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「はぁ....はぁ....」
トレーニング用のドローンとぶつかり合う
レベルをマックスにしても足りない
あの日一係オフィスで俺と縢の目の前で起きた出来事は、俺達に大きな衝撃を与えた
まずそもそもギノと名前の犯罪係数が通常では考えられない程二人とも高い数値を叩き出していた事
互いに母親を亡くし、ギノに関しては1ヶ月も目覚めなかった名前を待ち続けた
それを考慮すれば監視官のボーダーラインである50を超えても、不思議な話では無い
だがそんな名前に関しては、それ以外特に何も無かったはずだ
入院中の色相はクリアだったと志恩も言っていた
それがどうしてあそこまで悪化していた
シャワールームに入りハンドルをひねる
汗と水が混じり落ちていく様子を見つめる
そしてギノによると名前は俺と一晩を過ごし、犯罪係数を悪化させて帰った
.....俺が何かしてしまったのか?
確かに俺が勝手にメッセージを送った事には焦っていたみたいだが、行為自体は受け入れてくれていた
俺達は互いに満たされたのだと思ってたんだが....
それにあいつもあいつで何なんだ
あれだけ名前は誰にも渡さないと言っておいて、尚も名前を気遣いパーティーにも戻らせ、俺の部屋に居る事も承諾した
俺はこんなにも名前の全てを自分だけのものにしたいと必死なのに、あいつは名前を自ら“好きな人”の元へ送り出している
それ程信じているという事か?
「あ、やっぱりここに居ました!」
トレーニングルームを出ようとした俺の目の前に立ち塞がったのは、紛れも無く最も欲しい存在
「伸兄がどうせトレーニングルームだろうって」
“さすが親友ですね”と笑う名前は全く悪意が見られない
俺には、またあいつは名前を俺の元に....としか思えないのにも関わらずだ
「どうした、何か用か?」
「またそれ聞くんですか!?」
いきなり大きく声を上げた姿にたじろいだ
「....冗談に決まってるだろ、俺も会いたかった」
そう抱き寄せたい衝動を理性で抑え込んだ
....もしまた色相が悪化したらどうする?
そして同時に、先日オフィスでドミネーターに映った数値の変化を思い出す
....なぜ下がったんだ
「....やっぱりそう直球で言われると恥ずかしいです」
「随分今更じゃないか?」
「狡噛さんはいつもストレートに気持ちを伝えてくれますよね」
結局あの夜名前は一度も名前で呼んでくれた事は無かった
気恥ずかしいのか、それとも余裕が無かったのか
「その方がしっかり伝わるだろ。今まで俺達は散々遠回りしてきたからな、最短距離でお前に近付きたいんだよ」
これくらいならいいだろうと、その頭に手を乗せると恥ずかしそうに身を縮める様子が俺を満足させて行く
「....あ、あの、とりあえず上何か着てください....」
「.....もう何回か抱き合ったのにまだそれか」
「い、言わないで下さ...っ、こっ狡噛さん!」
....やっぱり無理だ
「我慢出来ない」
少しでも力を入れれば壊れてしまいそうな、腕の中の温もり
それでも、どこにも行ってしまわないようにと強く力を込める
「....く、苦しい、です....」
「もう少しだけ、じっとしててくれ」
本当はもう少しなんかじゃなく、これが永遠に続けばいいと思う
離したくない
ずっと
ずっと
「....えぇっと....食堂、行きませんか....?遅くなるから食べて来いって....」
そう誰に言われたのかは考えなくても分かる
「キスしてくれたら考えてやってもいい」
「なっ!え....!?」
「嫌なら構わないが」
「そんな、無茶言わないで下さいよ!」
「何がどう無茶なんだ?ここには俺達以外誰も居ない」
あの時と違って
そう考えてしまう俺は、よっぽどあの時目の前で見せ付けられた光景を引きずってしまってるらしい
まだ鮮明に覚えてる
長身のギノの襟元を掴んで自分が届く高さまで引き寄せ、それでも自ら唇を強引に押し付ける為にかかとを上げた名前を
俺は女々しいだろうか
「.....じゃあいいです!」
「....ま、待て、一人で行くのか?」
「秀君と食べます!私がオフィスからここに来る時、秀君は食堂に向かってましたし、まだ間に合
.....結局こうなるのか
名前には酒でも飲ませないとダメなのか?
触れる柔らかな感触はどこまでも俺を虜にして行く
「これで貸し一つだぞ」
「.....」
引き離すと見えて来た朱色に染まった表情に、また理性が溶け出しそうになる
「....い、行ってくれるんですか?食堂....」
「俺が断ると思ったのか?」
断れるはずもない