17.フスベシティ

筋肉痛との戦いのあとは、警察の聴取が待っていた。

オッス!オラ、レイコ!ポケモンニートを目指してるんだ!警察のご厄介になるような事をした覚えはないけど、どっちかというと被害者なのに容疑者みたいな扱いを受けて心外極まりなかったぜ!

ラジオ塔騒動を解決した私は、その後局長と再会し、マサキの妹の無事も確認し、すっかり落ち着いたコガネシティで連日、警察の聴取を受けていた。
ロケット団倒したこと秘密にしてね、と局長と口裏を合わせていたおかげで、何とかラジオ塔見学中に事件に巻き込まれた一般市民という肩書きを得られた私だったが、警察内部には以前のシルフ事件に私が関与していた事が知れ渡っているため、今回もお前が何かしたんじゃないの?ニートっぽいカビゴンにやられたって言う団員が何人もいるんだ、ネタは上がってんだよ!という疑いをかけられながら毎日、カツ丼を注文していた。恐ろしい日々だった…三キロ太ったから。
結局警察にはバレちゃったけど、私はまだ華の未成年…事件解決の英雄として実名が報道される事はなかった。ラジオ塔の局長にもいろいろ気を遣っていただき、我々を救ってくれたのは体長二メートルの巨漢だった、と証言してくれたから各誌各社は毎日謎の巨漢を追ってるよ。その隙に私は次の街へ行くってわけ。またチョウジタウンまで引き返してね。死ぬ。

朗報があるとすれば、局長からお礼に虹色の羽根というアイテムをいただいた事である。
正直現金がよかったんだけど、なんとこの虹色の羽根、伝説のポケモンに関わる重要アイテムらしいのだ。これがあればエンジュのスズの塔に登る事ができ、そのスズの塔には伝説のポケモンが舞い降りるっていう噂があるんだって。つまり運よく伝説のポケモンが塔に現れた時、これがあれば私もそこへ入れるっちゅーわけや工藤。フラグ回収したで。
多分だけど…マツバが呼び寄せたいって言ってた伝説のポケモンはこれに関係してるやつじゃないのかな。生まれた時からそのために修行してるとか重いこと言ってたし、何か知ってるかもしれない。もし呼び寄せるのに必要なアイテムとかだったら譲ってあげたいしさ…私は記録できたらそれでいいんで。同じ夢追い人、応援します。
何はともあれひとまず次のジムだな。あと一個で八つ全部集まる。ジムバッジを集める事に意味があるのかどうかはさておいて、次の目的地であるフスベシティに私は行かねばならない理由があるのだ。
皆は覚えているだろうか。地獄のチョウジタウンでワタルとアジトに乗り込む前に交わした会話を。空を飛ぶを持っていないと言った私に、ワタルは爽やかかつ鬼畜な笑顔を浮かべ、こう言った。

「じゃあカイリューを育てるといい。フスベのジムバッジを手に入れたら龍の穴というところへ行ってごらん。君ならきっと手に入れられる」

と。
苦節十数年、これまで徒歩&原付のみで移動してきた私にようやく、満を持して文明の利器、空を飛ぶが使用可能になる時が来たんだよ!
マジここんとこテンション下がりまくってたけどこれはもう爆アゲ案件っしょ。だってカイリューだぜ?種族値いくらか知ってる?チートよチート。また最強さに磨きがかかっちまうな。ガソリン代も馬鹿になんねぇし何よりどこへでも飛び放題。旅の途中で服が汚れたら一瞬で家に帰って着替えてこれるわけ。キャタピーの巣窟で野宿もせずに済むってわけ。最高。神。人生は素晴らしい。
そうと決まればさっさと行ってカイリューゲットだぜ!かつてないほど上機嫌で進む私であったが、フスベに着く頃には満身創痍、瞳に宿っていた光を濁しながら、高く昇る太陽を力なく見上げていた。


「人の歩く道じゃない…」

なんだ氷の抜け道って。舗装度ゼロだったんだが。
意気揚々とフスベへの道を進んでいた私だったが、それも洞窟に入るまでのこと。人気がないなと思ったのもそのはず、それはただの洞窟ではなかった。
凍える寒さ、滑る道、割れる床、思うように進むことのできないそこは、氷の抜け道と呼ばれる今作最難関のダンジョンだったのである。ここを抜ける事ができず脱落していく小学生も多かった当時…攻略本を見ても滑る床を上手く活かせず詰んだ思い出が、きっと今も胸に残っている事だろう。つまり大変だった。死ぬかと思った。二度と行きたくねぇ。もうデリバードの顔は見たくねぇよ。

考えてみれば難易度は高くて当然だったかもしれない。何故ならフスベシティは、あの高いスキルを持つドラゴン使いの出身地だったからだ。
いや知らんけど多分そうだろ。だってマント率異常だもん。洞窟を抜けたらすぐ町だったわけだが、早々にマント集団を目にする事となり、私の視界はいろんな意味で死んだ。刺激が強すぎる。
そして今までごめんね…ワタル、私勘違いしてた。あなたは決して趣味で奇抜な格好をしてたんじゃなく、ドラゴン使いはみんなマントの着用義務があるって事だったんだね…!
恐ろしい事実に涙を呑む他ない。これで趣味とか言われたらただドン引きだわ。金輪際関わらないでいただきたい。
本当すげー土地だよマジで。ドラゴンタイプなんて馬鹿強いポケモンを育ててるくらいなんだ、そりゃ並大抵の修行じゃないだろうし、厳しい環境下に身を置くのも頷ける。氷の抜け道なんて絶好の修行場ってわけだ。興味本位に近付けもしないし。そんなところにのこのこ足を踏み入れてしまったニートなんですが…別に大丈夫だよね…?マント着てない方が浮いてるけども迫害されたりしないよね?
ようこそドラゴンの街フスベシティへ!という観光客用の看板もあることだし、余所者を拒んだりするタイプの街ではないのだろう。長い道のりだったがここは気を取り直して、カイリューゲットのためにジムに行くっきゃない。もうそのためだけに来てるからこっちは。記録とか今はどうでもいいから。冬のせいにして暖め合いたいから。
脳内がカイリューに染まっている私は、いつもの事ながらジム戦はワンパン勝利前提で話を進め、それでも一応カビゴンにドラゴン対策として、冷凍パンチの技マシンを使っておくのだった。慎重乙。

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