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「なぁギノ、お前どういうつもりなんだ」
久々に二人でやって来た休憩室は静かだった
「名前を野放しにしてる理由は何だ。何故俺と一緒に居させる」
「嫌なら断ればいい」
「嫌なのはお前だろ」
タバコに火をつけると分かりやすく俺から距離を取り出すギノ
「お前は知ってるんだろ?あいつの色相が濁ってる原因も、あいつが不安がってる理由も。」
「だとしたら何だ」
「何故教えてやらないんだ、色相を改善させたくないのか?」
「それをもし本気で言っているなら、今後お前に名前に会う資格は無い」
「本気では思ってないから聞いてるんだ」
分からない
俺の目の前で表情を曇らせた名前を思い出しては、笑顔にさせてやりたいと願う
だが名前が何に蝕まれてるのかが分からない以上、どうすることも出来ない
だがそれを分かっているのに何もしてやらないギノが理解出来なかった
何故解決してやらない?
何故あんな表情をする名前を放っておける?
「....あいつが自分で気付くべき事だ、俺が手出しをするつもりはない」
「そんな事言って、このまま改善する前にまた悪化したらどうするんだ!」
「なら今あいつに教えて混乱させ、色相を濁らせる方がいいと言うのか?」
「....どういう意味だ」
「あいつが今自分で理解出来ていないものを無理に理解させる方が酷だと言っているんだ、分からないのか?」
その言葉に俺はまだ吸い始めたばかりのタバコを押し潰した
「どうしてお前はいつもそう回りくどい事をするんだ!」
「自分勝手に己の感情しか考えていないのはお前の方だろ!名前に告白をしたのも、プロポーズをしたのも、それがあいつにどんな影響を及ぼすか少しでも考えた事があるのか!」
「どんな事があっても責任を取る覚悟は出来てる、あいつが俺を選んでくれるなら俺は
そこで俺を遮ったのはギノのデバイスの着信音だった
「....どうした、唐之社」
『市民からの通報よ、男女が喧嘩してるって』
「はぁ....どうせ痴話喧嘩だろ」
確かに犯罪が起こらない前提のこの街で、人々が通報する案件は正直くだらないものばかりだ
『どうする?弥生ならここに居るけど連れてく?』
「いやいい、俺と狡噛で行く」
『了解、アドレス送るわね。ついでに防犯カメラで状況確認しておいた方がいいかしら?』
「構わん、どうせ大した事じゃない」
『じゃあ私はランチでも行って来るわ』
通話を終了したギノはオフィスにレイドジャケットを取りに戻った
そこからエレベーターで地下駐車場まで降りて行くのを俺はただ犬のように追いかけた
ギノが運転席に、俺が助手席に乗り込むとすぐに走り出した車の中で、唐之社から送られて来た住所をナビに設定する
「ショッピングモールか、人が多そうだな」
「今日は休日だ、名前も買い物に出掛けると言っていた」
「何を買うつもりなんだ?」
「そこまで知るわけないだろ」
それもそうかと、サイドミラーで後ろに続くドローンを眺める
ナビを設定したのにオートドライブにしないギノは、効率を重視する性格そのままだ
「もうすぐ新任監視官が来るんだろ?」
「あぁ、もう4人の執行官を一人で携えなくて済む。お前らはすぐ勝手な行動をする」
「どんな奴なんだ?」
「常守朱、訓練施設を主席で卒業したそうだ」
「ほう?女でそこまでやるとはな、期待値が高まるな」
「......」
「....なんだ」
途端に黙り始めた監視官を見ると、少し険しい顔をしていた
「どうしたギノ」
「.....絶対に名前を裏切るな」
「....は?俺が心変わりすると思ってるのか?」
「少なくともあいつはそう心配していた」
「....よっぽど信用されてないんだな」
どうしたら名前にこの気持ちの全てが伝わる
もどかしい
散々言葉でも行為でも伝えて来たはずなんだが、まだ姿すら見たことのない新しい監視官に負けるとあいつは未だ思うのか
そう考えれば考える程、今すぐにでもまた強くこの想いを注いでやりたい衝動に頭が眩む
「ここか」
車を降り、ドローンに指示を出すギノと共に目的地である3階へ向かう
思った通り人が混み合う中を、コミッサちゃんのホロを纏い進んでいく
「様子を見て必要ならスタンバトンで取り押さえる」
コミッサちゃんの声で紡がれたギノの言葉に少し吹き出しそうになったが、今は俺も同じだ
お互いドミネーターは念のため携帯しているが、ただの男女の喧嘩なら必要無いだろう
「あー!コミッサちゃんだ!」
「写真撮ってもいい?」
そう駆け寄って来た子供2人の要求に応じようとしたが、
「おい、仕事が先だ」
と掴まれれば仕方なく、“今忙しいんだ、また後でね”と精一杯のコミッサちゃんらしい口調で諭した
エスカレーターで3階にたどり着くと、すぐに聞こえて来た言い争う声に俺達は唖然とした