「あっ、レイコ!」

三階へやってきたサナとカルムは、私を見かけて駆け寄ってくる。手を挙げて応えながらも、そんな事よりこれを見てくれと博士をジェスチャーで指差し、奇跡のイケメンを共有しようと躍起になった。

いやマジで見てくれよこれを!すごくないか!?こんなイケメン見たことあります!?私はない!徳川将軍だったら絶対大奥に加えてるって!
という気持ちを込めてプラターヌを指差したのだが、二人は至って普通の態度で博士の元へ向かい、一礼した。

「こんにちは博士ー。サナです」
「遅くなりました」

はぁ!?それだけ!?嘘だろ!?
神話級のイケメンを前にした二人が、特に放心する事もなく挨拶を済ませたので、私は衝撃に目を見開いた。

え!?嘘でしょ?プラターヌ博士を見てそんな…そんな冷静でいられる!?無理だって!前の話見てよ!私が長々と顔面についての印象を吐露しまくってるってのに、こんにちはの一言でもう終わりか!?お前らそれでも人間か!?血が通っているんでしょうか!?

言葉にできない感情が私を襲い、今度は別の意味で放心してしまう。
そんな…信じられない…もしかして私がおかしいの?それともカロスではこの顔面偏差値が平均値?いやそれはないわ。ここに来るまで誰を見ても無の境地だったもん。明らかにプラターヌ博士だけおかしい。全員あずまきよひこの作画の中に、一人だけ桂正和タッチの男がいたら目を奪われずにはいられないだろ?そういうレベルの話だよ!

まぁサナとカルムのようなお子様には桂正和のすごさはわからないのかもしれないが…と一旦落ち着き、私は三人を遠巻きに見守った。

冷静になれレイコ…顔面ごときで取り乱してどうする…何より子供たちの前でイケメンにうつつを抜かしてる姿を見られたくない…大人の威厳を保っていたいんだよ…!

プライドを奮い立たせ、私はやっと真顔を作った。挨拶を済ませる三人を見つめながら、やっぱ博士を見て冷静でいられる意味がわからないな…としみじみ思い、目を細める。
私のストライクど真ん中だったってだけなんだろうか…いやそんなわけない、そうでなきゃ博士のクリアファイルが販売されるわけないし、全国のポケモンセンターで博士とツーショットを撮れるコーナーなんてできるわけがないからな。万国共通イケメンで間違いないだろう。
お子様にはまだわからないのね…と遠い目をしていると、私たちを見回しながら、博士は突然にこやかに提案した。

「よーし!せっかくだからみんなでポケモン勝負だ!」

急。なんでだよ。

ここで?と言いたくなる気持ちを抑え、私は博士の言葉に苦笑した。
何で?何がせっかくなのか全くわからないし、挨拶もそこそこにポケモン勝負をする理由も全くわからないよね。しかもここ研究所だし。まさか図鑑もポケモンも渡し済みだからやる事ないのか?だから来いっつってんだろアサメまで。そういうとこだぞ。

なんかマイペースっていうか掴みどころがないっていうか…変な人だなプラターヌ…。私はろくに反応もできないまま突っ立って、三人でどうやって勝負するんですかね…とサナとカルムを見ていれば、博士は私の方へ近寄ってきて、なんとポケットからボールを取り出したではないか。

「君の相手はこのプラターヌがするよー」
「…え!?」

このレイコの相手を…あのプラターヌが…!?

まさかの申し出に、私はもちろん戸惑った。何故なら、八百長試合などできないからだ。

いや嘘でしょ。本気なの?だって私…間違いなく勝つんですけど?つまり命の恩人をボコボコにしてしまうということで、それは…許される事なのか…!?忖度が必要!?まぁ無理だけどな。全員等しく一撃で沈める事しかできない。すまないと思っている。

思い悩む私であったが、不意に、博士は私の強さを把握しているはずだと気付き、それでも尚挑んでくるという事は、相当な手練れなのではないかと想像した。

そうだ…カルムやサナと違い、博士は私の功績の限りを知り尽くしている…。五度のリーグチャンピオン、図鑑制覇、その他諸々の活躍…北から南から諸外国にまで足を伸ばし実力を身につけ続けている事を、この男が知らないはずがないのだ。もしかしたらニートの事も知ってるかもしれないけど、それは気付かなかった事にしよう。

私が最強の無職とわかっていながらも勝負を持ちかけてくる…そんな恐れ知らずな真似ができるなんて、この男…まさか相当の実力者なんじゃ…?
ポケモン博士は世を忍ぶ仮の姿とかじゃないよな…と緊張に身を強張らせていると、またしてもプラターヌから衝撃発言が飛び、私は翻弄され続けるのであった。

「言っておくけど、僕強くないからねー!」

強くないのかよ!
紛らわしい!人を苦悩させるのはやめてくれ!いい加減怒るよ!嘘だけど!

  / back / top