こっちはハクリューを進化させられずに困ってるっていうのに、ツンデレの奴はゴーストとユンゲラーをそれぞれ進化させていたショックで、私は寝込みそうだった。
ゲンガーもフーディンも通信でしか進化しないポケモンである。つまり通信交換してくれる奇特な相手がいるという事だ。あまりの衝撃で、私は白目を剥く始末である。ヒロイン失格。

はー?私でさえ友達いないのに?マ?冗談きついわ。
試合に勝って勝負に負けたような心境に、気分が限界まで落ちていく。薄暗い洞窟より暗くなった私は、死んだ目で溜息をつきながらツンデレの独り言を聞いていた。

「まだまだ育てが足りねぇか…」

いやもう足りてるよ…通信進化のハードルがどんだけ高いと思ってんだよ…。友達がいなさすぎてハードを二台持ちしなくてはならないタイプのニートは、首を左右に振り、私の強さには及ばないけど人間として大事な部分では圧倒的に勝利している事を視線で訴えた。

お前…よかったな、この旅でさぞかし得るものがあった事でしょうよ。初対面からの急成長を思うと、敗北感よりやがて感慨深さが勝り、慈愛の心で相手を見つめた。
当たり屋同然のチンピラクソガキドロボーイがここまでのトレーナーになるなんて、一体誰が想像しただろうか。犯罪者予備軍どころかすでに犯罪者な彼が、懸命に努力し、ひたすらポケモンと向き合って得たもの、それが通信交換の相手であったのだ。いまだ私が成し遂げられない偉業を達成したツンデレには、素直な敬意しかなかった。
おめでとうツンデレ。よく頑張ったな。これからも一層精進し、せいぜい夜道には気を付けろよ。敬意とは何だったかな?

「…こいつら弱いから負けちまうとムカつくけど…戦いを繰り返すうちにちょっとずつ成長してるのがわかるんだよな…」

いつになく素直な様子に、老婆心もトップギアである。もはやツンデレではなくただのデレと化した彼は、この鬱蒼とした洞窟内で何だか輝いて見えた。
呼び名をデレデレに変更するか…と勝手に考えていると、そんな安易な考えを見透かされたのか、彼は照れたように付け加える。

「…チッ!それでもこいつらまだまだ弱っちいんだよ!」

生涯現役ツンデレである事を見せつけた台詞に、私は勝手に微笑ましくなり、通信進化ぐらいで妬むのは止そう…と冷静さを取り戻した。通信ケーブルを持った友達を作る事はできなかったが、飛べない龍というかけがえのない存在も得た事だし、私だって全然ツンデレに負けず劣らずリア充してるから。全く負けてないしこれは別に友達作りの旅とかではないから。調子乗んなよ。

妬みを捨てられない愚かなニートは、ポケモンをボールに戻したツンデレに世間話を振られ、会話が成立している感動に再び打ち震えながらも、平静を装って佇み続けた。

「…お前はもうずっとカントーにいるのか」
「いや…またジョウト戻らなきゃならないんだよね…そっちは?」
「そうだな…もっと鍛えるためには…龍の穴にでも行ってみるのがいいか…」

何でよりによってそこ?
戯れに尋ねた事を後悔するレベルに、私はツンデレの発言に動揺した。カントージョウト共にいろいろ修行スポットはあるのに、奇跡的な確率でそこを選んだ彼には、主人公の私も驚く一級フラグ建築士の才能を感じる。

神引きかよ。実は私も行く予定だし、何よりワタル縁の地だからねそこは。ロケット団アジトでお前に説教垂れたというワタルの。私を手伝いもせずお前と遊んでいたワタルの地元だよ。永遠に根に持ってやるからな。
鉢合わせたら修羅場不可避だな…と震え、どうか私のいないところでバトってくださいと祈るばかりだ。尚、これがフラグになる事をレイコはまだ知らない。

「龍の穴…実は私も行かなきゃならないからまた会うかもね」

その時はよろしく、と告げ、どうせ気のない一言が返ってくるだろうと予想し、さっさと先へ進む準備をした。会いたくねーよ!とか言われたらさすがの私も地味に傷付くからな、長居して罵声を浴びせられる前に退散しよう。
するとツンデレは、可もなく不可もなくみたいな顔を向けたかと思うと、特にキレた様子もなく、静かに一言呟いた。

「…そうかよ」

それ以外にコメントはなく、ツンデレは反対方向へ去り、てっきり小姑のようにきつい言葉でも投げられると思っていた私は、呆気に取られながら見送る事となった。最初から衝撃を受けすぎて、もはや理解が追いつかない。

え?何?別に来てもいいってこと?いくら何でもデレすぎでござるな。何があったんだよお前の人生に。私との出会いか?感動的じゃねーか。
すっかり丸くなった彼を見届け、着実に大人の階段をのぼっていく相手を思い、そしてまるで成長していない自分を嘆かわしく感じる。
なんか…やめて、私を置いて大人になるのは。親の脛をかじる事しか考えられないニートを惨めにさせないでよ。マジで絶対私より出世すんなよな、許さないぞ。

心の狭さを露呈させながらも、龍の穴へ行く事への憂鬱さは若干軽減され、何だかんだとツンデレの成長を見守る事に喜びを見出している私なのであった。親かな?

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