ!?何だそれ!マジで!?マジで言ってる!?あれを全部見ていた!?何者なんだよ!全然気付かなかったし!忍者かお前は!信じられないほどの羞恥に苛まれた私は言葉を失って閉口する。
ストーカーじゃねーか!ありえねぇ!お前マジで現職何なんだ!?ストーカー常習で四天王をクビになったんだろ!さては!もう嫌だ今日犯罪者としか会ってないし!何て日なんだ小垰の比じゃねぇわ本当。あまりの地獄に頭を抱え、人をストーキングしている暇があったら手伝ってくれと正論すぎる事を思い歯ぎしりをする。いや本当何してんだこの人…ポケモンのために頑張ろうとかほざきながら自分はツンデレと遊んで私をストーキングして完全に異常性癖なんですけど。誰もいないと思って油断してた私がどんだけ気を抜いてたかわかるだろう。普通にガニ股で鼻歌唄いながら走ってたわい。恥ずかしすぎる。グラサンマスク女をマント男がつけ回していた状況がとにかく恥ずかしすぎる!
穴があったら入りたい私に、さらなる追い打ちをかけるのがこのサディスティックエンジェルである。一番恥じるべきは幼気な少女にギャングの相手を任せ切った自身の行動のはずなのに、どうして平気な顔でストーキングを暴露できるのか、今の僕には理解できない。

「相変わらずバトルの腕前は見事なものだったけど、モノマネはもっと練習した方がいいな」
「放っといてくれ」
「さて、あとは電波を止めるだけか…」

ランボー怒りのツッコミをスルーし、相変わらず別行動しかできないマントマンは私を置いて奥へ進んでいく。こいつ絶対いつか痛い目に遭わせてやるからな、覚えてろよストーカーロリコン野郎。6タテしても気がおさまらねぇわ。椿鬼奴のモノマネよりは似ていたのに…と低レベルな争いを心の中でしつつ、私は渋々ワタルを追った。
もういいっすわ本当。帰って寝るから。全てを忘れて即寝るからもういいっす。無となって突き進んで帰るからよ。もう極力話しかけないでほしい。人を弄ぶのは好きだが弄ばれるのは嫌いな私は、大人の男は危険だという事を学び、また一つ成長して上級ニートへの階段をのぼるのであった。
実際は平坦な道を進み、足元のコードを踏みつけながらワタルに続く。黒いマントが止まったので正面を向くと、遠くからでも大きかったが近くで見るとよりでかい装置を見上げて肩をすくめた。
常に送電されているのか、機械は忙しなく動いている。確認するまでもなくこれが探し続けた怪電波発生装置だろう。アンテナが有り得ないほど立ってるし。全ての元凶。災いの種。跡形もなくぶっ倒しても!ぶっ倒しても!ぶっ倒しても!俺の怒りはおさまらねぇって感じのやつ。マジで今すぐ木端微塵にしてやりたいわ。これさえなければワタルに声をかけられる事もなかった…絶対に許しておけない。装置もそこのマントもブン殴りたいよ。
しかしこんなのどうやってこの地下で作ったんだ?とメタ要素に踏み込みそうになった時、ワタルが私を手招きした。ようやく協調性が目覚めたかと苦笑して呼ばれた方へと足を向ける。どうやら彼は単独行動じゃないと死ぬ病を抱えているらしいからな、早く完治してほしい限りである。

呼ばれた先を見てみると、そこにはドン引き必須な光景が待ち構えていて私は絶句した。
幾体ものマルマインが、なんと、強制労働させられていたのである。

「ヒッ…!」

何かの機械で繋がれ、怪電波発生装置に渋い顔で電気を送っている。その様は、まさにブラック企業に勤めてタイムカードを押させてもらえないサビ残中のサラリーマンの形相であった。ニートの私は地獄絵図に耐えられず、短い悲鳴を上げて顔を逸らさざるを得ない。
な、なんて惨い事を!これが人間のやる事か!?流したくもない電気を送電している疲れ切ったマルマイン達に同情を禁じ得ず、思わず涙しそうになった。
労働。それはニートにとって最も耐えがたき屈辱である。それが無償とあれば尚更で、こんな辱めを受けるくらいなら舌を噛むというくらいとにかく自尊心を踏みにじられる行為なのだ。本来ならこのマルマイン達だって野生でのんびり無職していたはず…それをいきなり捕獲され労働を強いられているなんて…惨すぎる…!非道なロケット団に心底怒りが湧いた瞬間であった。
許せねぇ。たとえマルマインが許したとしてもこの私が絶対に許さん。レイコは激怒した。必ずかのロケット団を壊滅させねばと決意した。レイコには政治がわからぬ。けれども理不尽な労働に関しては、人一倍に敏感であった。

「これが装置…スイッチは見当たらないな」
「設計が雑すぎる…」
「仕方ない。マルマインを気絶させよう。そうすればおかしな電波も出なくなるはず…マルマインに罪はないから可哀相だけどね。ほんの少しの辛抱さ」

強制労働の挙句に破壊光線で気絶させられるとはな。なんて不運なポケモンなんだろう。もう涙が止まらないよ。慈愛に満ちた目でマルマインを見つめながらそう言ったワタルであったが、本性を知っている私は決して騙されない。楽しげに下っ端団員を締め上げてた過去を忘れてないからね。ポケモンに優しく人間に厳しいもののけ姫のようなワタルの提案に、気乗りしないながらも私はボールを構える他なかった。
仕方ないか…最後の大仕事、ほろ苦い気持ちで締める事となってしまって私は悲しみに眉を下げた。ちょっと可哀相だけどカビゴンのワンパンで苦しまずに失神できると思うから許せよ、マルマイン。こうする以外にお前達の労働を止める手立てはないんや…私だったら気絶してでも止めてほしいと思う。だから…そうするね。この物語はすべてニート基準です。実在の人物・ポケモンの意思とは限りません。ご了承ください。
落ち込む私を見てワタルはナウシカの如く優しい笑顔を向けると、慰めるように軽く肩に手を置いた。ワタルさん、もしかして私の気持ちがわかるのかな…何故ならあなたも…無職だから…?こんな装いで無職だったら職質かけられてそのまま署まで連れて行かれるでしょ。同情するわ。同情案件ばっかり今日。なんて日だ。
自嘲しているとワタルは私に指示を出し、最後まで自身の行動パターンを変える気はないと、こんな時でも私に深く知らしめるのであった。

「レイコちゃん、右側は引き受けるから、君は左側を頼むよ」
「…ウス。了解です」

やっぱりね、単独行動の鬼。

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