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飛びこみなのに飲み放題をつけてくれるなんて珍しいと思った。わたしは初めて入ったけれど、おそ松さんたち六つ子の皆さんはいつも飲み放題をつけてもらっているようで、注文取りに来た店員さんに真っ先に飲み放題2つよろしくと言っていた。
「六つ子さんお得意様だからいいですけど、ちゃんと飲み放題とかコースは予約してくださいよ」
店員さんはそう笑いながら伝票にペンを走らせていた。
「そんなもんなの?」
「飲み物の在庫でですねー。いきなり言われちゃ困るんすよ」
そんなやりとりがあった後、おそ松さんもわかってくれたみたいで、次から気をつけるわー、と言っていた。
そして頼んだ生二つと枝豆とたこわさが運ばれてきて、早速乾杯をする。
「かんぱーい!」
キンっ、とジョッキが音を立てると中の黄金の液体が波打ち、お互いそれを口にする。
「ぷはー!大勝利の後のビールはサイッコー!」
おそ松さんは液体を半分くらいに減らしたところでそう言った。
わたしはちびちびやるのでそこまではまだ減っていないが、大勝利という言葉が気にかかって飲むのを中断させる。
「おそ松さん、わたしお昼に弟さん、一松さんにお会いしたんですけど」
おそ松さんは何も聞いてなかったのか目を丸くさせる。
「まじで?!どこで!」
「わたしのバイト先のコンビニです」
そしたらさらに驚きを見せて、体を前のめりにし、
「かなたちゃんコンビニでもバイトしてんの!おれ聞いてないよー?」
といった。
それはそうだ、言ってないですから。
「言うタイミングもなかったですからね。ちなみに一松さんは近所だと言っていましたよ。青いコンビニです」
「まじで!こんど探すし!一松のやつなんで言わねーんだよ〜、クッソ」
拳を作って殴るまねをしたので、これはまずい展開かと思い、
「物騒な真似はしないでくださいね。ご来店お待ちしてますよ」
と言うと、
「わーってるって!早速明日探そー!あ、明日休みだっけかー」
へへっ、明後日だな!って、へらっと笑顔を浮かべる。
あ、おそ松さんのこの笑顔好きだなと思ったらちょっとキュンときた。
「あっれぇ?かなたちゃんもう酔った?顔赤いよ」
今度は心配そうに眉を下げるので、
「へ、やだなぁまだそんな飲んでないですってー」
照れ隠しに一気にビールを口に流し込んだ。
「そ、そうそう。一松さん、その時に、今頃浮かれて資金稼ぎ行ってるからーって言ってたんですけど、おそ松さんてお仕事は」
日雇い?あの口ぶりだと就職して働いてる気がしなくてつい尋ねてしまったのがよくなかったようで、急に不機嫌になってしまった。
「仕事ぉ?してねー。今日はパチンコ行って大当たりしたのよ。あ、もしかしてギャンブルで勝った金なんかで酒のめねーって?」
「そ、そんなことはないですよ」
「そーだ、今度さぁ、俺がカリスマレジェンドになれる確率占ってよー。へへっ、もちろん100%だよなぁ」
なんだろう、酔ってるのか怒ってるのかがわからなくなった。や、酔うにしてはまだ時間は早いし、もしかしたらおそ松さんには仕事の話は鬼門なのかもしれない。死神のカードのあれはもしかしてこれなのか。
「おねーさん生追加ねー!あとチーズのカリカリもまだきてないよぉ〜」
頭がグルグルしているわたしをよそにおそ松さんはどんどん注文をする。
「かなたちゃん飲みなよ」
「は、はい」
そしてすすめられるままに飲み、とうとう意識が飛びそうになる。
「も、飲め、ませーん…あうっ」
「ああ!ビール倒しちゃったよこの子は。服は…と、濡れちゃってるな。すんませーん、タオルお願いします、あとお勘定も。」
おそ松さんかな、手の心地よさを感じたとたんそのまま意識を手放した。
気がついたら知らない天井がそこにあった。
「すー…」
「ぐー…ふがー…」
服はいつの間にか、おそ松さんがいつか着ていたようなパーカーに変えられ、隣にはおそ松さんが寝ていて、さらにはあと5つの同じような寝顔がそこにあったのだった。
カチ、コチ、とどこからか時計の針の動く
音が聞こえる。時間はわからないがまだ夜中なのは間違いないだろう。
「かなたちゃん、起きた」
まだ少し覚醒していない頭をフル回転させて声のする隣を見ると、すっかり青いパジャマを着たおそ松さんが笑いながら見ていた。
「おそ松さん、わたし、あの」
「ごめん、かなたちゃん酔っ払ってさ、記憶ないかもだけどビール自分でこぼして服濡れちゃうし、そのまま潰れちゃうしで、家わかんないからうち連れて来ちまった。ごめん」
ええー…。ものすごく恥ずかしくて、布団の中に潜りこむ。
「す、すみません…ご、ご迷惑を」
「いいよ、すんげえ可愛かったしね、かなたちゃん。今だって、それ俺のパーカーだし。あ、着替えさせてくれたのは俺の母さんだから安心して」
女の子に俺のパーカー着せるなんて夢だったんだよなー!と続ける。着替えさせてくれたのはお母さまだったのかと少しホッとするとパーカーからふわりと男の人の匂いがして、頭が覚醒してくると同時に心臓の音がせわしくなって来た。
「おそ、まつ、さん」
「ん、どした?」
おそ松さんが布団の中に潜り込んでくる。顔はわからないが体温が伝わってきてそれがまたさらに心臓の動きを加速させた。
「かなた」
不意に呼び捨てにされどきりとして、それと同時に唇と頬になにかの感触を得た。それが彼の指と唇だということに気がついたのはもう離れてからだった。
「へへっ、役得ぅ」
固まるわたしをよそにおやすみー、と布団の中から一つの体温が抜けた。
起きて帰ったらもう一度カードをめくろう、そう心に決めてまた目を閉じた。
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