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「え、け、刑事課...?」


全く何が起きているのか分からないという顔だな


「心配するな、逮捕はしないさ。先に見つけたのが俺なだけ感謝した方がいい。」


男から名前の上着を奪ってワイシャツのボタンを閉めてやる


「ど、どういうことですか?何故刑事課がここに...」

「俺が聞きたいよ。こいつには自由に生きる権利があるのにな。口うるさいやつがいるんだ」


困惑を隠しきれない男は口をパクパクと動かす


「名字さんとお知り合いですか...?」

「....まぁな」


知り合いか...
俺と名前の関係って何なんだろうか
家族でもなければ友達とも違う


「....告白したのか?」

「....え?」

「好きなんだろ」

「は、いや、まぁ...」

「見たところ乱暴を加えた訳でもなければ、酔ったのを介抱してくれたんだな。感謝する。ただ、意識の無い異性に許可無く触るのは見過ごせないな」

「....すみません....」



男が手首をさすっているのを見て、強く掴みすぎたかと自責する


軽く肩を叩いてみても、名前に起きる気配は無い


「名前は、....お前を選んだのか?」

「....明確な答えはありませんでした。でも振られたと思います....」


目を伏せながらそう答える男を励ませる程優しくはなれなかった


「...寝言でずっと誰かを呼んでいたんです。よく聞き取れませんでしたけど....」

「.....そうか」



妙に突き刺さる男の証言に、それが何故なのかも分からない


動かない名前を背負い上げると、自ら首に抱きついて来て、良い夢を見ている事を願う


「今夜の事は無かったことにしてほしい。何があったのかは名前に言わない事を約束してくれるか?」

「....そうですね、分かりました」



















































「っ!狡噛!あの男はどうした!」

「俺が帰した」


起こさないように名前を車に下ろして、ゆっくりドアを閉める


「....なんだと!逃したのか!」


起こしてしまうぞと、ギノに声を落とす事を暗示する


「....何故勝手に逃した」

「誘拐した訳でも強姦した訳でも無い。捕まえてどうするんだ。それに名前は無事だった、それで十分じゃ無いのか」

「....本当に何もされていないと何故分かる」

「嘘をつくような男じゃなかった。それに初対面の善良な市民を疑いにかかる趣味は俺には無い」


本当にギノに会わせなくて良かった
感情的になって傷害事件でも起こされたら、局長になんて説明をするんだ










「着いたぞ。今日はこのまま帰って名前の様子を見てやれ。残りの仕事は俺が片付けておくから」

「俺は午後からの出勤だった、俺が局に戻る」

「酒を飲んだあいつを1人家に置いておくのか?それにだ。そんな苛ついた状態で仕事ができる訳ないだろ」

本人は気付いてないのかもしれないが、車に乗ってからというもの、ギノは頻繁に脚を揺らしていた
一晩休めば少しは冷静になるだろう


「....すまない、頼んだぞ」

「あぁ、任せろ。その代わり名前を頼んだぞ」

「当たり前だ、お前に言われなくても分かっている」



2人がマンションに入っていくのを見て再び車を走らせた







































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「うぅ...」

こんな最悪な目覚めをした事はない
体が重い
頭が痛い
携帯端末を開くと、時間と日付が目に入る

「....良かった、土曜日....」

なんとか体に鞭打って起き上がってリビングに向かうと、出勤前の伸兄の姿があった

「ふぁぁ...土曜日なのにお疲れ。」

「大丈夫か?気分はどうだ」

「え、体調悪いの顔に書いてある?」

「...は?」

「なんでだろう、生理近いのかな...痛み止めまだあったっけ」


普段常備薬が置いてある引き出しにゆっくり歩いていくのを、伸兄が驚いた顔で見てくる


「...な、なに?そんなに見られたら気味悪いんだけど」

お、最後の一錠発見

「....お前、なにも覚えてないのか?」

「ん苦っ....なんの話?」

水と共に錠剤を押し込む

「いや...ならいい。何でもない。行ってくる」

「....?行ってらっしゃい」








































週明けの月曜日

出勤すると驚くべきニュースが飛び込んできた



人事異動報告
人事課職員 相馬嘉仁を、総務課に異動する事をここに命じる



入局1ヶ月で異動なんておかしい
そもそも人事課である私たちが全く知らなかった
どこの誰が下した決定?


んまぁ、別にいいけどさ
そこまで仲良かった訳じゃないし
勝手に、私の事好きなのかなとか思ってたから、人生初告白されるかもなんて思ってたのに

まいいや
私とは関係ない話
それより仕事仕事





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