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助けてくれたお礼としてライブに招待してくれた。そのライブが今日だった。
終わって家に帰ってからも、僕らは興奮がおさまらなくて、感想を言い合ったり、チョロ松兄さん手持ちのCDを流したりしていた。
ほのかにlineを送る。

“今日はありがとう、すごく楽しめた“

本当はもっと伝えたいこともあったし、感想も言えたらよかったけど、うまく言葉にならなかった。

『今度感想聞かせてくださいね!』
『カレンにカラ松さんのこと問い詰めます』

ああ、ちょうど。
カラ松におそ松兄さんが迫ってる。
正直おれはクソ松のことなんて興味ないけど、聞き耳を立てる。

「俺はカレンがアイドルだったなんて知らなかったんだ」
「それはどーでもいいの!お前、そのカレンちゃんのことどーなのってお兄ちゃん聞いてんの」
「フ、言わずと知れたこと。俺の子猫ちゃんだからなぁ」
ピク、とこめかみがうずいた。
「クソ松…殴らせろ」
「いちまぁつ…?顔が怖いぞォ…」
「いいから質問に答えなよ」
カラ松はふと諦めたようにため息をつき、口を開く。
「あぁ、好きだ、カレンが。でも、」
「でも?」
おそ松が続きを催促しても、カラ松は目に涙を浮かべて口を閉じたままだった。
しばらくして、俺を見た。
「一松」
「んぁ?」
「お前はほのかさんをどう思うんだ?好きならば、覚悟決めた方がいい」

アァ…気づきたくなかった。
ほのかは、あのねこ仲間の前に、アイドルだ。
スキャンダルなど、もってのほか。
だから、路地裏で会う以外のことをしたことがない。
本当は、ほのかに触れたい、抱きしめたい。キスも、えろいこともしたい。
ほのかと二人で街を歩きたい。
カラ松は覚悟決めたんだろう。目が、語っていた。

ほのかはおれをどう見ているんだろうか。
クズニート、童貞。闇。生きる気力なし。
イイトコなし。
…好かれるわけがない。
けど、おれの写真が欲しいといって、あげたらすごく喜んでくれた。あれはなぜだったんだろう。
俺がほのかのプライベートな写真をくれた時は嬉しかった。特別な気がした。ほのかに会えない時は眺めていた。
ほのかも同じだろうか?

「ほのかは俺のことなんか見てない」

こうして蓋をしておけば…

「お兄ちゃんはそうは見えなかったけど?」
「おそ松兄さん」
兄さんはおれの頭をぐりぐりと撫で回す。
「ありゃ絶対お前のこと意識してるなー。ライブ前もお前のことすげえ見てたし。チョロ松も気づいたよな」
「思い出した。ライブ中僕と一松とで客席降りた時、僕らのこと見つけたんだろうね、一松の方ずっと見てたよ。間違いない。んで顔赤くしてた」
「顔が赤いのはライブのせいじゃ」
「とにかくさ、一松はほのかちゃんと向き合った方がいいよ」

チョロ松兄さんがそういったところで、ドタドタと階段を上がる音が響いて、襖が勢いよく開いた。
「たっだいまー!」
十四松が野球のユニフォーム姿で現れた。十四松はライブ終わってからすぐにユニフォームに着替えて夜なのに素振りを外でやってたからたいしたもん。
「おかえり十四松」
皆が口々におかえりをいう中、十四松の様子がおかしいことにトド松が気がついた。
「十四松兄さん、なんかあった?」
十四松が一瞬固まりそして口をゆるゆると開く。
「あー…外で、その。会っちゃった、ほのかちゃんに…」
「えええええ?!」
「思いつめた顔してた」


☆☆☆☆☆ほのかside

好きだと、はっきりしてしまった。
アイドルが、恋をした。なんてバレたら、わたしはもうアイドルには戻れないのはわかっていたのに。
そして、わたしはこうなることを望んでいたんじゃないのか。
一松さんと出会う前。満たされない思いや、日々レッスンややりたくない営業とか、毎日に疲れていたわたし。辞めたかったんじゃないのか。

『一松さんのハートをかっさらいに行きます!』

数ヶ月前までのわたしからしたら、想像もつかないセリフだと思う。
「もう、わたしのハートが、かっさらわれてたわ…」
気づいたところで、どうしようもない。
蓋を、蓋をしなければと思う。
だけどもう、蓋がはまらないくらい溢れ出していた。
「一松さん…好き…」
優しい表情で猫を撫でる姿、照れたようにはにかむ表情。拳を振り上げてライブを楽しんでくれたあの顔。
自虐的なとこも、無骨な手も、全てが愛おしかった。
「カレン…ごめん…」




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