自称冷酷他称イケメンVS自称美女他称最強の戦い、肩書きがありすぎる熾烈なバトルを制したのは、もちろん自他共に美女で最強の私である。夢主のハイスペックなめんな。

「私に勝ったところで所詮はロケット団の怒りを強めただけですよ…」

敗北したランスをスルーし、私は頑丈なラジオ塔を見上げながらしみじみと思っていた。
時折放送の流れる屋内は清潔感があり、清掃の行き届いた階段を踏みしめるたび、ワックスの塗られた床のあの独特な音が響く。いつ頃建てられたものなのかは知らないが、これだけ管理が行き届いている上、さらに私はある事に関して一際感動を覚えていた。

この建物、マジに強いな、という点を。

強いっていうか堅い。地球上の物質を使っているかどうかも怪しいくらいびくともしない塔に、感激の嵐が止まらなかった。
というのも、さっきから散々塔内で460キロのカビゴンが戦っているにも関わらず、床や壁にはヒビ一つ入らないのである。そりゃ器物破損で訴えられないよう物を壊さず戦ってるけどさ、それにしたってやべぇよ。地響きすらしないもん。どんな素材使ってんの?柔軟剤?
ラジオ塔救ったお礼にうちの家もカビゴンが走り回れるようにリフォームしてくれねぇかなと現金なことを考えている私をよそに、負けて余程悔しいのか立ち上がらないランスは片膝をついたまま自嘲気味に笑う。膝に矢を受けてしまってな…みたいな姿勢には私も少し笑ったが、馬鹿にしていると物理的に殴られそうなので何とか真顔を保った。
全ての判断がポケモンバトルの勝敗に委ねられているこの世界の法則を平然と無視する、それが犯罪者というものだからね。特にロケット団はトレーナーにダイレクトアタックをかましてくる可能性があるから油断できないよ。お前たちのボスにシルフで襲われかけた件、微塵も忘れていないぞ。清純さが売りのこのレイコ、例え暴力に訴えられようとも石油王以外には靡いたりしないわ。不純。

ふんぞり返っている私の方が悪役みたいに見える光景に咳払いをし、ここは一つ主人公らしい事でも言っておこうと腕を組んで仁王立ちする。膝をつく儚げな青年と偉そうで図太い少女の図、残念ながら何をやっても己の方が悪役っぽいという事にレイコは気付かないのであった。

「…こんな時気の利いたことも言えない私ですけどね、あなたに更生のチャンスを与える事はできるんですよ、ランスさん」

なんか刑事みたいな物言いになったわ。杉下右京かな?怒って震えたりしねーよ。
崖の上で犯人を説得するが如く諭し始めた私に、ランスは鼻で笑いながら首を左右に振った。敵には決して屈しないというクリムゾン同人みたいな気概を見せられ、お前は出る作品を間違えたなと感じつつ、慰めを鼻で笑われた事に関しては温厚な私も激ギレである。マジでブタ箱ブチ込んでクリムゾンさせてやろうかこいつ。

「…あなた、どうして邪魔をするのですか」
「何度も言わせんなイケメン…私の行く手を阻んでるのはそっちなんだよ…もう私に関係ないところで活動してほしい…サウジアラビアとか」

俺の道にいたのが悪いというジャイアニズムを振りかざし、恨み言を呟くランスに答えれば、彼はまたしても鼻で笑って首を振った。何でいつも失笑気味なんだよ、笑うならもっと堂々と笑えばいいと思うって碇シンジも言ってただろ。言ってない。
いつまでも膝に矢を受けたままランスは私を見上げ、不意に意味深な目つきを向けられるとさすがの私も少しゾッとした。平凡な少女に憎悪の視線を投げる大人げない相手にひるまず睨み返していれば、再三鼻で笑われて、次笑ったらカビゴンの460キロボディプレスをお見舞いする事を誓い、本当にどちらが悪人なのかわからなくなる悲しい私であった。

「どこにいたって同じですよ。どこにいたってあなたは邪魔な存在だ…」

失礼極まりない事を言われたのでボディプレス三秒前という感じだったけど、遺言くらいは聞いてやろうと準備万端なカビゴンを制しておく。
ヤマブキの実家で慎ましい生活をしている私を捕まえてどこにいたって邪魔とは何様なんだこいつは。大体それはこっちの台詞だって言ってんでしょうが。もう逮捕だ逮捕。懲役二千五百年くらいにしといてくれ全員。ヤマブキだけでは飽き足らずコガネまで制圧した上、ラジオ塔の受付美女は拘束するしマサキの妹は人質に取るし、挙句私という非力な少女を戦うボディにさせた事はあまりにも大きな罪ですよ。悔い改めなくていいから二度と私を巻き込まないでください。吉良吉影より静かに暮らしたいのよ。
一生獄中にいてくれと願う私をよそに、ランスはランスで私をロケット団の生活圏内から排除したいらしい。最後に小物みたいな発言をして、膝に矢を受けたまま移動し、私に道を開けた。立てやいい加減。

「あなたのような危険因子は早々に芽を摘んでおくべきなのですよ…私を倒したからといってあまり調子に乗らない事ですね」

雑魚すぎる台詞を吐いて、ようやくランスは沈黙した。生まれた時から調子のビッグウェーブに乗りまくっている私からしてみれば調子に乗らない状態が理解できないけど、とりあえず芽を摘まれないように細々と生きていこうとは思ったね。別に元々派手には生きてないけど。あと芽摘むの普通に遅すぎたと思う。私の年齢が一桁のうちに始末しておかなかったのが貴様たちの敗因だ。再興を夢見たいならタイムマシンでも作るが良い。

時を超えるポケモンなどが存在しない事を祈りながら、私はいつまでも立ち上がらないランスに手を差し出してお別れの準備をした。
なんか膝に矢を受けたってよりは腰抜けて立てないんじゃないかこの人。貧弱かよ。どうにも憐れに思い、同情心から助けてやると、ランスは一瞬無の表情をしながらも反射的に手を重ねたので、大きなカブでも引っこ抜くかのようにそのまま彼を立たせてやる。ぎっくり腰じゃなくてよかったな、という意味を込めて頷けば、ランスは少し頬を染めて礼を述べた。童貞かな?

「あ、ありがとう…」

敵に礼を言うな。お前実は育ちいいだろ。ストリートチルドレンみくらい出しといてくれ。
ドン引きが止まらないまま手を離し、どういたしまして…と失笑気味に伝えて私はランスの横を通り過ぎ、結局カビゴンのボディプレスを喰らわせる事もないまま上を目指した。
何か…残念なイケメンだから可哀相になってきたわい…どうせ獄中でジュンサーさんにドスの効いた声で責められるだろうしそれで勘弁してやるわ。コガネ警察こわすぎ。

「ちゃんと自首するんだぞ」

去り際に伝えてやるとランスはハッとしたように向き直り、負け犬の遠吠えをして私を見送るのだった。

「そ、そうはいきません…!油断していられるのも今のうちですよ…必ずやこのランスが地獄の果てまで追いつめて雪辱を晴らしますからね…!」

ものすごいストーカー宣言をされたので、変なフラグが立つ前に私は駆け足で階段をのぼった。
何あれ怖い。ヤマブキの果てまで追いつめてうちに放火とかしないだろうな。ただでさえツンデレストーカーがついてるのにイケメンストーカーまでついたら身が持たないよ。やっぱり二度と会わないよう全員獄中にブチ込んでやらないとな。
固く誓う私であったが、このあと番外編で何回かランスに会う事など、今は知る由もないのであった。地獄すぎ。

  / back / top