休む間もなしとはこの事。ニートなのに。

「また会ったわね」

ランスを蹴散らして無駄にフラグまで立ててしまった私は、階段をのぼり一つ上の階へ辿り着いたかと思えば、角を曲がった直後また幹部と出くわして、即刻足止めを食らっていた。一息つくかとのん気に構えていただけに、突然の女幹部登場には大層驚かされる事となる。
ていうかこの距離で待ち構えてるならさっき二対一で仕掛けてくればよかったんじゃね?あんた前に二対一でやろうとしてたポケモントレーナー界でも類を見ない卑怯なタイプだったでしょ?名前忘れたけど。何だっけ。幹部の…えっと…。

「さ、沙織さん…?」
「アテナよ」

それだわ。聖闘士星矢みたいな名前としか認識してなくてすまんな。これが私よ。
このまま順調に最上階に行けると思っていたが、悲しい事に読みは外れてしまったらしい。というのも、この人が仕切ってたらいいのにと少なからず思っていたので、まだバトルが続く事への憂鬱さが私に重くのしかかった。
だってさぁ…この人がここにいるってことは、さらにまだいるって事だよね?幹部。私の記憶が正しければジョウトに来て出会った幹部は三人なので、つまりまだ見ぬ新キャラが最上階で待ち構えている可能性が微レ存どころか確定なわけじゃん。鬱だよ。鬱すぎる。あのサカキの代わりをやろうってんだから相当厳ついゴリラみたいな男なんじゃないの?嫌だよもうリアルファイトは。カビゴンの腕力だけで全てをなぎ倒させてよ。

一気にテンションが下がるこちらとは裏腹に、好戦的かつ高圧的なアテナは腕を組んで私の周囲を見渡す。数秒ほど間が空き、こちらに向き直った時には鼻で笑っていた。何か腹立つ。

「今度こそ本当にお一人様みたいね」
「え?ああ…」

私生活でぼっちである事をいきなりディスられたかと思ったが、チョウジのアジトのことを思い出した私は苦笑を浮かべて応える。
そういやこいつと戦った時ワタルも一緒だったな。一緒だったっつーかタキシード仮面様の如く颯爽と現れて加勢してくれたという方が正しい。別にいらんかったけど。タッグバトルでありながら微塵も協力せず各々が目の前の敵を倒す、そういう協調性のなさを互いに認識し合う恐ろしい空間だったあれは。この世の闇を見たよ。
一人だろうと二人だろうと私がいる時点で組織壊滅は待ったなしであったが、アテナはガキが一人で乗り込んできた事に少しホッとしたらしい。何故こいつらはいつも私がかつて単独で組織を潰した事を記憶の彼方に追いやってるのだろう。普通にワタルより私の方が脅威だろ。何でこんなになめられてんだ?マント装備してないから?

「生意気なのよ、小娘の分際で男を侍らせて」
「いやストーキングされてんだよ」

羨ましいのか?くれてやるわ全部。アジトではワタルからの卑劣なストーキングを受けていたけど私にはそれだけじゃない常時ストーカーも存在するんだ、被害状況をなめないでいただこう。
もうさすがについて来てないだろうな…と後ろを振り返りツンデレの気配を探るも、下にいるのは強引にフラグ立てしてきたランスのみなので私は胸を撫で下ろす。何かちょっと落ち込んでたみたいだからどっか行っただろうけど、思い詰めるあまり後ろから刺される可能性もないとは言い切れないからな…油断は禁物だ。私は一体何と戦ってるんだろう。
敵が多すぎる状況を嘆く私に、アテナは鼻を鳴らし疎ましげな態度でボールを取り出した。

「まぁいいわ。一人ならチョロいもんだわよ」

はい本日の慢心です。たった今負けフラグが確定いたしました。現場からは以上です。
私は失笑し、誰一人として警戒してくれない現状にもはや諦めの境地である。
なんでだよ。全然チョロくないよ。お前見てただろ今。私がランス瞬殺したの見たろうが。何故それをチョロいと思うのか今の僕には理解できない。
慢心団に改名を勧めたい私は、前置きもそこそこにバトルが始まった事にだけは歓喜してアテナへカビゴンをけしかけた。ランスとの茶番で時間を消費した分さっさと始まってさっさと終わってくれるのはありがたい限りである。
本当何だったんだろうなさっきの無駄な時間は。三井寿も驚くよ。番外編のためのフラグなどと考えもしない私は、のん気にあくびをしながら、次こそ最上階だといいなと目の前の敵をスルーして考えるのであった。

「さぁ覚悟なさい!」

あとアテナよりウテナ派なんで私。絶対運命黙示録。

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