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「星野さん」店長にバックヤードから呼ばれて行くと、品出しの真っ最中だった。
お客様はいなかったけど、品出しを始めるとレジの同僚が挨拶をする。
「いらっしゃいませ」
ガラスの両開きのドアが開いてお客様がやってきたようだった。
そういえばおそ松さん、ここのコンビニ来たことあるのかな…近所、たら近所だったけど、そんなに近くなかったな。
酔いつぶれておそ松さんのお家にお泊まりしてしまった朝、途中で放置されて途方にくれたのだ。仕方なしに残り少ないバッテリーのスマホの地図アプリを開いて位置だけでもと見たら、そんなに遠くないところに自分がバイトしているコンビニを見つけたのだった。徒歩10分ほどだっただろうか、ここまで来るのにも何軒か違うコンビニがあったから、ここまで来ることは滅多にないに違いない。
「あっ」
補充のために屈んでいたその後ろから声がする。と思ったら、急に目の前が暗くなる。
「だーれだ?」
懐かしいなあ。昔よくやってたな。ってそうじゃなくてだね…、咄嗟にはわかんない…。なんとなく、あの人みたいだけど、違ってたら恥ずかしいな。
「どなたでしょう…いきなりすぎてわかんないです」
「ええっ、あー、だよな…ごめんっ」
パッと目の前が開けて、振り向いてみるとそこには、今考えてた人。
「おそ松さん!来てくださったんですか」
「なーにーかなたちゃん、おれにそんなに会いたかったあ?」
へへっ、と鼻の下をこすって、
「うちから一番近い青いコンビニってここだもんな」
とあたりを見回す。
会いたかった、とは面と向かって言えないけどここに来てくださるのが楽しみだったのは内緒。
「そうなんですね、よかったらこの店をご贔屓にー」
「おっ、そうしてみよっかな。すこし遠いけど散歩のつもりでくるわ」
本当にたまにでいいから、店に来てほしいな。そう願わずにはいられなかった。
「じゃ、帰るな。あー、そだ。かなたちゃんには青より赤が似合うよ」
「は、えっ!そんな、赤は、おそ松さんの色ですから」
「へへっ、顔赤くしちゃって。じゃ、お疲れー」
へらりと笑みを浮かべて手をヒラヒラと振りながら店を出ていった。
青よか赤が似合う、って。
コンビニの制服は青。
おそ松さんがいつも着ているのは赤い色。
「ふふ」
また早く会えたら嬉しいです、おそ松さん。
バイトが終わり、着替えて外に出ると、空は夕焼けがとても綺麗なオレンジ色をしていた。
「ふわあ…」
ビルの谷間に沈む夕日がこんなに美しく思えたことってあっただろうか。
『おかあさんいない…うっ、ううっ…』
『だーいじょうぶだって!おにいちゃんがいるからさ!!泣くなって〜』
あの時も夕方の時分で、おかあさんたちと帰る道は夕陽に染められていたな。
『おひさま!おにいちゃんのいろ!』
『あらあらかなたってば。また逢えるといいねー』
『うん!!』
懐かしい記憶だ。
お母さんたちはあの時のこと覚えてるかな、今度話してみよ…
ん?
ここでわたしはふと思い出した。
『おにいちゃんのいろ』?
そうだ、あのおにいちゃんも、赤い…服を身につけていたな。赤い…松みたいなマークの…パーカー…
「おにいちゃん…おそ松、さん?」
帰り道、夕日が辺りを染める中、わたしは道の真ん中で呆然としていた。
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