新婦来賓・知人

結婚式の招待状を送ったら、シロナさんはわざわざお祝いの電話をかけてきてくれた。こっちからしようと思っていたのに気を遣われ、何だか申し訳ないなぁと眉を下げる。

私の名はレイコ。石油王に見初められた超エリートニートだ。この度めでたく結婚し、シンオウでお世話になったシロナさんにも是非式に出席してほしかったので、向こうからの電話は素直に嬉しく思っていた。
何せ私の交友関係では貴重な女性枠だからな…。女友達が少ないあまり、シンオウでやたらシロナさんと絡むから、まさか今期から百合を取り入れたのかな?って本気で疑っちゃったくらいだもんな。心からすまないと思っている。
無職の私とは真逆の自立した女性代表のシロナは、常に美しく、眩しく、強く、そして片付けられない女で、まさに実写版メーテル…鉄郎でなくても思わず好意的な気持ちを抱いてしまう、そういう人であった。
そんな彼女だが、私の知るところによると、いまだ独身である。

「結婚おめでとう、レイコさん。先を越されちゃった」

初っ端から笑えないジョークを飛ばされ、気まずさが臨界点を超えそうだった。
それどうリアクションしたらいいんだよ。自虐なの?未婚既婚にこだわるのはもはや前時代的な人のみであると言っていい昨今、逆に反応に困って渇いた笑いしか出てこない。
シロナさんほどお綺麗なら…さぞかしおモテになるんじゃないでしょうかね…つまり自ら未婚の道を選んでいるように思えるのだが、しかし完璧すぎると人は逆に引いてしまうというのもわかる…結婚しないのか、それともできないのか、どっちかわからない人が一番怖いよ。
とりあえず話そらすか、と己のコミュ力の限界を感じていたら、幸いにも向こうから話題を変えてくれたので、私は心底ホッとする。

「今頃、君の結婚でショックを受けてる男性は多いんじゃないかしら」
「そんなまさか…」
「あたしもね、何だか寂しいなって思ってしまったわ」

話題が変わった事にはホッとしたけど、変わっても別の意味で不穏だったため、当分私に安息は訪れないらしい。
おい本当に百合じゃないよな?別にそういう意味じゃないよね?レイコさん何だか遠くに行っちゃったみたい…的なやつでしょ?
疑心暗鬼が止まらず、シロナがいまだに独身なのはロリコンだから説を後押ししないでくれと私はただ祈るばかりだ。
まぁな…仲のいい兄弟や友達の結婚に喜びと寂しさを覚えるような気持ち…わからんでもないよ。これからも仲良しではあり続けるけど、でもずっと同じ関係ではいられないという悟りにも似たあの哀愁…誰にでもあるよね。まぁ親友いないからわからないんですけど。にわか乙。
でもねシロナさん、たとえあなたがロリコンでもショタコンでも…犯罪を犯さない限り、私はあなたを慕い続けるから…どうか安心してほしい。私は一足先に独身女を卒業するが、大富豪になる以外は特に変化ないからさ。結構な激変じゃねーか。

「別に…結婚したって何も変わりませんよ」

フォローのつもりで言ったが、シロナさんは意味深に笑った。

「君はそうかもしれないけど、人は違うの」

わりとバッサリ否定されたわ。なんかすまん。
人生経験豊富っぽいシロナにそう言われると、あっサーセン…という気持ちにしかならず、思わず電話越しに頭を下げた。生意気言って申し訳ありませんでした。金で人は変わる、それを忘れていました。心よりお詫び申し上げます。
カイジ、ウシジマくんなどを見ていながら軽率に変わらないとほざいた自分を叱責し、同時に私は誓う。
大富豪になっても、シロナさんを失望させない人間でいよう。今もわりとクソ野郎ではあるが、ゴミクズではないと思うので、人としての大事な部分をな、失わずに生きていきたいもんですよ。変わらないわねレイコさん、いつ会ってもあなたにそう言ってもらえるように…私は真っ当に生きる…。こっちが百合に寄せていってるじゃねーか。これから結婚するっつーの!

少しだけ世間話をし、ご多忙な中シロナさんは式に行くと約束してくれたので、一番いい席を用意しておこうと私は浮かれた。シンオウのメーテルを新婦ご友人席に配置できるの光栄でしかないからな、普通にテンション上がるわ。ブーケもシロナさんが取るまで投げ続けてもいいし。だから百合じゃねぇよ。

「お幸せに、レイコさん」

電話を切る直前、彼女は祝福の言葉をくれたけれど、その声色は少し寂しげだった。百合ネタがネタじゃなくなりそうな雰囲気は、新婚の私を静かに揺さぶる。

「君に焦がれたトレーナーたちの分まで」

あたしもよ、と言ったシロナの言葉の意味を、ついつい深く考えてしまいそうになる私であった。
これだから未婚の美女は怖ぇんだよな。