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「....こ、狡噛と宜野座...?」
目の前には同級生だったという男
背後にはギノの腕の中で嗚咽を交えながら声を上げて泣く名前
周りは争い合う2人が夢中になっていた隙にドローンで封鎖したため、この男に逃げ場はない
「な、何なんだよその女!急に掴み掛かって来やがって!お前らの知り合いか!?」
....そういえば俺がギノと名前と出会った原因が、ギノが絡まれてる現場に遭遇したからだ
あの日その時のその場にこの男が居たかは分からないが、少なくともそういう経験はあるという事だろう
「....ギノ、名前はどうだ」
「....ドローンによると手首に軽いアザ、肩に打撲と口内を少し切っている」
腰からドミネーターを引き抜き男に向ける
「なっ!おい!何するんだ!俺は潜在犯じゃないぞ!」
“犯罪係数オーバー110、執行対象です”
「残念ながらシビュラはお前を潜在犯と認定した」
「....は?そんな....そんなはずない!」
「嘘じゃない」
見る見る内に青ざめていく男の顔
「.....た、助けてくれよ狡噛!俺達同級生だろ!?」
「らしいな、俺は覚えてないが」
「頼む!頼むよ!助けてくれ!」
「頼む相手が違うな」
「....え?」
「お前の運命は今ギノが握ってる、俺に助けを乞うても無駄だ」
「....ど、どういう事だよ....お前は学年1位であいつは潜在犯の息子だろ?」
「だからなんだ。だから俺が潜在犯じゃないと思ったのか?」
「.....狡噛お前...まさか....」
「あぁ、俺はお前が言う“潜在犯の息子”の部下だ。あいつに吠えろと命じられれば“ワン”と鳴くただの犬だ」
焦りと驚きに満ち歪んだ表情をする男は、ゆっくりと俺から目線を外した
「お、おい宜野座!お前が俺をつ、捕まえてもいいと思っ
「黙れ」
そう冷たく切り返したギノは男と顔すら合わせない
「助けを乞う前に、言うべき事があるんじゃないのか」
「っ!その女が先に仕掛けて来たんだよ!俺は何も悪くない!だいたい俺の色相が濁ったのはそいつのせいだ!....そうだ狡噛、その女も絶対潜在犯だ!確かめてみろよ!」
「.....ギノ」
「.....名前は大丈夫だ、俺が保証する」
「....念の為確かめるだけだ」
ギノの明確な根拠が無い言葉に、やはり自分の目で確かめたいとドミネーターを向ける
“犯罪係数80、執行対象ではありません。トリガーをロックします”
赤い光を放つ銃に俺はほっとしたが、シビュラ無しにそれを自信を持って言い当てたギノに劣等感を感じた
「ど、どうだ!俺と同じだろ!」
「....お前は救いようが無いな」
この期に及んでまだそんな事が言えるのかとむしろ感嘆する
お前の運命はあいつ次第だと言ったのに、それが受け入れられないんだな
一方でギノも冷静でいるように見えて、本当は限界寸前なのは高校時代からの仲の俺には明白だった
そしてそれは俺もまた同じだ
「なぁギノ、こいつはもう逃げられない。執行しなくてもいいだろ....“身柄確保”の許可をしろ」
そう聞くと、少し落ち着きを取り戻して来た名前の顔を上げさせたギノ
「....名前、いいか」
その質問に今回の対象は、これまでにない程哀れだと気付く
頼れると思った俺は潜在犯で、虐めていたギノに命綱を握られている事に驚愕するだけには止まらず、ギノはそんな自分が持つ命綱を名前に託した
周り回って自分で自分の首を締め上げていた、本当に哀れな男だ
ギノの問いに暫くして、名前は小さく頷いた
「.....狡噛、対象を“確保”しろ」
俺は大きく息を吸い込んだ
格闘用ドローン以外を相手にするのは久しぶりだ
「お、おい、狡噛、待てよ....狡が
男の右頬に思い切り拳を押し込んだ
....何本か歯をやってしまったか?
「今のは名前の分で、次はギノの分だ。舌噛まないように歯食いしばっとけよ」
「おい待っ
衝撃に崩れ落ちた男の髪を掴み無理矢理頭を上げさせる
「まだ終わりじゃないぞ」
「ま、待て、頼、む....おい、宜野座!謝る!謝るか
「聞いてなかったか?あいつの分はもう終わった」
「助け...助けて、くれ...狡が
「よくも名前に傷を付けてくれたな」
「な、何の、話、だ」
「最後は俺からだ、殺さないだけ感謝しろ」