「全力で戦ったのに…これでも勝てないなんて…!」

世界を革命する力を手にするまでもなく勝利をおさめた私は、胸の薔薇を散らしたアテナを憐れんだ目で見つめ、見飽きた光景に溜息すら零す。
全力だろうと何だろうとね、次のページに移った時点で負けるお馴染みのパターンなんだよ。水戸黄門、クリムゾン同人、大張正己のオープニング演出、そして私のポケモンバトル。全部様式美です。日本人はワンパターンに安心感を覚える生き物なんだからお前も安心して負けてくれ。御老公からは以上だ。
膝をついて悔しがるアテナだったが、立ち上がれない系男子のランスと違い、すぐに腰を上げて私を見る。えげつない目力はブルゾンメイクのせいだろうか、基礎化粧品にいくらかけてるか知ってる?35億。って感じ。使いすぎだろ。

「もったいないわねぇ…」

薄ら笑いを浮かべるブルゾンアテナに引いていれば、彼女は髪をかきあげて一層のちえみ感を醸し出した。味のしないガムをいつまでも噛んでるなんてもったいない!というネタでも披露されるのかと思いきや、普通にマジレスだったので、どうやらおふざけをしているのは私だけらしい。我ながらよくふざけられるなこの状況で。感心するわ。

「せっかくの強さを悪いことに使わないなんて!」

確かに〜って感じだった。
本当だよな、私ほどの力があれば全てを破壊し尽くす事が可能…石油王を待たずとも銀行強盗するなりで金は手に入り、最強のカビゴンを持つ私を誰も捕まえる事はできない…まさに傍若無人、これぞ完全犯罪ではないのか。まぁ一つ問題があるとすれば、強いのはカビゴンだけだからトレーナーの私は簡単に射殺可能というところなんですよね。即死乙。
まともな感性があるので犯罪に手を染める事はできないが、働ける能力がありながら働かない罪で逮捕者が出た事例もあるので、ニートとて犯罪者に成り得る時代…そういう意味では私も真性のワルである。
そんなワルをアテナは鼻で笑い、常に小馬鹿にした態度で来るもんだから普通にイラっとした。何だオイ負けたくせに偉そうが過ぎるぞお前達。

「ま、あなたのような人にはわたくしたちの素晴らしさ、永遠に理解できないのよ」

したくもないからいいんだけど、ていうかあなたのような人ってどういうこと?ニートのような人ってこと?知ってんの?意味深なのやめてくんない?そういうの敏感だから。これでも世間体とか気にしてるから!
そっちこそニートの素晴らしさ理解できんの?と喧嘩を売りたくなったが、泥仕合になるだけなのでやめておいた。普通にどっちもクソ。この争いは何も生まない。

「…もう行っていいですか?」

だらだら世間話をしている暇はないので上を指せば、アテナは頷いて道を譲った。素直なところあるやんけと見直していたら、擦れ違いざまに腕を掴まれたので、これ折れたわワレェ!といちゃもんをつけて治療費を請求しかけてしまい、いよいよどっちがヤクザだかわからない。びびるからマジでやめてくれよ。道譲っといてそれは詐欺だろ。それが狙いかもしれんが。ぶん殴るぞ。
突然のことに驚いて目を見開くと、不敵に笑った相手はすぐに手を離し、溜息まじりの声を出した。

「残念だわ。あなたの強さ、気に入ってたのに」

嘘乙と思いながらジト目を向けるも、まんざら嘘でもなさそうで私は警戒した。私も私の強さは気に入ってるが、ぶっちゃけこの人に気に入られても困るのでどうか残念がらないでほしい。ご縁がなかったという事で。確かに私がロケット団に入ればジャパンを代表するテロ組織となるだろうが、私がなりたいのはただ一つ…そう、日本代表ニート。東京五輪に向けてコンディション調整中なので邪魔しないでくれ。金メダル持って帰るぞ。
アテナの話なんて聞く必要はなかったのだが、あまりにもドヤ顔だったのでつい視線を向けてしまった。おかげで無視して行きゃよかったって感じになったけど。

「だってあなた、見てるだけでポケモンに指示もしないじゃない。そういうの、すごく悪役っぽいわよ」

一瞬ドキッとしたあと、図星を突かれて焦った私はアテナの脛を蹴り、勢いよく階段を駆け上がった。さっきから散々、どっちが悪役?的な振る舞いをしてきたからあえて言うなっていう苛立ちもあったが、何気に気にしていた事をついに言われた衝撃で思わず暴力に訴えてしまった。切れたナイフか。
痛いじゃないのよ!と怒鳴るアテナの咆哮をBGMに、私は逃げるように上を目指す。あとをついてくるカビゴンの地響きが凄まじく、途中でさすがに足を止めたが、息切れが治まらなくてわりと焦った。疲労。ガチ疲労。私を置いて先に行って…ってレベルには疲れすぎていた。どうせ私いなくても勝てるしな。
そうだよ私がいなくても勝てるんだよカビゴンだけで。アテナも言ってたけど指示なしワンパン勝利パターンが定石だからマジに私いらねぇんだよな。ただの専属カメラマン。大御所俳優カビゴンの付き人。バーター。笑えない自虐が刺さりすぎて頭痛がしてきた。
でもさぁ…やっぱさぁ…あるじゃないですか…どんなにクソトレーナーでもさぁ…それでもいいって言ってくれる人いるじゃないですか…他の誰にもわからない絆的な?やつが?あるじゃないですか?相性っていうか。愛と信頼っていうか。
つまり何が言いたいかっていうと。

「ツーカーってやつだよ…ね!」

指示なしじゃなくて以心伝心だから!二人の距離繋ぐテレパシーってオレンジレンジも言ってたし!ただ目の前の敵をなぎ倒すのみ、それが私の指示だから!な!
一方的なハイタッチをし、カビゴンは意味不明と言わんばかりに首を傾げていたが、私はスルーして再び階段をのぼり続けた。
動揺してる場合じゃねぇ。もう早く行って終わらせたい、この連鎖を。たぶんだけど次で終わりっしょ、もう上ないし。ここを駆けのぼったら最上階。幹部総力戦で来たしもはやこの集団にまともな戦力は残っておるまい。確信を抱きながら深呼吸をし、終わったら親父のクレカで焼肉食おうな、とカビゴンと視線を合わせ、ロケット団との最終決戦に気合いを入れるのだった。
尚、トージョウの滝イベントがある事をこの時のレイコはまだ知らない。

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