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「....これどれ使えばいいの....?フォーク?」

「よく見ろ、一緒にスプーンが付いて来ただろ」

「あ、本当だ」



.....全く似合っていない
名前にこんな店は不正解だ

それでも一回くらい経験するのは悪いことではない




狡噛慎也執行官と縢秀星執行官によるドミネーター使用記録


狡噛慎也執行官 反逆行為警告
17時21分 宜野座伸元監視官 犯罪係数52

縢秀星執行官
17時21分 犯罪係数77


狡噛慎也執行官 反逆行為警告
17時22分 宜野座伸元監視官 犯罪係数51

縢秀星執行官
17時22分 犯罪係数72




.....やはり予想した通りか

はぁ....飛んだ皮肉だな、名前
そう思わないか





「....さっきからずっと、誰かに連絡してるの?」

「仕事だ」

「終わらせたんじゃなかったの?」

「もう忘れたのか?狡噛と縢にドミネーターを向けられただろ」

「あぁ....いや、向けさせたんでしょ」

「同じ事だ」



“本当に消去しますか?”
“はい”



「....それ、後じゃダメなの?」

「なんだ、何かあるのか?」

「.....」



そう手を止め僅かに俺を見上げる目線に、仕方なくデバイスを外してテーブルに置いた



「....これでいいか」


食事を再開する様子がそれを肯定していた



「そう言えば監視官デバイスはオーダーメイドって本当?」

「既存の物を監視官デバイスとして登用出来るわけないだろ」

「....まぁ、確かに」


監視官デバイスは今みたくマグネットで取り外しが出来るが執行官デバイスはそうはいかない
GPSも付いているため、執行官用のデバイスは実質首輪だ

それで昨日は縢の部屋に集まっていたのが分かったという仕掛けでもある



「もうすぐ新任監視官が来る」

「え!?」


今はそれの準備もあって余計忙しい
狡噛が執行官に降格してから、長い事一人でやって来た

それから解放されると思うと僅かに喜んだが、新人教育をしないといけないとなると、面倒事が増えるようにも思えた



「良かったじゃん!どんな人?」

「常守朱、13省庁6公司全てに適性が出ていたらしい」

「っ....」

「....なんだ」

「....女の子なの....?」

「....それがどうした」



眉をひそめ出す表情に俺は額を覆った

あれだけ好き合っておいて、どれだけ互いを信用していないんだ

そしてそれに付け入ろうとしない俺も、自業自得のように思えるかもしれない
だがそうじゃない
ただそれは無意味な事だと分かっているからだ

メガネを外しクロスを取り出す



「....あいつを、狡噛を信じてやれ」

「....そんな事言っていいの?それじゃまるで私と狡噛さんを応援してるみたいじゃん....」

「問題ない」



再びメガネをかけ直す



「....私が潜在犯と結婚していいと思ってるの?」

「お前がしたいようにすればいい」

「.....」



困惑した顔を見せる名前

その頬にそっと手を伸ばす



「....心配するな、お前を見捨てたわけじゃない」

「じゃあなんで」

「選択権はお前にある」

「....私は狡噛さんが好き、もう何年も前からずっと好き」

「あぁ、分かっている」

「愛してるって言ってくれてすごい嬉しかった」

「.....それを俺に言ってどうする」

「嬉しかったのに、同時に不安だった。私何が不安なんだと思う?」



俺にはその答えは明白だった



「伸兄なら分かる?」



だが教えるべきじゃない



「名前、大人扱いして欲しいんだろ?」

「え」

「なら自分で考えろ」

「なにそれずるい!せっかく頼ってるのに!」

「せっかくじゃなくても、いつも頼って来るだろ」



「失礼します、アントレのビーフでございます」



並べられた料理を前に当然の如く動かない名前は、端からナイフとフォークを手にこれまた当然の様に小分けに切り出す俺をただ眺める


そう言えば縢と六合塚が、名前は俺に甘え、俺は名前を甘やかしていると言っていたが、仕方のない事だと思う

それが互いの習慣として身に染みついてしまっている



「.....女の子の監視官か.....」



手を差し出せば乗せられたのは、まだ綺麗なままのステーキ
それと引き換えに、小さく切り分けられた方を渡す



「私もなりたかったな....」

「考えただけで頭が痛いな」



右手にフォークだけを持ち食べ始めたのとは反対に、俺はまたステーキを切り出す



「私が伸兄の足引っ張るって事?」

「報告書を全部俺に書かせるだろ」

「....そういうのは得意な人がやればいいじゃん」

「シビュラの判定は正しかったな」

「もう!」





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