謎は全て解けた!

「よぉ、来たな」

不可解なグリーンの言動の数々が、まさか次のページで早々に判明する事になるとは、さすがの私も想像していなかったというやつですよ。

この世には許せないものが二つある。それは娘を顎で使うサイコな父親と、私より出世しやがるクソガキだ。

「あー…」

声にならない声を上げ、天井を見上げる私の悲しき現状を、愛憎全開で語らせていただこう。

グリーンをアッシーにし、グレンタウンを脱出した私は、何故かトキワシティの入口で振り落とされ、ジムまでは徒歩を強いられてしまった。
ついでにジムまで送ってくれてもよくない?とキレ散らかす私は、そもそもこの謎の別行動がフラグだった事に今さら気付き、歯痒い気持ちを抱えている。
仕方ないので歩いてジムまで行くと、受付の人に、ジムリーダーを呼び戻した事への感謝を述べられたため、普段から余程サボりを重ねている奴だと理解し、無駄にグレンまで行かされた憎悪も相まって、いい感じに闘志が湧いてきた。そんな舐め腐った奴は成敗するしかねぇなとボールを握りしめ、ジムトレーナーを蹴散らし、とうとう職務放棄リーダーとご対面だぜ!と意気込んだところで、冒頭に戻るわけだ。
得意気な顔で私を出迎えたグリーンに、まんまと唖然とさせられてしまい、複雑な感情が渦巻いていく。

「グリーン…お前だったのか…」

ごんぎつねのラストシーンみたいな台詞を、私は思わず呟いた。お察しの通りというか、みんなは1999年からすでに知っていただろうけども、私はこの通り情弱である。知り合いが大出世した事実を、たった今知らされたのだ。この衝撃がそなたにわかるか?

グリーン、トキワのジムリーダーだった。私がニートリーダーしてる間に。

「マジかよ…」

大きすぎるショックは、燃え上がった私の闘志を見事に鎮火させた。

そりゃな、一度はリーグチャンピオンになった男だし、せっかくの才能を持て余すのはもったいないと私も思いますよ。秒でチャンピオンから引きずりおろされて心配していたご家族も、きっと喜んでる事でしょう。
でもショック〜!時の流れは残酷〜!私がニートしてる間に、私より年下の奴が、そして私より世渡り下手そうな奴が、そしてジムを留守にするような奴が!そして私がサカキを倒した事により無人になってしまったこのジムで!ジムリーダーに就任だなんて!何の因果だよ!このモヤつきは何!?どうしたらいいの!?

レイコは混乱した。一緒にゴールしようね、と約束した相手が、最後の最後で自分を追い抜いていったような衝撃と戸惑いを覚え、開いた口を塞ぐ事ができない。

えー…マジで?私なんかジム出禁なのに?テンション下がるわー。無情。三年って本当…クソガキがジムリーダーに成長するような長い期間なんだな。思い知ったよ。こっちは同じ毎日を繰り返すばかりなんでね、外界がそんな激動の時代になってるなんて想像もしてなかった。つらいです。何がつらいって己の自堕落さが心底つらい。何故私はニートとしてしか生きられないのだろうか…。まぁでもジム空けるようなクソ迷惑な奴よりはマシなんじゃねーか?そんな気がしてきたぞ。

何とか自己完結し、メンタルを回復させた私は、気を取り直して小生意気なジムリーダーに向かった。堂々とする彼の姿は、すっかりリーダー慣れしてるといった感じで、あまりの憎たらしさに失われた闘志が舞い戻ってくる。
上等だよ、誰が相手だろうと関係ないね。私は私の夢のためにバッジを手に入れ入山する、ただそれだけの事だからな。
するとこちらの闘争心に触発されたのか、グリーンも好戦的な態度で口を開いた。

「グレンじゃちょっとばかりナーバスになっちまったけど、今は無性に戦いたい気分だぜ」
「奇遇だな、私もさっさとバッジを貰いたい気分だよ」

どうせ勝つんだから勝負しなくてもよくない?とクソみたいな事を考える私であったが、そんなおふざけが許されるはずもなく、早々に報いの煽りを受けるはめになる。

「お前、シロガネ山に行くって事は…ジョウトのジムバッジも集めたのか?」
「当然」
「じゃあジョウトのレベルも大した事ないな」

殴ってもいいか?どの口がほざいてんの?
どうやら挑発スキルも限凸したらしいグリーンに、私は秒でキレた。沸点の低さに定評があるレイコである、もしサイヤ人だったならスーパー化していた事だろう。血走った目でグリーンを睨み、思い切りボールを握りしめた。

ジョウトのレベルも大した事ない…?言ってくれるじゃねーか。まぁ私からすればどこも大した事はねーよ。でもそれはお前も同じだからな!ちょっとジムリーダーになったからって調子乗んなよ。たかが三年で私に勝てるほど夢小説界は甘くねぇんだわ。
まぁある意味ジョウトは相当レベル高かったけど…と号泣女やヤンデレ疑惑の攻略難易度の高さを思い出して死んだ目をする私に、グリーンは不敵な笑みを向ける。

「まぁいいさ。戦えばわかる事だ。お前の実力が本物かどうか、遊んでる間に錆びてねーか…」
「遊んでいません」

延々と惰眠を貪ってました。遊ぶ暇はなかった。

「ところで…」

もういいからさっさと始めようぜ、と短気を披露している私に、尚も煽りを続けるつもりなのか、グリーンは一向に口を閉じる気配がない。今度は何なんだとメンチを切ったが、さっきまでの態度とは裏腹に、何にやら言いづらそうに口ごもるので、こっちは翻弄されっぱなしだ。

なに、どうしたの。情緒不安か?やっぱ久しぶりに会った私があまりにも美しく変貌してたから戸惑ってるんじゃないの?夢主って誰もが振り向く美少女らしいからな、無理もないと思うよ。でも今は真剣勝負なんで気持ちを切り替えていただきたい。
滑稽にも自意識過剰になる私だったが、生憎と今回は丸っきり的外れというわけでもなかったので、逆に焦るはめになってしまうのだった。

「前に約束したの…覚えてるか?」
「え?」
「俺がお前に勝ったら…」
「え?」

ボケ老人のように二度聞き返してしまった私は、半ギレだったので難聴を極めていた。さっきまで無駄にでかい声で煽ってきていたグリーンが、急に小声になったのもあり、内容を理解するまで数秒かかる。

いきなり何の話だ。約束?約束って…なんだっけ。何か記憶の片隅にあるような…ないような…。
三年前の記憶を辿り、グリーンとの出会いまで巻き戻しながら、私は首を捻った。
なんだろ、私に勝ったら肉を奢るとか言ったんだろうか。いや…何かもっと重大なことだった気がしなくもない…。喉に詰まった小骨がもうすぐ取れそうな感覚に眉をひそめていたら、そんな私の態度を、グリーンは痴呆と判断したのだろう。不服そうに大きな溜息を漏らしたあと、戦闘開始の怒号を飛ばした。

「お前を負かして思い出させてやるぜ!」

吠えたグリーンがボールを投げたので、慌てて私も応戦した。人が記憶を掘り起こしてる最中に卑怯だろうが、とついつい文句を投げそうになる。
全く油断も隙もない…。大体お前が私に勝てる日は一生来ねぇからな。よって約束が果たされる事はない。絶対。

と、ここまで考えて私はハッとした。似たような事を三年前にも思った気がし、ド田舎マサラの風景が脳裏に浮かぶ。
思い出した。出会いから回想してたけど、約束をしたのはエンディングの方じゃないか。
ニート権を得られず消沈しながら訪れたマサラで、グリーンに捕まった私は確かに約束した。どうせ果たされないと知っていたからだ。

でもそんな、三年も前の話だぜ?マジか?冗談だろ。そっちはいつの間にやらジムリーダー、環境の変化などもあり、私みたいなクソニートの事は忘れて悠々自適に過ごしてたと思うのが普通でしょうよ。俺も昔はやんちゃしてたが今じゃすっかり真人間…的な、女の趣味の悪さも完治…みたいな、そういう感じになってたんじゃないの?

思いがけず動揺させられた私は、どうリアクションしたらいいかわからず、とりあえずいつものようにカメラを回した。仕事だけはきっちりこなすニートであった。

今その約束を持ち出したって事は…あれか、気持ちは変わってないって事なんだろうか。とても正気とは思えないけど。
勝ったら結婚しろだなんて、小僧の戯言だと決めつけていた私は、まだ時効が来ていなかった事実に、ただただ放心するばかりであった。
まぁ放心してても勝つんだけどな。すまん。

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