あと数分で家を出なくてはならない私に、間が悪く声をかけてきた少年は、どうやら隣家に住んでいる子供らしい。お隣さんかどうか問われ、まぁあながち間違ってもいないから、ひとまず頷いておいた。全ての事情を説明している時間はないし、そもそも初対面のガキに言う事じゃないだろ。実父に詐欺られて来ましたとか恥ずかしくて言えねーよ。

「そんなところかな…すぐ留守にするけど」
「若い旦那さんだね」
「いや旦那じゃないし私も若いから」

何だこのクソガキ。失礼すぎじゃない?
先程の私とグリーンのやり取りを見ていたのか、ファーストコンタクトで無礼な言葉を受け、私は早々に彼への好感度を地へ追いやった。何なんだその感想は。確かにグリーンも私からすればクソガキオブクソガキ…つまり若いけど、私だってこの晩婚が進む昨今じゃ結婚するには若いだろ!そもそもグリーンとそんなに年変わんねーし!
いきなり心を傷付けられ、カロスの旅は最悪の滑り出しである。ただでさえ地獄の親子喧嘩を繰り広げてテンション下がりまくってるってのに、これ以上ダメージ追わせてどうする気なんだよ?憎しみで人を殺したらお前のせいだからな。

とんでもない責任転嫁をしながら、己の若さを誇示しようとしたところで、もはや遅刻は確定な時間となってしまった事に気付いた。やべぇ、と踵を返し、もう二度と会う事もないであろうガキ相手にだらだら喋っている自分を嘆きながら、適当に話を切り上げた。

「ごめん、急いでるんだ。また改めて!」

グリーンがな。グリーンが改めるから。若い奥さんだったねって言えよお前。絶対だぞ。
根に持ち続けながら家へ入り、身支度を整え、いざ出立!と再び玄関を開けたら、今度は宅配便が届き、私の遅刻に拍車をかけた。次から次へと何なんだ…!と歯ぎしりし、しかしトラックから降ろされた物体を見て、私の怒りは鎮火する。
サインお願いしますと言われるがままペンを走らせ、二日ぶりの再会となったそれの梱包を慌てて解いた。タタリガミと化した乙事主の中からサンを探すアシタカのように。

こ、この…もはや新品を買うより修理した方が高くつくであろう全身ボロボロの機体…!ジオングの攻撃を受けまくって稼働不能寸前となったガンダムくらいギリギリな状態を保ち、それでも故障までには至らない、この馴染み親しんだボロ車は…!

「原付…!」

なんで送ってきてんだよクソ親父!絶対カロス横断に耐えられねぇだろ!
いい加減新しいの買ってくれ…と嘆きながら、それでも動き続ける原動機付自転車の健気さに、何だか泣けてくるレイコであった。
行きたくねぇ〜。

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