なんでドガース五匹も持ってんだよ。

「わ、わかった…局長の居場所、教える…」

キョウもびっくりドガスパーティじゃん。敗北したラムダも衝撃を受けていたが、私も私でラムダの手持ちが全部ドガース系に統一されていた事に心底衝撃を受けていた。
早々に決着のついたポケモンバトルは、まるでコピペでもされているのかというくらい倒せども倒せどもドガースしか出てこず、ある意味では私を苦しめる結果となり、最後にマタドガスが出てきた時には何だか少しホッとしてしまった。よかった延々とドガースが無限増殖するかと思って焦ったよ。疲労の溜息をついて私はカビゴンを後ろに下がらせる。

さっきは別の道もあったはずと言ったが、あれ訂正するわ。その手持ちじゃロケット団以外に生きる道はないよね。謎のドガース愛。ピカチュウ版ではセキチクジムのキョウの手持ちもコンパンコンパンコンパンモルフォンという狂った構成だったけど、ドガス6タテに比べたらまだまだ雑魚だったというものよ。普通にやべーわ。それ個体の判別つくのか?変装技術といい六人のドガといい…何故こうも私をいつも惑わせる…?それもまた…作戦…?いろんな意味で気になる男だった、ロケット団幹部のラムダ。三年前の記憶は微塵もないけど。

愛するドガース達が完封されて心が折れたのか、片膝をついたラムダは雪辱に拳を震わせながらも、素直に局長の居場所を吐けというこちらの要求に応じた。
最初からそうしてればよかったんだよ。何で私がいじめてるみたいになってんだ?別に脅して居場所聞きだしてるわけじゃないから。正義の使者なんで。相手には私とカビゴンがフリーザにでも見えているのか、完全に戦意を喪失し両手を挙げて、命だけは…と降参の姿勢を取っている。やめろ戦う術を知らない子供のような顔をするのは。私が正義!カイバーマン!何なんだよ一体。強すぎるって、いけない事なの…サイタマ先生…?

サイタマ先生ほど人格者でない私は、床に正座したラムダの前で見下しすぎのポーズを取り、早く居場所吐けよと視線で訴えた。このあたりで自分が正義の使者でない事を早々に悟る。3マス戻る。

「いいか、よく聞け。本物の局長は…地下倉庫に閉じ込めてある!」
「地下…倉庫…?」

超絶面倒臭そうな施設名に、私は思わず地面を蹴った。
地下倉庫…地下…倉庫…?地下倉庫だって…?何回復唱しても地上には成り得ない悲しい事実を噛みしめすぎて、やがて私もその場に膝をついた。絵に描いたように崩れ落ち、瞳からハイライトが完全に消失した。

嘘だろ。え、マジ?冗談やめてよ。絶対嫌だよ地下なんて。地下にいい思い出なんて何もない、審神者だってそうじゃん。見ただろ、大阪城百階到達記念景趣。地下百階に行ってもあのレベルの記念品、こっちもこっちで地下で待っているのはただのおっさん、脱力するに決まってるわ。
大体ここ何階だと思ってらっしゃる?五階だぞ五階!登ってくるのだって身を削る思いだったってのにまた下りて…さらに下りて…?ありえない。行けというのか、地下倉庫へ。行けというのかい、ボウヤのところへ。あまりの大移動に泣き崩れるのも時間の問題だった。
勘弁してくれ。地面を殴りながら私は唸り声を上げた。ほとんど嗚咽だった。レイコには地理がわからぬ。レイコは、小卒ニートである。けれども移動距離の長さにだけは、人一倍に敏感であった。
クソふざけんな誰だよ局長は五階で捕まってるって言った下っ端奴。もう絶対許さねぇからな。生きて帰れると思うなよ。たとえ刺し違えてでもぶっ潰してやる…ロケット団…!完膚なきまでにな!

怒りと悲しみに苛まれた私を憐れに思ったのか、ラムダは引き気味にこちらを見つつも同情心を露わにする。同情するなら局長をくれ。今ここに。

「場所わかるか?コガネの地下通路の奥の奥のさらに奥…」
「ウッ」

奥の奥のさらに奥とまで言われてついに吐き気をもよおしそうである。悪だ。そんな地中深くまで局長を閉じ込める必要がどこにある。相手は非力な人間だぞ。どこかもわからない暗闇に押し込まれて身動きの取れなくなったオッサンを想像し、私はさらに悲しくなった。助けてあげてよ。私以外の誰かがな。突然謎のスーパーヒーローが現れて局長を救出してほしいと願うも、それに最も近いのが私である事を自負しているのでやはり自分が神になるしかなかった。ドローンとかでカードキーだけ取りに行かせてほしいわマジで。かがくのちからってすげー!って言わせてくれ。XY編のサトシのように。

しかも…なんて言った?地下通路?地下通路ってあの…長い通路ですよね?コガネの西と東を結ぶあの。あの地下通路。本格的に鬱まで秒読みになった私は、力なく立ち上がり白目を剥いてラムダに言った。

「ちょっと…地図書いて…警備が手薄な道…」
「仕方ねーな…」

断られるかと思ったが、よほど私が憐れに思えたのかラムダはあっさり応じてくれた。なんでたった今ドガース6タテした奴に同情されてんだ私は?普通逆でしょ。まぁ結果的によかったけども。
意外と上手い字で紙にペンを走らせていくラムダを見ているうちに、私も心を取り戻して凝りまくった肩を回す。超絶面倒だけど…本当に死ぬほど面倒だし筋肉痛確定だけど、でもここまで来たらもう少しだ。局長から鍵をもらったらあとは駆け上がるだけ。障害物をなぎ倒し、ただ目の前に広がる段差を一歩一歩踏みしめていくのみ。
敵を倒すより階段をのぼる方が余程つらい私に、ラムダは無駄に丁寧に書いた地図を投げ寄越した。

「ほらよ、お嬢様」

ひらひらと舞う紙を真剣白刃取りのポーズでキャッチし、ご苦労、とラムダに声をかけながら私は地図を見た。そうだよお嬢様だから野蛮な地下通路なんか極力近付きたくないの、怪しい店もたくさんあるし…怖いわ…たった今ジャパニーズギャングの巣窟に乗り込んでいる事など棚に上げ、地図を引っくり返す。

「逆だ、逆!」
「ん?」
「ここがラジオ塔、左に出ると地下通路だが…見張りが多いからな、ビルの裏側を通った方が見つかりにくいと思うぜ」

何やらアドバイスをしてくれているが、小卒の私、いまだに地図の見方がよくわからない。タウンマップは見慣れたもんだけど街中となると話は別ですよ。道なき道を通ってビルの裏から侵入しろと言う事らしいが、ラジオ塔の横って道なき道どころか海じゃなかったですかね?即海。出海。お前優しいフリして私を溺れ死なそうとしてるんじゃないだろうな、と疑わしい目を向けていると、ラムダはさらに怪しい行動に出た。

「俺様は親切だからな、地下倉庫に行くための鍵をお前にやろう」

怪しさの宝石箱や〜。
目の前に突き付けられた鍵を見て、私は引きながらそれを受け取り、訝しげに顔を歪める他なかった。
怪しさしかねぇ。なんだこの怪しみは。敵の幹部に鍵あげるよって言われて、ヤッター!ってマシオカみたいに喜ぶと思うか?私は思わねぇ。思わねぇし鍵を回したらそれがスイッチとなって局長もろとも地下倉庫が爆発する罠のようなものでもあるんじゃないかと疑ってかかるわ。CERO:A向けの危機管理の薄い主人公と違って私は用心深いんだ、なめんなよ。私だって別に元はこんなに疑心暗鬼な人間じゃなかった…旅が私を変えたのだった…。

「やけに親切だけど…何か裏でもあるんじゃないの?」

鍵自体は至って普通だが、親切心も怪しいし、この人も顔面からして詐欺偏差値が高いのでじろじろと冷ややかな視線を向ける。するとラムダは薄ら笑いを浮かべ、私を指差しそのまま額を人差し指で押した。普通にいてぇわ頭蓋骨が。そこにお前を殺る気スイッチがなかった事を幸運に思えよ。

「これでも信じてるからな、何があってもロケット団は復活すると」

私のようなハリケーンが来てもか。ドガース6タテされても尚そんな大口が叩けるラムダに、逆に私は怖くなってきた。額を押さえて思わず一歩下がる。
何この自信。キャラに似合わず何を信じているっていうの。もしかしてこの三年、各地を渡り歩いた結果、秘境で超強い最終兵器を発見、それをラジオ塔の最上部へ持ち込んでいる…そんな展開が待ち受けていたりするのだろうか?カビゴンより強く、厚い脂肪を兼ね備えたファイナルウェポン。小林幸子のようなラスボスを飼っていると。そう言いたいのか、幹部のラムダ!
まさかね…と失笑しつつ、鍵を握り締めて私は息を飲む。マジでノーセンキューだからそういうの。私の人生ヌルゲーじゃないと困るからね。生温いニートでいさせてよ。
怯えていればラムダは肩をすくめ、苦笑まじりに呟いた。

「鍵が必要と知ってここに戻って来られても嫌だしよ…」

そっちが本音かい。びびらすなオッサン。
誰が戻ってくるかと鼻を鳴らし、私は大事な鍵をリュックにしまった。何が信じてるだ、どう考えても私と早々にさよならバイバイしたいだけじゃねーか!こいつ一体人を何だと思ってんの?鍵がいるやんけオッサン!さっさと出せやオラ!ってカツアゲしに戻ってくると思ってんのか?五階まで?そんなね、戻るわ馬鹿野郎。殺る気スイッチ入れて戻ってくるに決まってるだろ馬鹿。正解。越後製菓。
無駄に見透かしてて腹立つわーとラムダに肩バンし、己のチンピラ性に嫌気が差しつつも私は紙をちらつかせて言った。

「鍵と地図は有り難く戴いておくけども…お前達は全員刑務所にブチ込んでやるから覚悟しておけよ」
「お前の方が悪役みたいな台詞だな」
「正義の使者!」

最後の最後まで強調して私は局長室を出た。チンピラじゃねーし!

  / back / top