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やって来たのは同じショッピングモール内にある喫茶店で、カップルを前に三者面談みたいだ


「名前ちゃんは何の仕事してるの?」

「厚生省公安局で働いてるよ、優香ちゃんは?」

「厚生省!?さすがエリートだね....私はまだ駆け出しの女優だよ」


確かにこの容姿ならあり得そうな職だ


「優香ちゃんこそすごいよ、女優なんて女の子の憧れでしょ?」

「あはは、まぁね」



満更でもなさそうな少し私を見下した態度が刺さった
そう言えばマウント女子って影で言われてたっけ....

もしかしてわざわざ話しかけて来たのも、一人でいた私を見て彼氏持ちアピール?

そう考えたのと同時にやっぱり来たのはこの質問



「名前ちゃん彼氏居ないの?」

「今はまだ考えてなくて....」



狡噛さんは別に彼氏というわけじゃないし....
でもプロポーズまでされてるのに、“今は考えてない”は流石に嘘過ぎたかな



「もったいないよ!あっという間に30代になっちゃうよ!?」

「はは....二人はどこで出会ったの?」

「シビュラのパートナー適性で知り合ったんだけど、実は同じ高校だったの!すごいでしょ!奇跡だよね!?」

「え、日東学院?」

「そうだよ、俺04年卒の社会科学部」



そう彼氏本人が答えると、その腕に自らの腕を絡ませる優香ちゃん



「04年って事は....一つ上ですか?」

「そうなるね」



一つ上で社会科学部って、狡噛さんと同じだ



「俺と同じ学部でいつも学年1位だったやつがいたでしょ」



その言葉にドキッとする



「狡噛先輩でしょ!すごい人気だったよね!」

「そ、そうだね」

「でも狡噛先輩彼女居たの知ってた?」

「....え?」

「私見た事あるよ、休日に手繋いでデートしてたの」

「....あ、相手は?」

「狡噛先輩と同じ学年で、さすがに名前までは知らないけど。でもすっごい綺麗な人だったよ。先輩が最終学年の時の話ね」



彼氏君も知らなかったという表情だ


....そういえば沖縄出張で聞いた時に、”本当に聞きたいか?“って言ってた

.....やっぱり私が最初じゃなかったんだ
あれだけ有名で人気者なんだから当たり前といえばそうなのに、どうしてかその事実は重りのように私にのしかかった

しかも最終学年の時って、もう私や伸兄と知り合ってる時だ
全く知らなかった
気付きもしなかった

私に今与えてくれてる全ての言葉や優しさは、全部一度は別の女の人に捧げたものだったんだと思うと、言いようのない虚無感に襲われる

愛してるって言ってくれた言葉も、
強く抱き締めてくれた腕も、
全部が私は少なくとも二番目以降



「....名前ちゃん?」



そっと鞄から簡易色相チェッカーを取り出して確認すると、予想とは裏腹に変化無し

改善も悪化もしていない

....どうして?



「....ごめん、なんでもないよ」



確かにこれを知るのが“不安”だったのかと言われれば、それは違うとはっきり分かる

全然分かんないよ....私は何がこんなに不安なの?
何が私を濁らせてるの?



「狡噛と言えばあいつ、万年2位のやつと急につるみ出してたな」



....伸兄

伸兄が避けてくれていたお陰で、本当に親しくしてくれてた人しか私達の関係を知らない
ましてやこのカップルとは今初めて会話しているのだから



「宜野座先輩だよね?結構イケメンで私好きだったなぁ」

「えぇ?あいつ陰気臭かったし、いつも狡噛の影に隠れててさ。しかも潜在犯の息子だって」

「嘘!?それは確かに無いかも....」



目の前で繰り広げられ始める会話に、差別を受けていた日々の記憶が蘇る



「蛙の子は蛙って言うしね」



そう言う優香ちゃんに、さすがに黙ってる訳にはいかなくて



「で、でも宜野座先輩が潜在犯ってわけじゃ無いでしょ....?」



と頑張って恐る恐る口にした“宜野座先輩”を庇う言葉はあまりにも弱々しくて誰の耳にも届かなかった

歯向かうってこんなに怖いんだ....と今になって思い知る

私はただ俯いた


「でもあいつ良いサンドバッグだったよ」

「なにそれ?」

「何しても抵抗しなかったんだよ。だから一部の奴らからは時々ストレス発散に使われてた」

「ストレス発散って?何するの?」

「そりゃ蹴ったり殴ったりだろ。まぁ潜在犯の息子だし、別に良く

「えっ、ちょっと名前ちゃん!?」





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