Y

結局よく眠れずに朝を迎えてしまった。

一松さんには「やるじゃん…」とニヤニヤされ、チョロ松さんに至ってはお持ち帰りされたと勘違いされたがなんとか誤解を解くことができた。

「起きてみたらおそ松兄さんの隣に女の子がいるんだもんびっくりしたあ!」

いつも野球の朝練をするために一番早起きな十四松くんも、わたしをみて大変な驚きようで、そのためにみんなが起きてしまった感じだ。

ひとしきり騒ぎ立てて朝練に出て行ったあと他のみんなは二度寝に入ってしまった。
時計は朝6時、おそ松さんはニート、チョロ松さんも求職中だったかと思うけど、他の人もそうなんだろうか。
「そう、俺たち全員ニート!知らなかった?」
とはおそ松さん。
「威張って言うことでもないだろうが!仕事探そうぜみんなぁ」
これはチョロ松さん。
「ああ、メンドクセェ…」
は、一松さん…。
「俺を養ってくれる人がいれば紹介してくれないか?」
いやいないと思う、カラ松さん…。
「ねえねえ、おそ松兄さんより僕と付き合わなーい?」
とはトド松くん…

へ?え?付き合っ…?!てないけど、わたし。
「は、えっ、おそ松さんとは、お付き合いなんて、」
この場にいたおそ松さん以外の4人が声を揃えて
「えーーーー?!」
と叫んだのだった。

おそ松さんはいきなり立ち上がって、
「俺!かなたちゃん送ってくから!お前らついてくんなよ!」
と叫ぶように言うと、ほら行くよ、と腕を掴まれて立たされて、おそ松さんはわたしの荷物とまだ乾ききっていないわたしの服をハンガーごと取ってわたしに押し付けて、飛び出すようにその部屋を出た。
物音に気付いたんだろう、出てきたおばさまに、
「これ、うちの母さん!」
とぶっきらぼうに紹介されるも腕をぐいぐい引かれてて挨拶もそこそこに家を出てくるしかなかった。

「おおおおおそ松さん?!ちょ、痛い、です」
掴まれた腕がだんだん痛くなってきたのでそう告げると、道の真ん中でぴたりと動きが止まった。
「ごめん、かなたちゃん、あいつらが言ったこと気にしないで」
パッ、と腕を離されると、顔をあわせることなく元来た方向に走り去ってしまった。

「おそ松さん…」

どうしたのだろう、と思ったけど、さっきの付き合ってない、が何か関係でもあるのかもしれないと感じた。とりあえず一人で帰ることにして、再び歩き出した。
「弟さん達を殴ったりしてないといいけど」

というか、ここはどこらへんですか。



死神のカードは当たっていた。
今までは、占い師とその客。でも、この関係が終わって、友達に。
でも、それもいま終わろうとしているのがわかる。
このまま、お互いを知らない頃の自分に戻るのか。それとも、何かまた始まるのか…。

こないだ紫蘭さんが言っていたこと。

赤い色。これは居酒屋の赤提灯かもしれないし、もしかしたらおそ松さんのこの赤いパーカーか。

お酒。おそ松さんに誘われてチビ太さんとこや夕べの酒場で飲んだ。

あとは、わたし次第。ということは、ここでわたしが諦めたら、もう終わりなのだろう。

おそ松さんのことは気になる。好きかどうかでいえば、多分、好きなのだと思う。
あの思い出と重なって、おそ松さんのことはきっとこれからも忘れられない存在になるだろうことは予想できる。

タロットカードで自分を占うことはもちろんできる。けれど、これを最後にしようと思う。タロットカードはいわば道しるべ。これが本物の恋ならば大事にしたい、けどそれにタロットカードを使うと慎重になりそうでいやだから。なりゆきに任せてみようと思う、そしたら何が起こるかわからなくて楽しそうだと思った。



なんとかかんとかで家に帰り、赤いパーカーとジャージを洗濯機に入れる…前におそ松さんのパーカーを、きゅっと、胸に、抱きしめた。

ほわっとおそ松さんの匂いがする。

ドキドキしてきた。はたからみたらヘンタイなんだろうなと気づいて慌てて洗濯機にいれて回した。





(おそ松)

「わーっ待って待ってにいさーん!ごめん!ごめんなさい!痛いー!」

彼女の顔を見るのがなんだか気まずくて家に逃げ帰って、真っ先にトド松に制裁の鉄拳と言う名の拳をこめかみにぐりぐりしてやった。
「俺かなたちゃんのこと大事にしたいのよ、頼むから、邪魔しないでくれる?」
いつもは先陣切って邪魔する側だけど、邪魔されたら上手くいくもんも行かなくなる。それが痛いほどわからされる気分。みんなごめん、やっと気づけたかも。

アイリスさんことかなたちゃんは商店街の片隅にできた占いスペースの占い師。占いなんて興味なかったけど、彼女の噂は奇しくもトト子ちゃんから聞いたのだ。

『実はね、うちからデビューしませんかって話があったの。迷ってたから思い切って相談してみたら、うまい話には裏がありますねって言われて。そしたら声かけてきたその男!詐欺師だったの!すごいわあの人!』

興奮気味に話してくるので、俺も占いしてもらったらなんかいいことありそうな気が不思議として、そんで行ったの。
占う内容なんかなんも考えてなくて、とっさに出てきたのがトト子ちゃんとのこと。
高嶺の花だって言われてかなりショックだったけど、いい出会いありますよって言われた時はなんか開けた気がしたっけ。

占い師って化粧濃いかベールとか被ってて顔隠してるイメージだけど、アイリスさんはベールこそ被ってるけど全然飾り気がなくて、話す感じも優しげで、この人のことが知りたいなって思えたの。年齢とかは気にしなかったな、どうも3つくらい上らしいけどさ。

電話番号交換できて、いざかけようと思ったけど、妙に緊張してウロウロしてたら母さんに邪魔!って怒られるし。ふと占いのこと思い出して、夜に酒飲めるとこったら居酒屋くらいなもんだろって考えて、とりあえず金ないしまたチビ太んとこ世話になろうって考えて。誘うのはチョロ松の話したから、チョロ松にアイリスさんの話しして、行ってみたらなんて言って。で、チョロ松に俺も行ったこと話して、俺の弟ってもし気がついたなら、屋台にいるから誘えって頼んだんだ。もちろん今の話知らないフリしろよって念押して。

そしたらうまいこと、アイリス…かなたちゃんは気づいてくれたんだ。本当に来てくれたってわかった時嬉しくてさ。ガラにもなくガッツポーズなんか小さくして。

チョロ松から伝言聞いた後、思い切って電話かけて、赤塚酒場に誘って。
可愛かったな、ベロベロに酔っ払っちゃって。まあ俺がそう仕向けたんだけど。ビールこぼされて服濡れたのは想定外な。

まーあれがなくてもかなたちゃん家わかんないしうちにお持ち帰りしたんだけど!



でもさ。

俺がおぶって帰ってる時。

『おにいちゃん』って、そう言ったんだ。



小さいころ、迷子の女の子を保護したことあって。
あちこち引っ張りまわして、あの子の親を見つけたと思ったら今度は俺が迷子になるっていうオチがあんだけどさ。
あの時、
『おにいちゃん、ありがとう!』
って手を振って、ずっとおれから目を離さなかったあの子のことを思い出したんだ。
お母さんが名前呼んでたけど、なんだったかな…

『かなた』?

まさかな、そんな偶然あるわけないよ。


BACK
ALICE+