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全く良くならない精神状態

原因不明の不安

答えが出せない狡噛さんとの関係

決めるのは私だと言う伸兄

それでも私が狡噛さんに会いに行くと、毎回怪訝そうな顔をするからそっちが本心だと思う

そんな伸兄も心配で仕方ない

監視官でかつ、潜在犯に特別な感情を持ちメンタルケアには手を抜かない人が、犯罪係数51のまま下がってない



「っ.....はぁ....」


精一杯棚の上にある靴へ手を伸ばすもなかなか届かない。
潔癖な伸兄が、どうせしばらく履かないだろとかなり前に仕舞ってしまった故だ

気晴らしに、この間浮いた外食費を一人でパーッと使おうと出掛けようと思う
そしてこれまた気晴らしに、いっそ出来るだけのおめかしをしようと、だからこうして奥深くに眠っている靴に手を伸ばしている

椅子を運んで来れば良いのだけど、わざわざ別の部屋に行かなきゃいけないのが面倒で、もう一回だけと決めて再びつま先立ちをする


「.....はぁ....もう!自分は背高いからって!」


昔はほぼ同じだったのに今では20cm以上差が出来てしまった
全く、何をどうしたらあんなに背が伸びたのか
小学生の頃はまだあまり変わらなかったと思うんだけどな....


「伸兄ー!」


そう思い切り叫べば、近づいて来る足音


首元で慣れた手つきでネクタイを結びながら部屋に入って来た姿が、出勤直前である事を示していた


「なんだ、俺はもう仕事に

「あれ取って」


棚の上を指差すと、溜息を漏らしながらも素早くネクタイを締め上げ襟を下ろす伸兄



「どこか行くのか」

「うん、ちょっと買い物に」


私の隣で腕を伸ばした伸兄からはいつもの香り
まだ使ってくれてるんだと思うのと、まだ無くなってないのかと感嘆もした
さすがに私が選んだだけあってすごい好み
確か洋梨とスズランと....ジャスミンの匂いだったかな


「ちょうど良い、ついでにダイムのドッグフードを買って来い」

「え、それ伸兄持ち?」

「この間食事代を払ってやっただろ」

「そ、そうだけど....」



そう私に箱を手渡すと、“俺が帰る前には帰って来い”とそそくさと出て行った





それを見送って私も軽くシャワーを浴びて、着替えて身支度を整えた


「じゃあね、ダイム。お利口にしてるんだよ」


玄関で座って私を見つめる様子は“行ってらっしゃい”と言ってるようだった
















正直土日休みなのは特じゃないと思う

他の人達も休みだしどこに行っても静かで落ち着いたところはない

だったら監視官みたいにイレギュラーな休みの方が新鮮味があって良さそう



....洋服でも買おうかな



特にこれといって買いたいものがあるわけでもない私は、ショッピングモールの中で完全にウィンドウショッピングだ

普段スーツばかりで多くは出かけない私に私服はそこまで必要ない

でもこんな時くらいと、目についたアパレルショップに立ち寄る


「いっらしゃいませー」


そう近付いて来た店員さんに目を逸らしながら軽く頭を下げる


....狡噛さんとお出掛けにでも行けたらこういう買い物も全然違う意味をなしていたんだろうな....

外出許可申請を伸兄に言えば許可はしてくれると思う

でもそれは伸兄も監視官として付いて来なきゃいけないって事だし、何よりそんなの伸兄が好むはずない


目の前のカップルが腕を組んで服を選んでいる


....変な気持ちだ



「ご試着される時はスタッフに一声お願いしますね」

「あ、はい....」



そう言われると試着してみようかなと何故か思った



「じゃあ、いいですか?試着」

「もちろんですよ!こちらへどうぞ」



手に取ったのは紺のワンピース
値段もそんなに高くない



「お客様はお肌も白くて綺麗でいらっしゃいますので、とてもよくお似合いですよ」

「あ、ありがとうございます.....買います」


別にお世辞を言われたからじゃなくて、普通に好きだと思ったから

そして、会計を済ませて品物を受け取ろうとした時だった



「....あれ?名前ちゃん?」


横から覗き込むような視線を感じてそちらに向くと、確かに見覚えがあるような可愛らしい顔と、もう一人男性


「久しぶりだね!私の事覚えてる?」

「あ、えっと....」



高校時代の人だと思うんだけど.....


「まぁ覚えてなくても無理無いよね、私クラスも違かったし名前ちゃんとはあまり話した事もなかったから」

「ご、ごめんね....」



とりあえず店員さんから品物を受け取って店を出ようとすると付いてきたその子



「私Bクラスだった優香、こっちは私の彼氏」


優香....


「....あっ!」

「思い出してくれた?」


学年で一番モテてた子だ
私からは遠い存在で、むしろどうして私の事を知ってるのか....


「ま、まぁ....でもなんで私を覚えてるの?“あまり”どころか全然話した事無かったと思うんだけど...」

「成績上位者は自動的に有名人だよ?せっかくだし名前ちゃんちょっとお茶しよ!」


確かに常に上位10名には入ってたけど、一つ上の他学年と言えど学年ワンツーが身近にいたからそんな実感無かったな....

そういう意味ではもったいなかったかも





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