19.チャンピオンロード

チャンピオンロード、おつきみ山、龍の穴、シロガネ山。
父から言い渡された示談の条件…ではなく、私がこの先向かう場所リストが、上記四つである。

ホウオウの記録も済み、マツバのことを内心でボロクソ言っていた事も謝罪し、いろいろとわだかまりがなくなったところで私はチャンピオンロードを進んでいた。いよいよ旅も終盤である。
といってもまだ記録してない場所あるからリーグ終わったらジョウトに戻らなきゃならないんだけど。スリバチ山とかうずまき島とか残ってるし…とりあえずこれからポケモンリーグだからね、と一応父に報告すれば、ジム制覇おめでとう!と言われるでもなく、是非とも行ってほしい場所をピックアップされて半ギレという状況である。娘の快挙称賛しろ。

まずチャンピオンロード。マサキの言ってた通り本当に地形変わって整備されてたから、もはやサイホーンしか出ない。魔窟。このサイホーンの楽園の記録を終えたら、シロガネ山というところに行けるようになるらしい。
近年になって一般のトレーナーにも開放されるようになったシロガネ山…その自然の猛威の凄まじさと、野生ポケモンの凶暴さから、カントーとジョウトのジムバッジを全て入手した者しか入れないらしいのだ。
世の中には、関係者以外立ち入り禁止の区間が多数存在する。今まで入れないから記録しなくて済んでいたものが、実績を積むにつれ入れるようになってしまうという、まさに力を持っている者の悲しき宿命と責任が存在する事を、私はこの旅で知った。微塵も知りたくはなかった。地獄。
龍の穴はミニリュウもらっただけだからまともに記録してないんで後日改める予定だったけど…あそこもフスベのバッジ持ってないと入れない場所だからな。本当に負の連鎖。親父に都合のいい肩書きを私が持ちすぎている。ゲームフリークの社員なんじゃないかって疑うレベルですよ。さっさとクビにしろ。
それで一番意味わからないのがおつきみ山ね。行ったわ三年前に。痴呆なの?とキレたら、どうも最近満月の夜になるとピッピが踊り出す姿が目撃されているらしく、世界的にも踊るピッピの事例はないからあの山には何か秘密があるのかもしれないって事で行かされる事になった。全く意味がわからない。生態系変わったりとかね、超常現象が確認されたりとかでね、その度に記録に駆り出されてたらキリがないですよ。まぁ死ぬほどごねて一万円で引き受けたけども。金で自分を安売りするな、という事を若者たちに伝えるため、私は反面教師としてこの活動に取り組んでいます。嘘松。
そうやって薄暗い道をひたすらに突き進んでいるわけなのだが。

「…進化しないなぁ」

サイホーン達の屍、もとい瀕死の山を積み重ねながら、私はハクリューを見上げた。
これだけサイホーンを積みまくってるのに、一向に進化の兆しが見られず、いまだ空を飛ぶ使用不可の現状を私は嘆く。
そりゃあ色んな連中にそう簡単に進化しねぇよ!って言われたけど…でも強さ的にはもうその辺のハクリューを越えている、つまりいつ進化してもおかしくない状態に思えるんだが?言ってしまえばレベル55は絶対に越えてるね。ワタルのカイリューは55以下でも進化するってのに、何でこいつはブルードラゴンのままなの…?かわらずの石でも隠し持ってるっていうの…?しんかのきせき持たせてるのに?もしかしてカイリューの顔が気に入らないとか?デザイナー違うんだからしょうがないでしょ!
レントゲンで体内の様子診てもらった方がいいかもな…と私はハクリューの腹の辺りを触る。特にしこりなどはないと思うけど…私が知らないだけで進化には特殊な手順とかが必要なんだろうか。わからねぇ。わからねぇが帰りは絶対に空飛んで帰りたい。またチャンピオンロード駆け抜けてワカバのド田舎まで戻るの嫌なんですけど。今ウツギ博士の緊張感のない顔見たらキレそう。とばっちり。

最悪の場合イブキさん辺りにでも相談してみるか…どうせ龍の穴行かなきゃだし…ドラゴン使いのプロに相談という点で無意識にワタルを避けている自分に破壊光線のトラウマの根深さを感じていると、ハクリューは何だかテンサゲ気味に俯いたので、私も同様に肩を落とした。
何でそんなローテンション?何が不満なんだ?そりゃバリバリのドラゴン使いじゃなく私みたいなクソニートの手持ちになって不満じゃない方がおかしいかもしれないけども。やっぱ私のせいか?嫌われてる…?ヒビキくんにはあんなに素直に頭撫でさせてたのに…どうして…私がショタじゃないから…?無茶言わないで。
でもマジで私の手持ちにいるの嫌だって言われたらどうしよう。今さら手放したくないんだが。強くて使い勝手がいいだけじゃなくて、普通にもう愛着湧いてるし、ここまできて他のカイリューで代用とか無理だぜ?お前で飛びたい、あの大空を!せっかく飯の好みもわかってきたのに!カビゴンとも上手くやってるじゃん!?醤油は牡蠣醤油じゃないと嫌、とかグルメみたいなこと言い始めてるじゃん!?インディ・ジョーンズってかっこいいよねっつったらヘドバンする勢いで頷いてたじゃん!?打ち解けてきたと思ってた。錯覚だったってのかよ。つらい。

「飛びたい…空を…」

秘伝マシン2が腐る前に…と呟く。しかし個々の持つ権利は尊重されるべきである…トレーナーだろうとポケモンだろうと同じだ。

「でも…お前が嫌だって言うなら…」

その時は別のトレーナーに譲り渡す事も考えなくちゃならないんだろうか。ニートでもない、破壊光線を人に向かって使わない、純粋なトレーナーに…。ワタルだって純粋かもしれないだろ、やめろやめろ。
リーグ戦を前にお通夜みたいな空気を醸し出していると、突然後ろから足音が響いてきた。
サイホーンやゴローンの発する地響きではなく、間違いなく二足歩行の何かで、私は新展開に身構える。この時ハクリューが庇うようにして前に立ってくれたから、その優しさに私はまた惑わされそうである。どういう事なの?好きか嫌いかはっきりしてくれんか?
トレーナー素人を披露している間にも足音は段々と近付き、やがて私の前で止まった。野生のポケモンより余程ギラついた目つきと、見慣れたアホ毛が暗闇からゆっくりと現れるのは、わりとホラーだったかもしれない。

「待てよ」

ツンデレ、再臨。
まだストーカーされてたの私?

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