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電車で帰りまずはダイムの世話をしてシャワーを浴び、部屋着に着替えるともう11時だった


未だ帰らない家主を待とうと、テレビをつけてソファに転がる
名義も水道光熱費等の支払人も“宜野座”であるこの家で私は論理上はただの居候

そんなここを引き払って引越したいかどうかを、私にとっては短かった入院が終わった後伸兄に聞かれた
現状から分かる通り私の答えは”ノー“で、そもそも入院していた間に引っ越さなかった伸兄の考えも明らかだった


映像と音声がシンクロして流れるテレビ画面は、内容を全く私に伝えて来ない

....と言うより考え事が多過ぎて、脳がこれ以上取り込めないでいた

もうしばらく一時も忘れた事が無い狡噛さんの件や、伸兄の犯罪係数については一回置いとくとしても、新たに追加された”気になる事“


常守...朱さん、だったかな


伸兄のあの様子だと相当”やらかした“みたいだけど、ドミネーターは照準を合わせる事以外はシビュラ任せなはず

....何したんだろう

逆に初日からやらかしちゃうなんて、ちょっと可愛そう....
伸兄キツい事言ってなければいいけど....



「あ、ダイ、うっ....」

いきなり、ソファに寝転ぶ私に飛び乗ったダイムの重量に一瞬苦しさを覚える

そのまま私の胸の上で前脚を揃えて頭を乗せたダイム

「構って欲しいの?」

私はテーブルの上のリモコンに手を伸ばし、完全にバックグラウンドになっていたテレビを消した

そのままふさふさした体を抱き締めれば、顔を舐められて思わず反射で避けようとした




「ダイム....私どうしたらいいのかな....」


そんな事ダイムに聞いてもしょうがないのに


「ワン!」

「ん?まさかダイムまで自分で考えろって?それはやめてよね」


そう冗談めかしく言うと、すぐに聞こえてきたのは玄関が解錠される音

その方向に駆けて行ったダイムに私もソファから降りた







「おかえり」

「まだ起きてたのか」


その様子はやっぱり機嫌が悪そうだった


「何があったの?」

「ダイムはもう食べたか」

「え、うん、帰って直ぐあげたよ」


私の質問をまるで無かった事かの様に無視してジャケットを脱ぎながら自分の部屋に入って行くのを追いかけた




「ねぇどんな人だったの?常守さん」

「....未熟過ぎる」

「初勤務だったんでしょ?それは仕方ないよ」


着替え出す伸兄を背にしてベッドに腰掛ける


「それで?常守さんは何をやらかしたの?」


返答が聞こえない沈黙の間


「....ねぇ聞いてる?」

「....聞いている」

「じゃあ無視しないでよ。何があってそんなに不機嫌なの?....って、ちょっと!」


バスタオルと共に部屋を出て行こうとする姿に慌てて立ち上がる


「待ってよ!」


閉まろうとする浴室のドアを無理矢理押せば、さすがに力を込めて来ない


「はぁ....離せ名前」

「教えてよ!教えてくれたら離すから!」

「明日自分で確かめればいいだろ!」

「今知りたいの!何でそんなに勿体ぶってるの?」

「.....」

「....まさか狡噛さん?狡噛さんに何かあったの?」

「いいからもう寝ろ!俺は明日非番だが、お前は仕事だろ」

「伸兄!お願い!」


静かになった様子に、話してくれる事を確信する






「....常守監視官が狡噛を撃った」

「....え?」


狡噛さんを撃った?
狡噛さんが撃たれた?


「それだけだ」

「あ、ちょっ、待って!ねぇ!」


動揺している隙に締め切られたドアの向こうで早速漏れ出すシャワーの音

私はその場に立ち尽くす



....どういうこと?
常守さんが?
狡噛さんを?
撃った?
ドミネーターで?

....”それだけだ“って事はパラライザー、だよね....?
エリミネーターだったら”それだけだ“じゃ済まないし

どうして?
どうして狡噛さんを撃ったの?
問題行動を起こすような人じゃないのに

初めての現場で緊張して操作ミスをした?
意図的....ってことは無いよね?


疑問だらけなのに、今唯一それを解決してくれる人物はきっとこれ以上答えてくれない

もう今は為せる事が無いと察し、ゆっくり自室に戻る






明日刑事課に行けば全部分かるのかな

常守さんに会えるのかな

....会ってどうする?

撃ったことを怒る?

何の関係もないただの人事課職員の私が?



「あぁもう....」


頭がパンクしそうだ

どんな人なのか気になり、狡噛さんがその人に心移りする事を心配した結末が、勤務初日に狡噛さんが撃たれるなんて

予想外過ぎて、もう何が何だか分からない





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