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可愛いと思っていた猫が死んでいたのを見つけたのは一松さんと弟の十四松さんだった。
『多分シャンだと思うけど…』
電話の向こうの一松さんは、声のトーンこそ変わらないが少し焦ってるような感じで。
「シャン」
倒れていた草むらの下に亡骸を3人で埋めて、それなりにわかるようにと、わたしが持っていた猫のキャラクターのついたヘアゴムを一緒に埋めた。目印は猫のフィギュア部分。
「シャン、またきちゃった」
目印を見つけてその近くに腰かける。
川面は日の光を浴びてキラキラ輝いていてとても綺麗で、しばらく眺めていた。

ずっと一人になりたかった。カレンの家のポストに手紙を入れて一人になりたいと思って家にこもっていたけどさすがに息が詰まりそうになったのでこっそり出てきたのだった。

「いたあ!ほのかちゃん!!」

突然のわたしの名を言う声に驚いて振り向くと、野球のユニフォーム姿で息を切らしている十四松くんがいた。
「さーっすが一松にいさん、ビンゴォ!」
土手の上からわたしのいる中程までピョン!!とジャンプしてきたけれど着地に失敗してズザザ…と少し滑った。
「へへっ、着地しっぱーい!ねえ何やってんの?お墓まいりー?」
しっぱーい!って言ったその時の仕草が少し可愛らしくて、ふと笑ってしまったんだろう。
「ほのかちゃん笑ってたほうがいいよ。絶対一松にいさんそう言うよ」
わたしの隣に腰かけた十四松くんは、にこーっと笑ってわたしを見た。
「あの猫さんも、ほのかちゃんの笑顔みたいとおもってるよきっと」
草むらの草が、まるで応援してくれているかのように風にそよいでいた。

「一松にいさんなら、どんなほのかちゃんでも好きでいてくれるよ。lineみて、ってにいさん言ってたよー!」

アイドルのわたし。
普段のわたし。

恋をしたら多分もうアイドルとしてやっていけない。そう思っていたけど。

「もしかしたら逆なのかもね」

一松さんとのことがバレた時は、もうその時考えよう。今はこの秘密の恋を楽しもう。

久々に電源を入れる。
line開いたら、一松さんからのメッセージが蓄積していて。
着信履歴はマネージャーとカレンの名前でいっぱいで。

一松さんからのメッセージ。
『おれはいつでもここにいるから。ほのかに会いたい』

わたしも会いたいよ、一松さん。言いたいことがあるの。でもその前に、やらなきゃいけないことがあるから。もう少しだけ。

「もしもし、カレン?」
電話の向こうのカレンは涙声で
「気づけなくてごめん」
と繰り返していた。その向こうでマネージャーは怒ってたけど、早く帰ってこいと一言だけ。

「心配かけてごめんなさい、戻るね」



カレンさんから、ほのかが見つかったと連絡を受けた。
十四松が見つけたらしい。十四松もおれに伝言を伝えたから、と言いにきた。

でもほのかは路地裏には現れなかった。

どんだけ待たせんだよ。
待ってるって、言いたいことがあるって。
ああ、そうか。
おれとのことより、アイドルだもんな。そっちにいっちまったんだ。
「ケッ…」
今度はおれがどこか遠いところに行こう。
ガラにもなくアイドル雑誌を眺めて、ほのかのことを見守るんだよ。遠くから…


「一松!」
路地裏にチョロ松兄さんが駆け込んできたが、なんだか様子がおかしい。
「アンジェリク、休業すんだって。明日の公演、やらないって。僕のヲタ仲間からの情報」
「えっ」
突然降ってきた情報に、おれはただどうしようもなく立ち尽くすしかなかった。



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