7


あれから、ほのかからの連絡が途絶えた。
まず既読がつかない。電話をかけても電源が切ってあるんだろう、ただ"電波のとどかないところにあるか〜"のアナウンスがながれるばかりだ。
もちろん、あの場所へ来ることもなくなった。
おれは猫たちに餌をあげるためにほぼ毎日通っているが、猫は相変わらず自由気ままに動いている。羨ましい。
本当に猫になれたら。なんのしがらみもなくほのかを探しに行けるのに。彼女を探し出して、そのまま側に、うん、柔らかな陽の射す縁側に腰掛けた彼女の膝の上でゴロゴロしたい。あ、それいいな…ヒヒッ。
そうしてカレンさんが血相を変えて松野家にやって来たのは、連絡が途絶えてしばらくした朝だった。

「カラ松、どうしよう…!」
カラ松が玄関を開けると血相を変えたカレンさんが駆け込んできた。
「ほのかが、どこにもいないの!」

家にもいない、心当たりを探すけども見つからない。
「一松くんなにか聞いてない!?」
カレンさんは必死なのが伝わってくるくらい必死の顔をしていたが、その期待に応えられるだけのものを持っていない。
「残念だけど…おれも連絡、取れなくて。ごめん」
「そう…一松くんが、頼みの綱だったのだけど」
明らかに落胆しているカレンさんを、少し落ち着いた方がいいとカラ松が居間に連れて行った。
「手分けして探すか?心当たり全滅でも、おれらならなんとか手かがりだけでも掴めるかもしれないかもだぜ?」
おそ松兄さんの思考は時々鋭い。
「そう…だな、さすが、」
「だろー?お兄ちゃん褒めてー」
ちっ…いま見直したと言おうとしたのに、なんか言う気失せた。
「ケッ、…作戦会議しないとだな」
「一松ぅあんまりじゃねえのその態度〜?」
おそ松兄さんは怒るでもなくへらっとした顔でおれの後をついて居間へやってきて、居間をぐるりと見回す。
「ここに今いるのって俺とカラ松と一松とチョロ松か」
十四松は野球、トド松は女の子と遊びに行ったかなんかだろう。
「十四松ならそこらへんで素振りしてんだろ、見つけ次第訳話したらいい」
そこでチョロ松兄さんがおずおずと手をあげる。
「あ、あのさ、なにか、あったの」
そうだ、チョロ松兄さんはずっとここにいて、話をあまり聞いていないだろう。
「チョロ松、そっか。よし、よく聞いとけ?」
事情を飲み込めていないチョロ松兄さんに、おそ松兄さんと俺とで説明してやると、チョロ松兄さんの顔がみるみる青くなってきた。
「ほ、本当なのそれ?!明日、アンジェリク、定期公演が!?」
ガタガタと震えだしたチョロ松兄さんが入り口の襖の方をじっとみている。そこにはカレンさんがいて、こちらも沈んだ顔をして、
「そうなんです。わたし、手紙をもらって、それで気づいたんです。ほのか、一松さんのことが好きなんだって」
ほのかはおれのことが、好き。
おれは、ほのかを…。
「えっ、じゃあ、もしかして、アイドルのことと、一松とで板挟みになっちゃったとか」
「だと思います。いえ、そうとしか考えられない」



そしておれは今路地裏にいる。
見ていないであろうlineに残したメッセージ。
「おれはいつでもここにいるから、かえってきて」
ほのかがいつかアプリを開いて、ここに戻ってきてくれると信じて。
だって、おれとほのかはここで出会ったんだ。薄汚いこの場所には似合わないほど綺麗なほのかは、ここを気に入ってくれて、あいつらを可愛がってくれて。

かえってきたら、一番に言うと決めた。
おれもほのかが好きだと。
こんな時に捻くれるのは得策じゃあない。
お願いだから。帰ってきて。

今頃おそ松にいさんたちは、おれが話した心当たりを探している。lineみて、ってほのかへの伝言を持って。
いちばん有力なのは、ほのかがいちばん可愛がっていた猫、シャンの墓がある隣町との境を流れる川沿い。

十四松の野球に付き合って川沿いを歩いていたら、草むらに白とグレーの猫が倒れているのを見つけた。それがシャンだとすぐわかったくらいだ。
すぐにほのかに連絡すると、早朝にもかかわらず飛んできてくれて、シャンだとわかると泣きながら亡骸を抱いた。汚れるのも気にせずに。
猫というものは、体調がよくなかったりすると敵から身を守るために隠れるらしい。それも体調が悪くても元気なように見せるのが得意で。最後にシャンを見たのは、おれとほのかが写真を送りあったあと路地裏に行った時だ。あの時身を隠すために旅立とうと別れを告げにきたのかもしれない。遺体を見つけたのは、あれから一週間経ったあとだったから。



BACK
ALICE+