「…なんという事だ。全ての夢が今終わりましたよ。またしてもあなたの手でね…」

完全敗北UCのアポロは、窓にもたれて静かに呟く。私は夢の終わりを知っていたので意外性も何もなかったが、リアルファイトの気配が一切ない事には正直驚きを隠せなかった。
ボス代行なのに肉弾戦ないんだ。いや無い方がいいですけど。トラウマなんで。ピングーに出てくるトドなみに恐怖植え付けられたわ。
夢断たれたアポロはしばらく佇み、真っ白に燃え尽きたと言わんばかりに微動だにせず、私を少し震え上がらせた。
夢を断ち切られた人ってあんな風になっちゃうんだ…ニートになれなかったら私もあの人と同じように…やめよう怖いこと考えるのは。ああならないように頑張らなきゃなという教訓の意味を込めて彼の姿を目に焼き付けておこうじゃないの。あなたの代わりに…私頑張るね。だからあなたも獄中で更生を頑張ってください。現場からは以上だ。

「…やはり私では無理でしたか」

ようやく喋ったかと思えば、まるで初めからわかっていたような口振りでアポロはそう吐き出す。絵になる横顔に私は頷き、犯人を追いつめた探偵モードで自首を促すべく口を開いた。

「…あんた達の尊敬するサカキ様にも無理だったんだ、そりゃそうだよ」

マジレスしたら自嘲が返ってきた。諦めの入った瞳が私に向き、夢砕かれても尚強く訴えかけてくる眼差しはちょっと怖かった。油断してるとリアルファイトに入るかもしれん。どんだけ怯えてんだよ。
しかしそんな私の心配は杞憂に終わった。戦意喪失レベル100といった表情のアポロの物憂げな問いに、私はつい脱力してしまう。

「なら…一体この世の誰があなたを倒せるのでしょう」

ほんまにな。私が聞きたいわ。
やっと私の強さが身に染みたらしい。フリーザを前にして勝てるわけがないと絶望するベジータの気持ち、わかった?それが正しいから。デフォだから。三年前にわかってたはずだから。なんで普通に勝てると思ってんだよ。無理だよ。わかれよ。そこだぞ敗因は。まぁわかってても私には勝てないだろうけど。遠くから本体を狙撃でもしてたら勝てたんじゃねーかな。しかしお前達にはその手段を取る事ができない…何故ならこのゲームはそう、セロレーティングがA、全年齢対象なのだから。
コンピュータエンターテインメントレーティング機構により私の暗殺を阻まれたアポロを見つめながら、近付いてくるサイレンの音を聞き、息をつく。夢も終わったし茶番も終わった。始まる事と言ったらあなた方の獄中生活だけよ。どんな思いで三年を過ごしたかは知らねぇ。興味もねぇ。ウルトラサンムーンにサカキが出るとか知りたくもねぇ。また復活したって知ったこっちゃねぇよ。でもさ、どんだけ順調に組織を広げ領地を開拓したとしても、必ず私に行き当たるじゃん。いくらサウジアラビアに行こうとも、私に勝てない事実は変わらないわけじゃん。それって一生付きまとうんじゃないかな。知らんけど。

「…あんまり偉そうなこと言えないけど、やっぱ悪い事したって上手くいかないと思うよ。そういう風にできてるんだよ」

説教じみた私の声を聞き、アポロは視線を合わせる。

「私だって別にあんた達の邪魔しようと思って来たわけじゃない…友達の妹助けに来ただけなんだ」

そうだ忘れてたわマサキの妹。いま思い出した。地下通路行ったり来たりして相当時間経ったけど無事かな。下っ端皆殺しにしたしお守りにプテラも預けたからまぁ大丈夫だろ。あの石頭が凶悪なの私にだけだし。解せない。
つまり何が言いたいかっていうと。

「すべては導き…というわけですか」

そう!おっしゃる通り!先に言われて地団駄踏んだけどまさにそうなんだよな。
長くつらい旅をしてきたわけ。そこで出会ったガンテツ、ワタル、マサキなどと関わっているうちにこんなところまで来ちゃったんだよ。みんなが私の強さを当てにするの。悪の組織が現れるたびに私を巻き込むの。つまりお前らが悪事を働く限り絶対的に私が扱き使われるの!わかる!?導かれちゃうんだよ!クソ迷惑だからもう本当やめろや!そういう風にできてるからシナリオが!ゲームフリークが導きやがるから!だからもう諦めよ!ウルトラサンとかウルトラムーンも余計なことすんなよ!会いたくない!アローラなんて行きたくないんだ!おとなしく刑期を終えてくれ!
勝手に未来を想像して鬱になったところで、段々と喧騒が近くなってきた。大捕り物が始まったのかもしれない。下に残してきた幹部連中がアポロの敗北を察して撤退指示でも出したのかもな。またしても散り散りになっていく仲間たち…もはやどうする事もできまいて。観念したまえと仁王立ちし、私はアポロに言い放つ。

「もうあんたにできる事は一つだけだよ」

それは自首です。決め顔で続けようとすれば、意味深に頷いたアポロが先に口を開いた。

「…わかりました。サカキ様がそうしたように、私達ロケット団は…ここで解散しましょう」

ちげーよ自首だよ。誰が解散なんて言ったよ。総選挙のたびに金かかるんだからやめろや。
天然かこいつ?若干引きつつ目を細めていたら、アポロは窓際からこちらへ歩いてくる。立ち去って解散を宣言するつもりだろうか、いいから獄中でやれ。網走が待ってるから。
まぁこれだけの大騒動だ…もはや逃げられないでしょうとタカをくくり、去りゆくアポロを引きとめる事なく、私は後ろ姿を見送った。再三結成はもう…しなくていいからね。懇願。二度とごめんだから。番外編とかでも会いたくないから!

「さっき…誰があなたを倒せるのかと言いましたが…」

階段を下りる前にアポロは振り返り、私を強く見つめた。こいつまだ死んでない、と思わせるだけの目力に、二度ある事は三度ある予感がして、私の目の方が光を失い腐っていく。負けたくせに堂々とした出で立ちは、そう簡単にこの因縁の連鎖が立ち切れない事を物語っているようだった。端的に言えば、トージョウの滝イベ…いや何でもない。そんなものはない。

「それはやはりサカキ様だと、私達は信じているんですよ」

ボスへの絶大な信頼を見せつけ、ようやくアポロは去った。意味深な微笑の奥に何があるのかは知らないが、その信頼を裏切れるよう私も頑張らなくちゃな…ニートとかを。家から出ない努力とかをさ。何度来たって返り討ちだけど、そもそも何度も来てほしくないから一歩も家から出ない。歩道すべてがフラグ生産ベルトコンベアみたいなもんだから。外に出るとろくな事ねぇよ。
ろくな事なかった結果の現状なので、私は盛大に溜息をつき、ようやく終わったラジオ塔攻略を喜びながら窓に手をついた。
長かった…本当に本当に…長かった…何気にチョウジタウンからずっと続いてたからな…赤いギャラドスに怯え、ワタルに怯え、プテラに怯え、マサキの妹が本当はバーチャルじゃないのかという疑いに怯え、地下通路にいる局長がキーを持っているのかという疑いに怯え、ツンデレに刺される恐怖に怯え、筋肉痛に怯え、フラグ乱立に怯え、リアルファイトに怯え…そして今、無事にここから出られるのか?という疑惑に怯えてんだよ。早く帰らせて。

混乱する街の様子を、私は最上階から冷ややかな目で見下ろしている。
無数のパトカー、繰り出されるドガースのスモッグ、ガーディの火炎放射、コガネ弁のジュンサーさんが放つ弾丸が空を横切り、熾烈を極めるロケット団VS警察の逃亡劇に、私はいつ龍が如くの世界に来てしまったのかと頭を抱えた。
生きて帰れるか?これ。地獄絵図なんだが。福岡かよ。いくら不発弾騒ぎで住民を町外に誘導済みとはいえ派手にやり過ぎなんじゃないか。カントーの常識はジョウトに通用しないとでもいうのか。恐ろしい街だよ…早く帰って休みたい…明日と明後日は全身バキバキで寝たきりになる事を覚悟しつつ、私は流れ弾を喰らわないよう窓から離れた。
その時、大きな翼がガラスの向こうに舞い上がった。黒いそれは忙しなく動き、ゴルバットだと認識した直後、背中に乗っていたランスと目が合って私は間抜けに口を開けた。あ、と互いに渋い顔をして指を差す。
何逃げてんだテメェ。自首しろ自首!流れ弾当たって落ちろ!不届き者め!
早く警察行けという意味を込めて右手で追い払う仕草をすると、何を思ったかランスは優雅に手を振り、いや私は手振ったわけじゃねぇから、と叫びながらも届くはずがないので、ただただ去りゆく黒い影を見送った。仇に手振ってんじゃないよ。馬鹿なの?萌えキャラなの?そういうとこだぞ解散原因は!詰めの甘さ!記憶力のなさ!獄中で反省してほしかったのに…逃げ延びてんじゃねぇよ。

「反省か…」

自分で言って、それは私もしなきゃならないかもな、と過去三年を振り返る。
成り行きとは言え前回も今回もロケット団を解散させてしまったわけだが…思うところがあって活動してる人達を、単に通行の邪魔という理由だけで蹴散らしたツケがここで回ってきちまった感じするぜ…そりゃ悪事は成敗されるべきとは思うけど、私にその資格があったのかとかね…思ってしまうな。ちょっとだけ。そういう適当さのせいでまた巻き込まれてんだよこの度。あのとき完膚なきまでに叩きのめしておかなかったばっかりに…今回もまた逃がしてしまったし…こうやってまたいろんな奴に逆恨みされて人知れず呪われたりするんだろうな。
何事にも責任が伴うという事を学び、たくさんの黒服が連行されていくのを見て、三年に及ぶ私とロケット団の因縁に、いま終止符が打たれたのであった。
尚トージョウの滝イベントは以下略。

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