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「おいおい、本気かぁ?」

「なにそれ?お父さん知ってるの?」

「....俺が若い頃はまだ流行ってた遊びなんだがな....まさか名前とコウにやらせるってか?」

「こういうパーティーでは定番っしょ?」

「まぁそうだが....俺は顔を伏せとくよ」

「で、なんなの?そのポッキーゲームって」

「名前ちゃん、そのポテト一本取って端っこ咥えてくれる?」



秀君に言われるがまま咥えるも、少し歯に力を入れれば折れてしまいそうだ



「本当はポテトじゃなくてポッキーってお菓子を使うんだけど、長ければ何でもオーケー!じゃ名前ちゃんそのまま動かないでよ?」


私の反対側に座る秀君は、テーブルの空いてるところに手をついて身を乗り出.....


「っ!?えっ!」

「なっ、縢!」



突然の事に驚いて、ポテトを落として....しまったのではなく秀君が美味しく食べてる....


その一瞬の出来事に驚く者と、目を輝かせる者

.....後者は唐之社さん



「何だ今のは!」

「怒んないのコウちゃん!今度はコウちゃんの番だから!ホントは名前ちゃんがすぐ離しちゃうんじゃなくて、二人が同時に端から食べ進めて、真ん中でチューしちゃうかも?ってゲーム」

「いいじゃない!ほらほら、名前ちゃんと慎也君これ咥えて!」



ものすごく乗り気な唐之社さんは、既に長めのポテトフライを見つけ出しその手に持っていた



「む、無理ですよ!そんなの!」

「あら、キスくらいしてるでしょうに」

「そういう問題じゃ」

「それは普通にキスするのじゃダメなのか?」

「.....え?」



衝撃的な事をさらっと口走ったのに驚いて隣を見ると絡まる視線



「いやいや、普通そっちの方がハードル高いっつーの!」

「私はそれでも大歓迎よ!」

「か、唐之社さん!ダメですよ、私絶対やりま

「俺達全員の前でギノにはキスしておいて、俺はダメなのか?」



そう私を真っ直ぐ見つめるのを横顔に感じ、どうしてもそちらに向けられない



「.....いや....それは、その.....」


伸兄は別だ
と言えない

どう別なのかと聞かれてしまったら、上手く答えられなないからだ





「....っ!」

そんな緊張した空気の中で、響き渡った私のデバイスの着信音

その相手は今丁度話題に上がった人物



「な、なに?」

『何じゃないだろ!今どこにいる!』

「えぇっと....」


私の正面で必死に首を横に振る秀君


「.....し、食堂」

『.....名前、もう一度だけ聞く。どこにいる』



....ダメだ、嘘が通じない

小さく息を漏らした唐之社さん



「.....あの、し、



秀君が顔の前で手を合わせている

....でも無理だよ....騙せない






「しゅう....、っ!え!待っ






いきなり横から伸びて来た二つの手が、私の顔を掴んで唇に自らのを重ねた


あまりにも急な出来事に目を見開き身体が動かない




視線を絡ませたまま私の手からデバイスを抜き取る狡噛さんに、頭が真っ白になる





『.....名前!答え

「知ってどうするんだ」



挑発的な言葉を返した狡噛さんは私の焦りを増幅させた



『....狡噛....』

「名前なら無事だ、何も無い。名前だってもう立派な大人だ。どこで何をしていようがお前には関係無いだろ」

「なっ、違うんです!今日元々一緒にカウンセラーに行くって約束を....」

「カウンセラーなら俺が連れて行ってもいいだろ?」

「....それは....」



....確かに必ずしも伸兄と行く必要は無い



『名前、すぐにそこを離れる準備をしろ。それから、狡噛含めそこにいる執行官共。貴様らには俺が握っている首輪がかかっている事を忘れるな』




そう一方的に通話が切られると、狡噛さんからデバイスを受け取った







「.....大胆な事したな、コウ。あの様子じゃあいつは大分怒ってるぞ」

「.....私キュンキュンしちゃったわ!慎也君もやる時はやるじゃない!」

「志恩、テンション高いのはあなただけよ」

「あら、弥生嫉妬しちゃったかしら?」

「おい志恩、俺“も”やる時はやるとはどういう意味だ」

「あぁもうデータ消しちゃったんだけど、あの超真面目な監視官のギャップがすっごいのよ!アレだったら私抱か

「志恩、そこまでよ」

「え?あっ!」


何かに気付いたように口元を押さえる唐之社さん
....それにしても、超真面目な監視官って伸兄の事だよね?


「....それ、何の話ですか?」

「な、何でもないわ!忘れてちょうだい!」


分かりやすい苦笑いをしながら手を振る唐之社さんの横で、表情を変えない六合塚さん









その二人以外の皆が、意味が分からないという様な顔をする中、突如扉が開く音に全員がそちらを向く










「ぎ、ギノさん!」






問答無用に近付いてくる姿に、慌てて荷物を纏める




「ちょ、ちょっと待って!すぐ終わ



私の話を聞いていないのか、腕を掴まれ無理矢理立ち上がらされた


「ねぇ!」



あぁ....絶対不機嫌だ....



そのまま歩き出して私を引こうとする力に、急いでもう片方の腕をカバンに伸ばした





「...えっ」

ギリギリその取手を掴んだ私の手首に、また別の掌から伝わる体温









「.....いい度胸だな、狡噛」


歩みを進められない私に気付いたのか、こちらを振り返った伸兄が放った声に背筋が凍りつく

刺す様な威圧感に、私ですら萎縮する


「お前こそ、こんな場で主役を連れ去るのは常識はずれじゃないのか?」

「潜在犯が常識を語るのか?笑えるな」


そう言う伸兄は全く笑ってない





「.....伸兄、やめて。落ち着いて」


私を見下ろす視線は鋭く私を貫く




「.....狡噛さん、その、離してくれると嬉しいです.....」


申し訳ない気持ちを込めて、反対に狡噛さんを見上げると、優しく“分かった”と言って解放された





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